契約の花嫁7


予定通り休暇を過ごしオレは又半日掛けて戻ってきた。
オレの家に。
もしかするとばーちゃんは何か気が付いているのかも知れない。
家を出る時『いつでも遊びにいらっしゃい』と言われた。
いつもなら『いつでも帰って来ていいのよ』と言うのだが。
ばーちゃんの所が大切な場所なのは間違いないがあそこはオレの家じゃなかったから。
少し前まではレインが待つ場所がオレの家だった。
でも今は・・・
リナ・・・もう態度も戻っていると良いんだが・・・
しかし告白を無かった事にされるのもツライ男心。
迷う心とは裏腹に段々と早くなる足。
「ただい・・・」
「ガウリイ!!」
扉が開ききらない内に飛びだしてきたリナに抱きつかれた。
何だぁ?!
「お、おいリナ」
「ガウリイ良かった。ガウリイ・・・」
リナは慌てふためくオレに構わず益々ぎゅっと抱きついてくる。
嬉しいけど不味いって。
「リナ、ちょっと離れてくれ」
「やっ」
さすがにオレもこれは何かがあったんだと覚って、リナを引き剥がすのはやめて宥めるように背中を叩いた。
「どうした?何があったんだ?」
「・・・ガウリイの乗った飛行機が事故にあったっておじさんから連絡があって・・・
ニュースの乗客名簿に名前があって・・・
それであたし・・・」
少し落ち着いてきて途切れ途切れ話される言葉に事情を知った。
リナはオレが事故に遭ったと思って心配してくれたんだ。
「悪かったな心配掛けて。
リナに早く会いたくて便を早くしたんだ。
オレが助かったのはリナのお陰だ。
オレは大丈夫だから、な?」
何度も繰り返しながらリナの髪や瞼にキスを落とす。
ほら温かいだろ?オレはここに居るだろ?
リナを抱き上げて居間へ移動すれば、付けっぱなしのテレビが忙しなく事故の状況を伝えていた。
これを見たのか。
そりゃ心配するよな。
でもそろそろ。
「リナ」
首に巻き付いた腕を外してソファーに座らせようとするがリナは嫌がって抵抗する。
いやもうホント、離れてくれないと大丈夫じゃ無くなるんだって。
じーさんに言われたばかりだし、こんな時にと思うがオレだって健康な成人男性でこの状態はちと辛い。
「あのな、リナ。この間オレが言った事覚えてるだろ?」
リナの肩がぴくりと振るた。
当然覚えてるよな。
「じゃあこの状態がどういうことか分かるだろ?
こんな状態のリナに付けこみたくない。
な、だから・・・」
「・・・よ」
「え?」
「つけこんでも・・・いいよ」


皆に連絡するのをコロリと忘れていたオレは次の日、殴られるは怒鳴られるは泣かれるは説教されるは散々だってけど全然平気だった。
だって幸せだったから。


「おはよう、リナ」
「・・・はよう・・・」
もう何度もこんな朝を迎えてもリナの照れは少しも直らない。
挨拶をしながら逃げ出そうとするリナを捕まえて、朝の挨拶を交わさせるのはオレの日課になりつつある。
「ほらリナ。こっち向けって」
「あ、ほら朝ご飯の用意しなきゃ・・・」
「オレも手伝ってやるからほら早く」
「や、ちょっ・・・」
「ん〜〜〜〜〜v」
朝からちょっと濃いKISS(挨拶)を交わして・・・
あ、しまった。又やりすぎた
くってりしてしまったリナをベッドに残し朝食の支度をする。
何か毎朝オレが作ってるような・・・ま、いっか。
「リナ朝食の準備ができたぞ。起きないともう一回・・・」
「起きる起きてるわよっ」
オレが声を掛けるとリナは慌てて起きてきた。
ちっ
「ちってなによ〜〜」
「いや、ほら早くしないと遅刻するぞ」
「あんたが言うな〜〜〜」


勿論前と同じでくだらない理由で喧嘩をする事もある。
「今日はサッカーの決勝だ」ぴっ
「ナニ言ってんのよ。株式の方が大事に決まってるでしょ」ぴっ
「どんなの録画で後から見ればいいだろ」ぴっ
「そっちこそサッカーなんかダイジェストで見れば十分でしょ」ぴっ
「リアルタイムで見ないと意味が無いだろ」
「こっちだって早いほうが良いのよ」

「「・・・ふんっ」」
結局肝心な番組は言い合いをしているうちに終わっていたのだった。
その責任を巡って又喧嘩したのはお約束というものだ。


オレは迂闊にもこんな生活がずっと続くと信じこんでいた。


     続く


2002/9


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