Everyday
〜Act4〜


「出しゃばったまねを致しました」

ドアが閉まった途端リナは深々と頭を下げた。
会議などは勿論ない。
秘書は個人の事情に踏み込むべきではない。
今でもそう思っている。
ただ我慢できなかっただけで。
自分でもどうかしてるとしか思えない。
完璧にたたき込まれたマニュアル通りに行動できなかったのが不思議だった。
この蒼い瞳の前では調子は狂いっぱなしだ。

「気にするな。いつものことだ」

ガウリイは微かに笑うとイスへ腰掛ける。
先ほどまでの様子は影を潜め今はいつもの、リナを困らせてばかりいるものに戻っていた。

「しかし・・・」

もうそれが全てではないと知ってしまった。
噂は聞いていた。
この世界に居れば否応もなく耳にする噂。
父親の死後、庶子である息子が社長夫人を追い落とした。
重役を半数以上味方に付けての交代劇。
その手腕。
だが実際本人に会って噂と違いすぎるので驚いた。
どう見てもそんな風には見えなかったから。
脳天気に騙された。
飄々と生きている、と。
そんな人間など居ないのに。

「わかった。そんなに気になるなら・・・」
何を思ったかガウリイはニヤリと笑うとリナを手招きした。
「こいよ」
どうしようかと迷ったあげくリナは恐る恐るガウリイに近づいていく。
「何をしたら・・・
うきゃあ!」
急に腕を引かれガウリイの上にのし掛かるような格好になった。
「オレのこと慰めてくれよ・・・
キスもすませた仲だ、いいだろ?」
蒼い瞳が近づいて来る。
「いいわけあるかぁ!」
気がつけば手にした手帳で金色の頭を叩いていた。
「あ・・・」
自分の手を見つめるがもう遅い。
ガウリイの肩が細かく震えて・・・
次の瞬間笑い出した。
「そっちの方がお前さんらしくていいな」
「あのねぇ」
リナは呆れ返った。
どこの世界に秘書に頭を叩かれてそっちの方がいいと言う社長がいるのだ。
「オレと二人っきりの時は普通に喋ってくれよ。
リナもゼルも変なところでまじめだからな。
家でため口のやつが会社では『社長』だろ?
気持ちが悪くて悪くて・・・
ゼルにも普通に喋れって言ったら、こーんな顔して『けじめが付かない』とか言うんだから参るよ」
ゼルガディスのモノマネが飛び出すに至り等々リナも吹き出した。

本当にここは居心地が良くて困ってしまう。
自分の立場を忘れてしまうほど。
口うるさいゼルも熱血娘のアメリアも冷静なミリーナも言い合いばかりしてしまうルークも嫌いではなかった。
手間ばかり掛けさせる目の前の男ですら心の底から嫌うことは出来なかった。
深入りすればするほど、後で傷つく事になる。
自分も、相手も。
わかっていながら止められなかった。

「あんたって本当に変わってるわ」
「そうか?」
「そうよ。
大体ね、自分で言うのも何だけど、普通こんな怪しい人物を雇ったりしないわよ」
「そうだなぁ・・・
始めはちょっと面白そうだと思っただけなんだが・・・」

ガウリイは言葉を切ると穴があくほどリナを見た。

「な、何よ」

リナがたじろぎ、顔がうっすらと赤く染まった。

「今はもっと面白い」

「どやかましい!!」

リナはガウリイの望み通り手帳で殴ってやった。


2000/12-2001/1


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