Boundless future 3

 翌日――
 テクテクと地道に歩いて北へと向かう。
 魔法でひとっ飛びと行かないところが大変だ。
 大体飛べれば、こんな目に……
「リナ、休憩しよう」
 はぁ……これで町を出てから3回目。
 ちなみに昼食はまだ。
 勿論リューリーが疲れたわけでは無い。
 あたしの事を気にしてるらしい。
 いっそ無視して先に進んでやろうかとも思ったが、そうするともっとうるさいことになる。
 無理しちゃ元も子もないという演説から始まって、気分が悪くなったらどうするんだとかそんなに急いでるんだったら抱っこしてあげるとか抱っこがイヤだったらおんぶでも良いよとか何とか。
 ――もうとっくに実験済みだったりする。
 仕方無しにちょっとした木陰で休憩を取る。
 木陰はやっぱり涼しくて、少し出ていた汗もすぐに引いてしまう。
 お互い喋るわけでもなくゆったりとくつろいでいた。
 一緒にいても気が張るわけではない。
 雰囲気がガウリイに似てるからかなぁ。
 木にもたれて居ると、自然と瞼が下がってきた。
 おっかしいなぁ……
 これぐらいで疲れるはず無いのに。
 夢現で身体が傾ぐのが分かった。
 でも、気持ちがあんまり良すぎて目が開けられない。
 ずるずると身体が滑って……ちょうどいい所で止まった。
 固くてでも温かい背中。
「おやすみ、リナ」
 こんな所までガウリイに似てるなんてずるい。
 そう思いながら落ちた夢の中では、何故かガウリイとリューリーとあたしが一緒に暮らしていた。
 ガウリイとリューリーは過保護であたしが盗賊いじめに行こうとするのを、二人がかりで引き留める。
 そのくせ二人は喧嘩ばかり。
 賑やかで笑いの絶えない家。
 ――あたしにそんなもの似合うわけないのにね。
 やがて二人は子供になってあたしを両サイドから引っ張る。
「りな〜」
「りな〜」
 そっくりな顔でそっくりな声で。
「あの木に登ろっ」
「だれが1ばん上まで登れるかきょうそう」
「危ないからあんまり高いところまで登ったらダメよ」
「「はぁ〜い」」
 ん……
「おれの方が高いもん」
「ぼくも登る〜〜」
 賑やかな声に目が覚めた。
 何だか変な夢をみてた気がするけど。
 目を擦りながら起きあがると、身体から毛布が転がり落ちた。
 本当に、過保護だよなぁ……
 ガウリイと良い勝負かな。
 ぼーっとするあたしの横を子供が走りすぎた。
 ふへ?
「あ、ごめんなさい。うるさかったですか?」
 商隊が同じ木陰で休憩をしているらしい。
 少し離れた場所から母親らしき人があたしを心配そうに見て頭を下げてきた。
 珍しく子連れらしく、子供が3人、木に登って大声を上げている。
 変な夢はこの所為か。
 ――母親、か……
 見るとも無しに子供達を眺めた。
 元気良く木に登り、高さを競っている。
 母親はニコニコと見ているだけで、止めようとはしない。 
 危なくないんだろうか?
「あの……止めなくていいんですか?」
 ちょこちょこっと歩いて、母親の横に座り込む。
「ええ、少しぐらいの高さなら落ちても大丈夫」
 大丈夫って……
 そう言って母親は笑ったがあたしは気が気じゃなかった。
 ほら、危ない!
 一人の男の子が足を滑らし、木から転がり落ちた。
 ごん。
 ちょっぴし鈍い音と、少し遅れて泣き声が聞こえてきた。
「おかぁさぁん〜〜〜」
「はいはい。だから危ないって言ったでしょう」
 母親はさっと立ち上がり、子供の様子を見に行く。
 多分あの高さならどうって事無いと思うけど……
 母親は子供の頭を撫で、何も怪我が無いのを確かめると少し注意をしただけで、また戻ってきてしまった。
 へ?
「あ、あのっ。止めなくていいんですか!?」
 今度こそあたしは叫んでいた。
 だって今だってヘタしたら怪我するところなのに。
 しかし、母親はにっこりと笑う。
「あの子は丈夫だからこのぐらいだったら怪我しません」
「いや、そーじゃなくて、始めから登らないようにしたら良いんじゃないですか?」
「でも、自分でやってみないと分からないこともあるでしょう?
 『痛いよ』とか『危ないよ』とか、言っても分からない、落ちてみないと分からない事もあると思うの。
 痛さとか、このぐらいの高さまでなら大丈夫、だとか。
 もしかして途中で危ないと自分で気が付くかも知れないし、痛い目に合わないと分からないって事もあるし……」
「でも、親だったら落ちる前に止めるべきじゃ……」
「あなたもしかして母親になったの?それともなるのかしら?」
「……なるところです……」
「そう……」
 母親はちょっと首を傾げてみせると、子供達が見える位置に座り直した。
「始めから禁止するのは簡単だけど、あの子は腕白だから親の目を盗んで登ろうとするでしょう。
 その時に怪我をしても遅いから。
 だったら私の目の届くところでしてもらった方がいいわ。
 勿論怪我をしないように見てるけれど、子供なんて失敗して当然。
 いえ、失敗しながら成長するものでしょう。
 それをフォローするために親が居る……と、私は思ってるの。
 ほら、見て頂戴」
 母親が指さした先では相変わらず子供達が木に登っているが、落ちた高さより上には決して行こうとはしない。
「ほらね?」
 
 
     続く


2002/9


← 戻る  進む →
← トップ