Everyday 〜Act6〜 |
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二人を乗せた車が夜の街を走る。 遙か後に遠ざかる屋敷。 車外の流れる景色に目を向け、それでも屋敷を振り返ることはしない。 唇を引き結んだ顔が窓に映る。 車の小さな振動に赤い瞳が揺らいで見えた。 程なくして車が街の中心にさしかかった頃、やっとリナがゼロスに目を向けた。 ドアは運転席からロックされておりどうする事も出来ない。 それが狭い車内に閉じこめられても怯える風も無い。 燃える瞳、凍れる声で問いかけてきた。 「で、あたしに何の用? ごろつきまで雇ってあたしみたいな小娘を追いかけ回して」 「突然失踪した社長を心配するのも副社長として当然の事じゃないですか」 「御託はいいわ」 「では、要点だけ。 あなたもわかってらっしゃるでしょう? 例のモノを返していただきたいんですよ」 問う方も返す方もまともな会話を望んではいない。 自分のカードをいかに晒さず、相手のカードを読みとるか。 読み間違えれば身の破滅。 しかし相手の手持ちは無い。 自分の優勢は覆らない。 「何を勘違いしてるかしらないけど、あたしは何も持ってないわよ」 「ええ、今は・・・ね」 カードを一つ捲ってみせる。 「頭のいいあなたが手元に置くとは思えない。 どこへ隠されました?」 「・・・あたしをどこへ連れて行くつもり? これはもう犯罪よ」 こちらの問いには答えず、話を変える。 それはゼロスの考えが正しいことを認めていた。 否定をしないのはするだけ無駄と互いに知っていたから。 ゼロスが少女を逃がすつもりのない事も。 「あなたが自分の意志で来てくださったら、犯罪にはならないでしょう?」 「自分の意志?冗談じゃないわよ」 「おやおや、僕達はパートナーじゃないですか。 社長を助けるのが副社長の仕事でしょう。 もう少し心を開いてもらえないですかねぇ」 リナが目一杯の軽蔑を込めて吐き捨てる。 「平気で人を拉致する様なやつは信用できないわね」 「これは手厳しい。 僕も好きでこんな事をしてる訳じゃないんですよ。 アレが無いと僕としても困るんですよ。 それにしても・・・」 ふむ。 ゼロスは考え込むように顎に手を当てた。 「僕としても女性に乱暴するのは好きじゃないんですが・・・」 「好きじゃない・・・ね・・」 苦々しげに呟く少女。 本人は皮肉のつもりだろうが、それは取りも直さず少女が自分の立場を弁えている証拠。 だから頭のいい人は話が早くて好きですよ。 でもあなたは聡すぎる。 僕の障害になりえる程に。 たかが小娘一人と放って置いたのがまずかったのか、こちらの計画をどこからか嗅ぎつけ 肝心なものを持って逃げ出した。 彼女の姉に連絡されればやっかいなことになる。 必死で追いかけさせたがそれも無駄に終わった。 さすがの僕も駄目だと思いましたがね。 姉に連絡するには少女のプライドは高すぎたらしい。 そして思いがけない情報。 天は僕の味方ですね。 心の中で呟いて、ゼロスは友好的な笑みを浮かべて見せた。 「不本意ながらあなたの態度次第ではどうなるかわかりません。 今のうちに大人しく渡していただけませんか?」 「情報の見返りは地位と報酬?」 「ええ、そうですよ。 僕を社長とした会社を設立してもらう事になってましてね。 あなたにとっても悪い話じゃ無いでしょう? 僕が消えれば会社はあなたの手に戻ってくるのですよ?」 悪魔がするようにリナに囁く。 「もし断ったらどうするつもり?」 「どうもしません。が。 あなたの気が変わるまで付き合っていただきましょうか。 何、あなたが例のモノを返してくれたらすぐに解放して差し上げますよ」 「・・・」 「おや、着いたようですね」 国内でも一流と言われるホテルに車が入っていく。 車が正面玄関に着くと同時に数人の男達が寄って来た。 さり気なく車を囲んで立ち近寄ってきたボーイを手で追い払う。 時間が時間だけにロビーにも人影は無い。 居るのはボーイとフロントの受付だけ。 走り出したとしても3歩も行かないうちに捕まるだろう。 「怖いですか?リナさん」 「誰がよ」 「それでこそリナさんです」 ゼロスは車から降りるとリナに手を差し出した。 「お手をどうぞ」 リナはその手を取ることなく、車から降りた。 |
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2000/12-2001/1 ← 戻る 進む → ← トップ |