契約の花嫁3 |
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「なぁリナ。頼みたいことがあるんだけど良いか?」 オレは食事が終わった後改まってリナに切り出した。 実は悪友達に結婚していた事がばれた。 後から聞けば2,3日前から噂になっていたらしい。 そうとも知らないオレはあいつらの鎌かけに見事に引っかかったのだった。 ゼルもルークもオレの数少ない友達で、オレが荒れていた時期も普通に接していてくれた。 本人達も荒れていた時期があったらしいから友達と言うよりも仲間か。 良い奴らだ。 だがこーゆー事になると行動も性格も把握されているだけに言い逃れも効果はない。 第一オレは口が達者な方じゃ無いからなぁ。 それでリナにも良く怒られるんだが。 事情だけは何とか隠し通したが、相手に会わせろだの水くさいだのうるさくて仕方がない。 仕方なくオレはリナに聞いてみると答えたのだが・・・ 「そんな訳であいつらを読んでも良いか?」 「良いわよ」 内心リナが断ってくれれば良いと思っていたがリナはあっさりとOKを出した。 「あのな、嫌なら断わっても良いんだぞ」 「これも契約の一部でしょ。 大丈夫よ。仲の良いところを見せて安心させるぐらい簡単よ」 「まーそうだけど・・・でもなぁ・・・ あいつらうるさいぞ?」 「それぐらい平気よ」 「目つきも良くないし」 「あんたの友達でしょーが」 「口悪いのも居るし」 「口なら負けないから平気。ってあんたさっきから何ごちゃごちゃ言ってんのよ」 「だってなぁ・・・」 憮然とするオレにリナが『あんたの事心配してくれてるんじゃない』と言ったがそれは違う! いや、少しならそれもあるかも知れないが奴らは絶対オレをからかう気なんだ。 もーどーなっても知らないからな〜 そして当日台風でも来ないかと祈ってみたが生憎と朝から快晴。 日頃の行いが良いのか悪いのか・・・ ピンポーン ああっ来たっ。 出ようとしたリナを手で制し玄関へ向かった。 何でこんな時ばっかり時間に正確なんだよっ。 扉を開けると予想通り1人2人3人・・・4人? 「お邪魔するわね」 その4人目はオレが入れという前に勝手に上がり込んで無遠慮に周りを眺める。 「おいっゼルっ!なんであいつを連れてきたんだよ」 「付けられてたんだよっ」 襟首を掴んで顔を寄せて語気を荒げれば同じようにゼルも返す。 くそ。まずいな。 こいつはその昔、少しの間付き合っていたが向こうが好きな男が出来たと言うんで円満に別れた女。 引き止める気もなかったんだからオレって最低の男だよな。 でもそれも昔の話。 ずっとそんな事はしていない。 それなのに今更よりを戻したいと付き纏われて困っている。 昔のような遊びはする気も無いし悪いがこの女と付き合う気もしない。 そうハッキリと告げてあるのだが余程自分に自信があるのか付き纏うのを止めない。 まぁ確かに身体は・・・ はっ。と、ともかくリナに見つからない内に追い返さなければ・・・ 「ガウリイ、何してるの?」 おう、ぢーざす。 なかなか入ってこないオレ達に業を煮やしたのだろう。 リナが奥からひょいと顔を出した。 「あら、妹さん?」 ビキッ うわ、それは禁句・・・ リナが暴れるんじゃないかと心配するオレを余所に本人はにっこり笑って、 「よく言われるんですけど私もう19歳なんですよ」 「あら、ハイスクールかと思ったわ」 「ハイスクールだったらまだ結婚出来ないじゃないですか」 「そぉねぇ、ごめんなさいね」 「まぁ立ち話もなんですから中に・・・」 「いや、こいつは帰・・・」 「あら、嬉しい。遠慮無く上がらせてもわうわね」 「おい・・・」 「そちらの方もどうぞ」 ・・・顔は笑っていたが目は笑っていなかった。 「・・・帰りたい・・・」 誰かの呟きが背後から聞えた。 同感だ・・・ だがオレに逃げる場所はない。 ノロノロと応接のソファーに座ったオレの横に予め用意してあった紅茶と茶菓子を手際よく並べたリナが陣取った。 「自己紹介した方が良いのかしら。 リナ=インバースと言います。 そちらの方はゼルガディスさんにルークさんにアメリアさんですよね。 彼がよく話してくれるのですぐ分かりましたわ」 特大の猫を頭に乗せたリナがホホホと笑う。 「それで、ごめんなさいね。そちらの方は・・・」 「私はジュリアよ。 ガウリイとは昔からの知り合いなの」 「まぁジュリアさんとおっしゃるの。 一言も聞いた事が無かったので・・・ごめんなさい」 「まァあなたが謝る事なんか無いわ」 フフフとこちらもナニかを背後に張り付かせて微笑んだ。 「美味しい紅茶ね。でも彼コーヒー党だったと思うんだけどいつのまに趣旨変えしたのかしら?」 「あら、知らなかったわ。 でも好みが変わるって事もありますし。 飽きたとか嫌になったとか」 余りにも白々しすぎて誰も口を挟めない。 と言うか挟みたくない。 しかもいつもなら向かいに座るリナがオレの左側にぺたりと張り付いていて、居心地が悪いと言うか何と言うか・・・ 「・・・おい、顔が笑ってるぞ」 斜め横に座ったルークに囁かれて顔に触ってみる。 オレ笑ってたのか? その脇に立っていたゼルも頷くのを見ると本当らしい。 とても笑える状況ではないのだが・・・ オレ達がこそこそと話している間にも会話はヒートアップしていく。 「彼、ピーマン嫌いだから食事作るの大変でしょ?」 「あら、ガウリイ、ピーマン嫌いなの? いつも私の料理は食べてくれるから気が付かなかったわ」 「・・・そうなのか?」 オレのピーマン嫌いを知っているゼルに尋ねられて頷く。 そーなんだよ。 折角作ってくれるのに悪くて言えないんだよな。 だから噛まずに呑み込んでる。 「ごめんね、ガウリイ。知らなかったの。 でもピーマンも身体に良いからこれからも食べてね?」 「あっ、ああ・・・」 至近距離でオレを見上げるリナにどぎまぎしながら頷くと『嬉しい』と言って腕に抱きついてきた。 わ〜〜〜〜っ 「・・・馬鹿らし」 「ラブラブですねっ」 「・・・帰るか」 奴らは口々に好きな事を言うとジュリアまでも一緒に立ち上がった。 「邪魔したな」 「又来ますね」 リナに腕を捕られたままさっさと帰るゼル達を呆気にとられて見送った。 何だぁ? 「なーリナ・・・」 「あたしも部屋に戻るわ」 「え」 掴んでいた腕をするりと外しリナが部屋へと歩き出した。 「リナ?」 「・・・」 「何怒ってるんだ?」 「怒ってないわよ」 怒ってない訳はない。 これって最初の頃のリナの態度だ。 最近そんな態度を見せることは少なくなっていたのに。 「リナ」 「しつこいわねぇ。 怒ってないって言ってるでしょ!」 リナに付いていったオレの鼻先で力一杯ドアが閉められた。 取り付く島がないとはこのことだ。 やっぱりあの女の事を怒ってるんだよな。 随分やりあってたもんな。 やっと得てきたリナの信頼をこんな事でふいにするのは惜しくて、部屋を出てきたリナにオレが呼んだ訳ではないと謝り倒せば『怒ってない』と一言。 それを信じた訳じゃないがあまりしつこいのも逆効果だと引き下がって数時間後――― 「・・・で、これは何だ?」 オレはテーブルの上の緑を直視しないように気を付けながらリナに尋ねた。 返ってきた答えは明瞭至極。 「晩ご飯よ」 「・・・」 ピーマンのフライにピーマンの肉詰め、ピーマンのスープにピーマンの炒め物・・・ だ〜〜〜〜〜〜〜ピーマンの入ってない物が無いじゃないかっ。 オレにこのテーブルに座れって言うのかっ。 「リナの嘘つきっ! やっぱり怒ってるんじゃ無いかっ」 「怒ってないわよ。 ちょっと気分が悪いだけよっ」 ・・・それを世間一般に怒ってるって言うんじゃ・・・ 「だからっあの女はオレが呼んだんじゃ無くて勝手に来たんだって。 確かに前は付き合ってたこともあるけど、昔の話しだし、すぐ別れたし、もう何とも思ってない。 ちょっと付き合っただけで付きまとわれてオレだって困ってるんだからな」 オレがこんなに必死に説明をしていると言うのにリナの機嫌はますます降下していく。 何でだ?あ、もしかして・・・ 「嫉妬・・・してるとか?」 オレが言い終わるか終わらないかの内にリナの表情が完全に凍り付いた。 え?まさか本当に・・・ ヒュン――― 風を切って突き出されたナイフに逃げ遅れた髪が数本ハラハラと床に散った。 「わっ・・・危ないだろっ」 激昂するオレにリナの瞳がすぅっと細められた。 な、なんだよ・・・ 「あのねぇ・・・あたしはいい加減な男が一番嫌いなの。 あと女を弄ぶ男も嫌いだし、二股掛ける男は万死に値するわね! それから女に貢がせる男も許せないし、結婚詐欺の男は殺してやろうかと思うし、ナンパなんてする軽い男もきらいだし、覇気の無い男もきらいだしっ」 1つ所か2つも3つもすっ飛ばし7つも8つも上げ続ける。 オレ昔にリナと会わなくてヨカッタァ・・・ 会ってたらオレなんて半殺しの目にあってるよ。 「・・・何ニヤニヤしてるのよ。 あたし、女を馬鹿にする男も嫌いなのよ」 相変わらず突きつけられたナイフは微動だにしない。 「いや、リナの嫌いな男は分かった。うん。 でも誤解だって。そんな事しない」 『もう』という言葉は呑み込んで、それでもそう思っているのは本当だからはっきりと誓う。 リナの瞳が迷うように揺れて・・・やがてナイフが下ろされた。 良かった。分かってくれたか。 オレはリナの向かいの定位置にいそいそと腰を下ろした。 「それでオレの晩ご飯は?」 「だからコレ」 リナの手が迷い無くテーブルの上の緑群を指さす。 「え?」 「食べてくれるんでしょ?」 にっこりと笑うリナの後ろに羽根が見える。 勿論色は真っ黒だ。 「あ・・う・・・」 「ねぇガウリイ。 あたし、約束を守らない男も嫌いなのよ」 「・・・」 返す言葉も無かった。 続く |
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