お祭り〜 中編 〜 |
|
あたし達は祭りの夜をそぞろ歩く。 人混みは辟易だがあたしはこの雰囲気が好きだった。 町中がざわめき、笑顔が溢れ、そこかしこで景気の良い掛け声。 いつもは騒がしいだけの子供の声もこの時ばかりは気にならない。 街中を取り巻く祭りの活気にあたしの気分まで浮き立ってくる。 筈なのだが・・・ ぶっすー あたしは仏頂面でガウリイに手を引かれていた。 だって今日のガウリイは絶対おかしい。 上機嫌で辺りを見ては一人でニヤニヤして。 それも何だか綺麗な女の人ばっかり見てる気がする。 おまけにずっと上の空で数回呼んでやっと気が付くと言う始末。 ぼーっとしてるのはいつものことだけど、それにしても酷い。 相変わらずあたしの手をしっかりと握っているけど、心ここにあらずって感じ。 ほらまた綺麗なゆかたの女の人に視線が行った・・・ ・・・あたしも一応ゆかたを着てるんだけどなぁ・・・ やっぱりガウリイは大人な女の人の方が好きなんだろうか・・・ 考えれば考えるほど気分がずーんと沈んできた。 あぅ、これじゃダメだ。 せっかくのお祭りだもん。 こんな気分のままいるのイヤだし。 丁度屋台が並んでいるから食べ歩きでもしてガウリイと騒ごう。 うん。そうしよう。 「ねぇ、ガウリイ?」 あたしは前を行くガウリイの背に声を掛けた。 しかし、と言うか、やっぱり、と言おうかガウリイからの返事はない。 ムカ――― 思わずスリッパで頭を叩いてやろうかと思ったが、生憎手元にスリッパは無かった。 怒りを抑えて、もう一度声を掛けた。 「ガウリイってば!」 今度は繋いでいる手も引っ張って注意を促す。 だが引っ張った手は何の抵抗もなくガウリイの手の平からするりと抜けてしまった。 あ・・・ ガウリイは立ち止まってしまったあたしに気が付かないまま、どんどんと一人で進んでいく。 「ガウ・・・」 手を伸ばそうとしたその間にカップルが割り込んできた。 カップル達はお互いしか見えていないように、小さな声で囁き合いながら肩を抱き合い歩いていく。 周りを見渡せば、誰も彼も楽しそうに笑い合っている。 ガウリイはまだ気づかない。 ・・・・・・・・ 「ガウリイのバカッ!!!」 突然の大声にガウリイのみならず周りの人がみんな振り返るが、あたしはもうその場から走り出していた。 「リナ?!」 後ろからガウリイの慌てた声が聞こえたが、ガウリイなんてもう知らない! 方向なんて人波で分からない。 ただ、闇雲に走る。 ガウリイから離れられれば、それで良かった。 男性客の手を避けてカップルの間に割り込み女性客をかき分け親子連れの脇を通り過ぎる。 走って走って走って・・・ 気が付けば、人気のない場所へと迷い込んでいた。 街外れなのは間違いないみたいだが、ここ、何処だろう。 方向がすっかり分からなくなっていた。 遠くからはお囃子と人の掛け声がかすかに聞える。 楽しそうな声。 あーもう、なにやってるんだろう。あたし。 ガウリイがクラゲなのはいつものことなのに。 いつもなら呪文でガウリイを吹っ飛ばして終わりなのに。 今までこんな事したこと無いのに・・・ それと言うのもあいつが・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・取りあえず宿に戻ろう。 だが歩き出そうとしたあたしはその場に立ち止まってしまった。 「痛っ・・・」 さっきまでは走るのに夢中で気が付かなかったけど、下駄の鼻緒の所から血が出てる。 あたしはその場にしゃがみ込んで傷に触れる。 指にぬるりとした感覚。 痛い・・・ 痛い、よ、ガウリイ・・・ 続く |
|
2001/8 ← 戻る 進む → ← トップ |