契約の花嫁6 |
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飛行機で数時間、電車とバスを乗り継ぐ事数回。 半日ほどでばーちゃんの待つ田舎へ着いた。 相変わらず何もないところだけれどオレにとっては大切な場所。 「あ、ばーちゃん」 「良く来たね。ガウリイ。 さぁ中に入って」 オレを玄関まで迎えに出てくれたばーちゃんを支えるようにして家に入った。 昔から諍いの絶えなかった家から逃れるように入り浸った大切なこの場所。この場所が長い間オレの家代わりだった。 だからどうしても残したかった。 ゆっくりと歩きながら周りを見る。 オレが付けた壁のキズもそのまま、記憶と何一つ変わらないように感じる部屋を通り抜け居間へ落ち着く。 ばーちゃんをイスに座らせて自分も定位置に腰掛けた。 「ばーちゃん身体の具合はどうだ?」 「わたしは相変わらず元気よ。 それよりガウリイ、お金のことだけどね、本当に大丈夫なのかい? わたしは別に引っ越しても良いのよ?」 「ばーちゃんがよくてもオレが嫌なんだ 心配しなくても大丈夫だって。 無利子で貸してくれる人が居たって説明しただろ?」 「でもねぇ・・・」 「本当に大丈夫だって」 何度説明しても気にするばーちゃんの話を強引に打ち切った。 これはばーちゃんの為と言うより自分の為なんだから、ばーちゃんが気にする事はない。 実家に頼んでみる事も出来たけどそれをしたくなかったのは自分なんだし。 尚もばーちゃんは何か言おうとしたが丁度チャイムの音が響いた。 ナイスタイミング。 「オレが出るから」 誰が来たかとと玄関を覗いて・・・ 「あれ、じーさん」 「お、ガウリイか。久しぶりだな、元気だったか。ん?」 じーさんは豪快に笑ってオレの背中をバシバシと叩いた。 こっちも相変わらずだな。 じーさんと気軽に呼んではいるが俺の本当のじーさんじゃない。 ばーちゃんの知り合いで、子供の居なかったじーさんに小さい頃から可愛がってもらった。 大学でアパートを借りる時も名前も貸してもらったりして随分世話になった。 じーさんも昔は随分と鳴らしたらしくその点でも話しやすくて助かっている。 本人の少々子どもっぽい性格もあって年こそ随分離れているが、友達・・・みたいな感じか。 「上がって良いかね」 「ああ。 ばーちゃん、じーさんが来たぞ〜」 「あらあら、アルバートさんいらっしゃい」 「お邪魔してます」 じーさんは帽子を脱いで挨拶すると、手にしていた小さな箱をばーちゃんに手渡した。 受け取ったばーちゃんは嬉しそうに箱の中を覗き込んだ。 「丁度良いから3時のお茶にしましょうね」 じーさんはお構いなくと言いながら椅子に深く腰掛けくつろいでいる。 箱の中身はケーキと見た。 さすが、そつがないなぁ。 じーさんは台所へ向かうばーさんを見届けるとくるりとこちらを振り向いた。 「最近調子はどうだ? 何か変わったこととか無いか?」 ・・・変なこと聞くじー・・・あ、あああっ じーさんはいたずらが成功した時のようなとびっきりの笑顔だった。 「お前さんもリナもあの人も人の援助を素直に受けるような性格じゃないからの」 ・・・そーいやこーゆー性格だったよな。 お節介で押しが強いんだ。 よく考えればオレが金が必要なことを知ってる人間って限られてたよな。 なんでじーさんに思い当たらなかったんだろ。 「・・・それでじーさんとリナの関係は?」 「親戚じゃよ。リナの事は小さい頃から知っとる」 じーさんはちらりと台所を確認して声を潜めた。 「リナの事は大切に扱っとるじゃろな。泣かしたりしてないじゃろな」 「・・・じーさん人の事を何だと・・・」 「どうしようもない女ったらしの悪ガキ」 「・・・オレだって反省してっ」 「分かってる。だからお前を紹介した」 肩から力が抜けてずるずると椅子の背にもたれ掛かった。 ホント、上手いなぁ。 「じょーさん、サンキ・・・」 「じゃがお前さんは手が早いからな。 あの子を傷つけるなよ」 ズルリ あーもう気を付けるよっ。 続く |
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