お祭り〜 後編 〜

賑やかなお祭りの夜だというのに、あたしは一人ぼっち。
おまけに足は怪我をするし。
なんでこんな事になるんだろ。
下駄に擦れてしまった箇所がじくじくと痛む。
あたしは手を翳し呪文を唱えた。
「・・・リカバ・・・」
「リナ!」
っ!?
慌てて立ち上がれば、今一番会いたくて会いたくない姿。
カランカランカラン―――
夜の空気に2種類の下駄の音と息づかいが絡む。
「リナ!!」
「やだぁ!」
数メートルと行かず、あたしはガウリイに捕まえられた。
掴んでくるガウリイの手は強くて熱くて・・・
「離して!」
パシッ。
「あ・・・」
あたしの振り回した手がガウリイの頬に当たった。
赤みをます頬。
「ご、ごめ・・・」
「いい、大丈夫だ。
それよりちょっと移動しよう。
そうだな・・・あそこがいい」
辺りを見渡したガウリイはあたしが何か言うより早く、あたしを抱き上げ歩き出す。
多分、この近所の人が涼を取るために用意したものだろう。
少し林の中に入った所に東屋の様に木の下に小さなテーブルとベンチがちょこんと置いてあった。
森や林特有のひんやりとした空気が、汗ばんだ身体を冷やしていく。
ガウリイはあたしをベンチに降ろすと、その前に立ちはだかった。
「どうしてオレの前から逃げだしたりしたんだ?」
「・・・・・・」
「オレが何かしたのなら言ってくれよ」
「・・・・・・」
ガウリイはくしゃりと髪をかき上げるとため息を吐き出した。
「なぁリナ、オレはクラゲだからちゃんと言ってくれないと分からないだろ」
「・・・・・・」
言えるわけ無いじゃない。
こんな事・・・
いつからこんな風になっちゃったんだろう。
ガウリイの視線一つ、笑顔さえも他の人に渡したくないなんて。
ガウリイの背中や、女の人に見せた笑顔なんかが頭の中をグルグル回る。
「・・・それともオレのことがイヤになったのか?」
俯いたあたしの耳にガウリイの低い低い声が聞こえた。
顔を上げればあたしを怒ったように見下ろす瞳があった。
・・・何よ。
だんだんと先ほどまでの怒りが蘇ってきた。
何であたしが怒られないといけないの??
怒ってるのはあたしの方なの!
あたしは怒りにまかせて、ガウリイを押しのけて立ち上がる。
「それはガウリイの方でしょ。
奇麗な女の人ばっかりみてデレデレして。
何度呼んでも上の空だし!
あたしと居ても楽しくないんでしょ?
だったら無理して付き合ってくれなくてもいいわよ。
さっさと大人の女の人の所へ行っちゃいなさいよ!
あたしならすぐにでも別れてあげるからっっ」
一気に捲し立てたあたしはゼイゼイと肩で息をする。
そんなあたしをガウリイは何も言わずじっと見ている。
・・・終わりね・・・
あたしはベンチに倒れ込むようにして座ると今度は静かに口を開いた。
「お願いだから、さっさと行ってよ。
あたしをこれ以上惨めにさせないでよ・・・」
「・・・本当にリナはかわいいなぁ・・・」
へ?
ぎゅ〜〜〜〜〜〜〜
気が付けばガウリイにきつく抱きしめられていた。
ちょっと待てぇい!
「何してるのよっ」
「リナを抱いてる」
「そーいう意味じゃない〜〜〜〜」
じたばたじたばた。
必死でガウリイの腕から抜け出そうとするが、腕の力は一向に弱まらない。
それどころか、あたしの質問にしゃあしゃあと答えたガウリイは益々腕の力を込めてくる。
「暴れるなって。全部誤解なんだから。
あれは、リナが一番可愛いな。って考えてただけで他の女の事を考えてたわけじゃないぞ。
確かにぼーっとしてたのは悪かったけど・・・」
「・・・・・・」
じゃぁ、何?
あれは・・・
理解した途端、全身がカッと熱くなってきた。
「リナが嫉妬してくれるなんてオレは嬉しいぞ♪」
「だ、誰が嫉妬してるのよ!!」
耳元で囁かれる声に強がっては見ても、みっともないほど上擦った声しか出てこない。
悔しい〜〜〜
藻掻くあたしを拘束する腕の力が緩み、ひょいと顔を覗き込まれた。
「オレがリナ以外に惚れる訳ないのにな」
口調は冗談めかしているが、ガウリイの瞳は真剣で・・・
「―――どーだか・・・」
あたしはぷいと顔を逸らした。
あたしの顔、絶対絶対。赤くなってる。
「大体ガウリイが悪いのよ。
恥ずかしいことばっかり言ってないで、態度で示しなさいよね」
「態度、で示していいのか?」
ガウリイの言葉に含まれる微妙な間。
はっ・・・
「いや、それは普段の態度って事で・・・」
「うんうん」
深く頷くガウリイの目が怪しく光る。
ちょっとさっきまでの真面目な顔はど〜したのよ〜〜〜
「いや、だからちょっと・・・」
慌てたあたしはしどろもどろに言い訳を口にするが今更もう遅い。
「態度、で示せば良いんだよな」

















「愛してるよ。リナ」
耳元で囁き・・・いや、囁きと言うには大きすぎる声。
ああっ。
視線が痛いっ。
何ともなればあたし達は今、大通りのど真ん中を歩いている。
そこへもって、調子に乗ったガウリイが所構わずあたしの肩や腰を引き寄せて『綺麗だ』だの『愛してる』だの 周りに聞えるように言うもんだから・・・
おやじどもは無責任にガウリイを応援するわ、野次は飛ぶわ、黄色い悲鳴は上がるわ・・・
ハッキリ言ってさらし者状態。
逃げるように移動するあたしに合わせてガウリイは勿論、周りの人間も移動するに至って、本気で目眩がした。
そんなあたしをガウリイが『大丈夫か?』何て声を掛けながら、さり気なく抱き寄せる。

ああ、もぉ・・・

こんな事なら大人しくガウリイに手を引かれていれば良かったと幾ら後悔した所で、これぞ・・・



『後の祭り』だった・・・





えんど♪

2001/8


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