Everyday 〜Act5〜 |
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時計が0時を打つと同時に皆グラスを掲げ新年を祝った。 仕切りを取り払い壁を飾り付け、テーブルには花を飾ったそこは立派な立食形式のパーティー会場になっていた。 年に一度、いつもは3人しか居ないここの人口が一挙に膨れ上がる時。 ガブリエフ一族縁の者が集う新年の宴。 いつもは姿を晦ませてしまうガウリイの姿もその場にあった。 ホストの役目はすっかり放棄していたが、引きも切らさず挨拶の声が掛かる。 腹のさぐり合いや、下心。 取り繕った表情。張り付いた微笑み。 それらに囲まれて、立っていたガウリイは人波の向こうにある人物を認め微笑んでいた。 無意識の内に視界に入れてしまう人物は濃紺のワンピース姿で立っていた。 明るい笑い声と華やかな装い。 女三人が集まったそこはこことまるで違う世界のよう。 「失礼」 取り囲む人々に一応断りを入れると、大股で近づいていく。 呆気にとられた顔が彼を見送ったが関係なかった。 「あ、ガウリイ」 弾むような声が彼を迎え入れた。 いち早くガウリイに気づいたリナが笑顔で挨拶をしてくる。 「おめでとう」 「ああ、今年もよろしくな」 「・・・うん」 ワシワシと頭を撫でたリナの笑顔にフッと翳りが落ちる。 「どうしたリナ?」 「ううん・・なんでもない。 あ、ゼル。ルーク。おめでとー」 不審気なガウリイの視線を遮るように集まってきた二人に挨拶をする。 ガウリイ同様に挨拶責めにあっていたらしい。 見合わせた顔に苦笑が浮かんだ。 「ゼルガディスさん!おめでとうございます!」 「ああ、おめでとう」 「ミリーナ、おめでとう」 「・・・おめでとうございます」 一気に揃った顔ぶれにリナが陽気に声を上げた。 「さー、騒ぐわよ!」 「ゼル、ルーク、こいつを外の風に当ててくるから後を頼む」 ガウリイは赤い顔のリナを小脇に抱え、二人に声を掛けた。 「らいじょおうぶよぉ・・・」 ゼルガディスがろれつの回っていないリナにやれやれと首を振った。 「大丈夫か?」 「ああ、風に当たれば酔いも醒めるだろう」 悪いなと手を振ってガウリイはリナを外へと連れ出した。 「ガウリー。雪だよ」 ガウリイの腕を振りほどいてリナは庭へ走り出す。 「キレーね」 慌てて追いかけるガウリイの前で空を見上げた小柄な影がクルクルと回る。 「転ぶぞ」 「大丈夫だもーん」 薄着のままはしゃぐリナに声を掛けるが、振り返りもしない。 屋敷を照らしていたライトがフワフワと踊るリナと雪を浮かび上がらせる。 思わずガウリイはリナの手を掴んでいた。 「なによ、ガウリイ」 「いや・・・」 口をとがらす仕草がやけに子供っぽく見えた。 そのくせ潤んだ赤い瞳から目が離せない。 まさか、消えてしまいそうに見えたとも言えずガウリイは言葉を濁した。 「お前、飲み過ぎだぞ」 「ちょっとだけよ。 あたしだって飲みたくなる時ぐらいあるわよ。 それにいいじゃない18だもん」 「―――リナさんはまだ17でしょう?」 弾かれたようにリナが振り返った。 上気していた頬が見る見るうちに白くなり、赤い瞳に理性が戻る。 「―――ゼロス! あんたどうしてここが・・・」 「どこから入ってきた?」 驚愕も露わなリナを背後に庇ってガウリイは男を睨み付けた。 セキュリティーには金を掛けてあった。 うろんな者など簡単に入る余地もない。 「ちゃんと入り口から入らせていただきました。 ある方にお願いして、ね。 今日はお客様の多い日で助かりました。 さすがに屋敷の中には入れませんので、どうやって出てきてもらおうかと思っていたんですが。 リナさんがご自分から外へ出てきていただいて嬉しいですよ」 肩口で切りそろえられた髪を揺らして、男が手を差し伸べた。 「さ、リナさん帰りましょう。 あなたはここにいていい人物じゃないことくらい分かってますね?」 「・・・」 「騒ぎはお互い遠慮したいでしょう?」 後に庇っていたリナが男に向かって歩き出した。 「リナ!?」 ガウリイはリナを引き留めようと腕を伸ばす。 その手は既で止められていた。 「僕の邪魔をしないでくれませんか?」 「お前こそ邪魔するな」 「ふむ、困りましたね。 僕はリナさんに用があるんですよ」 言い方こそ物柔らかだが目は笑ってはいない。 「そうだ、いいことを教えて上げましょう」 「やめてゼロス!!」 悲鳴のような制止が掛かるが男は続ける。 「彼女のフルネームは、リナ=インバース。 あなたのライバル会社のインバース・コーポレーションのご令嬢ですよ」 いつまで立っても戻ってこない二人の様子を見に来たゼルガディスは庭でガウリイを見つけた。 肩にも頭にも雪がかかり立ち尽くすその姿は雪の像のようだった。 リナの姿はどこにもない。 「ガウリイ?」 「あいつ――― オレと目を合わせ様としなかった・・・」 雪の積もった庭にポツリと呟きが漏れた。 |
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2000/12-2001/1 ← 戻る 進む → ← トップ |