第3回   倍々ゲームCRS


2000年4月に制作いたしましたクリスタルレッドシュリンプ専用水槽、あれから丸1年以上が経過しました。
(ご存じのない方は「水草水槽技術集」の「クリスタルレッド専用M水槽」と「その後のクリスタルレッド専用水槽」をご一読下されば幸いです。)
 
このクリスタルレッドシュリンプ、増えるわ増えるわでM水槽からついに45センチウィルドグラスにお引っ越しいたしました。
この時点で総数は300匹以上400匹未満(推測)にまでふくらんでおりました。
このまま増やし続けてどんどんと水槽を大きくしていく訳にもいきませんので引っ越しを契機に200匹ほど里子に出したりもしました。
 
どうしてこんなに増えるのか?うれしい悲鳴と言ったところで、自分的には「ご満悦」な訳ですが、里子に出したところでは以外にもすぐに全滅したとかポツポツ毎日のように落ちている、等と聞きますと何とも複雑な心境になります。
増えるところではそれこそ倍々ゲームで増えていくのに、ダメなところではすぐに全滅したり徐々に数を減らせていったりします。
当然そのようなところでは稚エビを見ることも叶わない夢となるのです。
 
ではどうしてそのような違いが出るのでしょうか?
たとえ私のところで順調に増殖しているからと言って、全く同じ水槽のセッティングにしても違いが出るのです。
当然、管理者が変われば水換えの仕方やその他のメンテナンスにおいて細かい部分での違いは生じてきます。
しかしながら水質を決定する底床の仕様や濾過の仕方、さらに水草のレイアウトまでほとんど同じにしても違いが出るのです。
ここではその違いを検証し、クリスタルレッドシュリンプを増殖させる「コツ」と言うか、「ポイント」を明確にしていきたいと思います。
 
まずはクリスタルレッドシュリンプについての知識を確認しておきます。
 
クリスタルレッドシュリンプはビーシュリンプと言われる東南アジアに生息する淡水の小型エビから生まれた突然変異個体です。
ビーシュリンプが黒に白の縞模様であるのに対してクリスタルレッドシュリンプは真っ赤な体に白の縞模様という、何ともドハデな色彩です。
これは、ビーシュリンプから生まれた突然変異個体が全てそうなのではなく、様々な突然変異個体の中にそのようなものがいた、と言うのが正解だろうと思います。
ビーシュリンプも何代も累代繁殖させて維持していると、いろいろな個体に巡り会うことが出来ます。
ほとんど白い縞模様が出ないものや、やけに透明っぽいもの、オレンジ色のもの、しっぽだけがオレンジ色のもの等様々です。
そんな中からやけに赤い個体が見られるときもあります。
実際、クリスタルレッドシュリンプと言ってもいろいろな個体がいて、ほとんど白の縞模様が出ないものや白の縞模様が薄いもの、濃くて太いもの、赤い色が薄いもの等様々です。
このような現象は遺伝子によるものなので簡単には説明できないものですが、人間だっていろいろな肌の色や特徴を持って生まれてくるのですから何となくは理解できますね。
グッピー界でもいろいろな突然変異個体や掛け合わせによってすばらしい個体を作出すると言われますが、こういったこともそれらの遺伝子を固定させて累代繁殖させ確立させていったものなのです。
よって、クリスタルレッドシュリンプにもいろいろな個体が存在しており、AやB、特AやAA等とランク分けされています。
もっとも赤くてはっきりと白い縞模様が出ている個体がもっともランクが上とされているようですが、希少価値、レアな個体となると実はベタに赤くて白い縞模様が入らない個体だったりするのです。
しかし、それもその個体形態が固定されて初めて、クリスタルレッドシュリンプが確立したように、クリスタルレッドシュリンプの別バージョンとして成り立つと言うことは言うまでもありません。

(クリックすると大きい画像が見れます。)
 
次にその生態系ですか゜、これはビーシュリンプに準ずると言って良いでしょう。
ただ、突然変異個体特有の「弱さ」と言うものはクリスタルレッドシュリンプにも若干見られるようです。
まず、体長ですが孵化したばかりの稚エビが目視出来るサイズとして1〜2ミリ、最大サイズで3センチ程度となるようです。
寿命は約1年半程度と言われ、繁殖可能な大人サイズになるには半年程度かかると言われています。
このときのサイズが1.5センチ程度でしょうか。
生育可能な水質はpHが約6〜8、水温20〜30度、言うまでもなく生活排水で富栄養化した汚れた水は好ましくありません。
KHや総硬度にはさほどうるさくはないようですが、総硬度が0では生育出来ません。
これは甲殻類特有の脱皮をして成長していくエビな訳ですから、水質におけるカルシウム分が無くてはその甲殻を形成できなくなるからです。
よく勘違いされて、「導電率がきわめて低いピュアな水がもっともきれいで、何を飼育・育成するにしても理想なのである」、と思っておられる方もいらっしゃるようですが、生体や植物がその環境で生きていくためには、生命を維持するためや成長していくために必要な物質がなければ不可能になってしまうのです。
水草は生長するために必要な物質を吸収しますしエビだって殻を形成するために欠かせないカルシウム分が無くては生きていけません。
 
pHが約6〜8、水温20〜30度というのはあくまで可能な範囲として、実際に繁殖しえる理想な環境としてはpH6.5〜7.5、水温22〜27度程度が良いようです。
飼育する上で理想的な環境として誰しもが自然に近い環境を構築しようとします。
となると底床を敷いて流木や水草を一緒に投入します。
底床素材にもいろいろありますが大きく水質に変化を及ぼさないものであれば特にどれがよいと言うことはないようですが、累代繁殖させて増やしたいと考えるのであれば自ずと長期維持可能な仕様を選択しなくてはなりません。
理想的な仕様としては底面濾過を組み込んだ小粒の大磯砂やセラミック系の底砂が良いようですが、ソイルでだってセッティングの仕方によっては何年でも維持することは可能になります。(今回の私の水槽は底床にソイルを採用しています。)
濾過に関しては極端に多い数を小さな水槽で飼育するのでなければ外掛け式のワンタッチフィルター系でも十分にまかなえます。
ただし、一工夫して生物濾材などを投入して使用するのであれば、しっかりとバクテリアが定着して機能しているものでなくてはなりません。
スポンジフィルターなどを併用したり合体させたりしてよく使用しますね。
これはクリスタルレッド水槽だけに言えることではなくアクアリウムの基本と何ら変わるところはありません。
 
さて、繁殖についてですが、生後半年以上経過した個体程度で可能になり、環境さえ適合して安定していれば季節や時期に関係なくほとんど毎月のように産卵するようです。(正確には数週間単位と言われています。)
雌が卵を抱き始めてからどれくらいの時間で目視できる稚エビが誕生するのかは詳しく観察していないので断言できませんが(なかなか特定の1匹を観察し続けられないので・・・・笑)2週間〜3週間以内のように思います。
個体の大きさにもよりますが1回の産卵で10〜40・50個程度の卵を抱いているように思います。

同居できる生体としてはビーシュリンプ程度のエビやラスボラなどの超小型魚、小型のテトラ類であれば可能です。(画像はアクセルロディー・ブルー)
ただしこの場合は生まれたばかりの稚エビが隠れられるような場所が必要で、出来れば流木などと水草を沢山投入しウィローモスをたっぷりと投入するなどのレイアウトが必要になります。また、専用の穴あき流木なども販売されていますのでそのようなものを利用しても良いと思います。
エビは脱皮を繰り返して成長していきますがその脱皮時やその後などは非常に弱体化し、この時にうまく出来ずに死んでしまう個体や他の生体に襲われてしまう個体もいます。
実際、ほとんど餌を与えていないような飼育環境でかなりの数のクリスタルレッドシュリンプが存在する場合、投入していた水草がぼろぼろになるほど食害にあうこともありますし、脱皮する個体や少し弱った個体などをねらって共食いすることもあります。
そう言った意味からも飼育環境にウィローモスを投入しておくことは不可欠なようにも感じます。
 
よく「エビの飼育に餌は必要ない」、等と仰る方がいらっしゃいますが、水草水槽において数匹のエビ、多くても60センチで20〜30匹程度のエビであればそれも当てはまりますが、もっと多い数になりますとそう言うわけにはいきません。
元々雑食というか何でも食べてくれる生き物ですから水に沈むタイプのもの、例えばコリドラスヤオトシン用のタブレットを細かく砕いて与えたり、冷凍赤虫や無農薬野菜をゆでたもの(ほうれん草が代表的)等を毎日少量与える方が好ましいです。
また、かなりの数になればそれだけ餌の量も必要になるでしょう。
 
次に累代繁殖させる上で知っておかなくてはならないことがあります。
クリスタルレッドシュリンプはそれ同士で掛け合わせる、いわば、クリスタルレッドだけの飼育環境で飼育していればいつまでも同じようなクリスタルレッドシュリンプが生まれてくるわけでは無いのです。
一般的には7代目ぐらいまでは同じような個体が生まれるようですが代が進むにつれて赤い色があせて薄くなると言われています。
もっともきれいな個体が出るのは3〜4代目だそうですが、購入した個体が何代目の個体かなんて分かるわけありませんから、通常は飼育環境において「戻し交配」出来る環境、すなわち、原種であるビーシュリンプを少数一緒に飼育するスタイルをとります。
元の原種の血が薄くなるにつれて突然変異個体であるきれいな赤が出なくなると言うのも遺伝子の不思議な世界ですね。
当然、ビーシュリンプがたくさんすぎるぐらい出現すればその時点でビーシュリンプだけを間引くようにして数を調節します。
 
クリスタルレッドシュリンプについてはこの程度にとどめますが、もっと深く知りたいとか興味のある方はリンクサイトなどでクリスタルレッドシュリンプに関するページをピックアップし巡回されてみれば多くの情報が得られます。
 
さて、本題ですが、どうしてこんなに増えるのか?
そこには少し訳がありそうなのです。(画像をクリックすると大きい画像が見れます。)
私の場合10匹程度からスタートして約1年程度で数百匹にまでなりました。
スタートした時点の個体が全て繁殖可能な大人だとして、その中に3匹の雌がいたとしてこれを検証してみます。
 
1ヶ月目にその中の1匹が10個の卵を持ちその中の5個、すなわち5匹の稚エビが誕生したとします。
2ヶ月目には2匹が10個ずつの卵を持ち半分が稚エビになったとします。
この時点で初め10匹だったクリスタルレッドはすでに25匹になっています。
 
3ヶ月目に3匹が10個ずつの卵を持ちまた半分が稚エビになりました。
これで40匹です。
 
以後4.5.6.ヶ月目までこれを繰り返すと毎月15匹増えていきますので半年後には85匹になります。
さて、ここから急激に数が増えていきます。
 
7ヶ月目で最初に生まれた稚エビが繁殖可能となりその中に2匹の雌がいたとしたらこの雌も卵を抱くようになります。
また、このころには初めに投入した個体も随分と大きくなり抱く卵の数も30個以上になっているでしょう。
こうなると、もうどのようなペースで増えていくのか全く分からなくなりますが、ここはちょっと無理をして計算します・・・・。(笑)
 
大きい雌3匹が30個の卵、そして15匹の稚エビ、小さい雌が10個の卵で5匹の稚エビとしますと、7ヶ月目で85+45+10=140匹になってしまいます。
8ヶ月目で同じように計算しますと140+45+20=205匹、9ヶ月で205+45+30=280匹、10ヶ月で280+45+40=365匹・・・・・・・・・・・
単純計算1年で565匹にまでなりました。
 
当然この間に死んでしまう個体や飛び出して干からびてしまった個体など多数いたとしてもこの数です。
また、雌が生まれてくる確率というのもあるでしょう。
しかしながら、要するに毎月のように抱卵し稚エビを誕生させる限り6〜7ヶ月を境に爆発的に増え続けることになります。
当然寿命もありますので元の数の減少がありますが増えていく数が半端ではありません。
恐らく親子、孫の世代が一緒に増やしていきますから総数が増えれば増えるだけ誕生する稚エビも莫大な数となるわけです。
毎月総数の桁が上がっていく・・・なんて言われることがありますがまんざら嘘ではないようですね。
 
しかしながら増えないところでは全く増えない。
増えないどころか次々と死んでいってしまう。
よく増える私の水槽と同じ仕様にしてもなぜ増えないところでは増えないのか?
器具やセッティング、水換えなどのメンテナンス、与える餌の種類や量などを全て同じにしてもです。
 
と言うことは、後考えられることは設置環境しかありません。(画像をクリックすると大きい画像が見れます。)
ただし、同じようなサイズのものを里子に出しますと極端に増えるまでに若干の時間を要します。(増え方参照)
また、ウィローモスや水草をたっぷり投入した水槽では隠れてしまって実際よりも少しの数しか見ることが出来ないものです。
総数に対して大きな水槽だとなおさらです。
そう言ったことから最低でも3ヶ月程度は待たないと目で見て増えたとは感じないでしょう。
それよりも小さな稚エビが発見できるかどうかと言うことです。
これが発見できれば間違いなくその水槽ではある時期を境にして爆発的に増えると言えるでしょう。
 
が、しかし、次々と死んでしまう、全滅してしまう理由は別です。
 
まずエビは水質に敏感だと言うのが常識です。
極端な水質の変化にはとても弱いと言えます。
しかし、ちゃんと機能する濾過システムとメンテナンスをしている環境ではなにがしらの事故でもない限りそのようなこともあまり起きません。
ただし、小型水槽ではその水量の少なさから少しの変化が全体に影響すると言うことは覚えておかなくてはなりません。
 
とすると設置環境において残るは「水温」がもっとも怪しいとなるはずです。
 
クリスタルレッドシュリンプを含めたビーシュリンプが高水温に弱いことはよく言われています。
しかもビーシュリンプよりもクリスタルレッドシュリンプの方がさらに高水温に弱いとされています。
事実、順調に増殖してきた水槽でも夏場を迎え水温が30度、そしてそれ以上になるような環境では1日にして全滅した、と言うお話もよく耳にします。
しかし、このような時期は誰しもが水温に注意を払いそれなりの対処をしたりいろいろと考えて工夫したりしますよね。
でも夏場で無い時期であればせいぜい水温が上昇したとしても30度を超えることはあまりありませんし冬場は水温が最も安定しますしね。

しかし、実はヒーターが稼働しない時期で水温が30度以上にはならない時期、要するに春や秋も危険な環境というのがあるのです。

それは「水温の変化」です。
 
幅広い生育環境を持つクリスタルレッドシュリンプも実は30度を超える高水温に弱いばかりでなく、大きな水温変化、急激な水温変化にとても弱いのです。
そう言う意味からはヒーターをセットして稼働させる冬場の方がほとんど一定した水温、いわゆる安定した環境を与えることが出来ます。
しかしながらヒーターが稼働しない季節での急激な水温変化は簡単に5℃程度の変化は起きてしまうのです。
特に春先などその日によって気温がまちまちであったりする季節は要注意です。
「もうヒーターはいらないな」、と思い水槽から撤去してしまうと、急に寒くなった夜などは一挙に水温が低下してしまいます。
逆に今日は夏日、なんて日中にめいっぱいの照明を点灯しライトのリフトアップや上蓋ガラスの撤去、ファンやミニ扇風機の設置と言った水温上昇予防の対応をしていなければ知らない内に水温が30℃以上になることもあり得ます。
エビは高水温に弱い、と言うことで夏場は風通しの良い場所や一番エアコンが稼働するような場所に移動させたりと気をつけるものですが、このような時期はまだエアコンも稼働させていないし夏場の水温上昇に対する対応もしていません。
 
飼育繁殖が難しいとされるクリスタルレッドシュリンプですがその実体は一概にそうではありません。
生育環境は先述したように幅のある水質で可能ですし決まった底砂や流木が必要なわけでもありません。
濾過のシステムもこれでなくてはいけないものがある訳ではなく、ましてや濾材はこれがよい、なんて事はナンセンスきわまりなく、アクアリウムにおける濾過と同じです。
 
上手に飼育し増やすポイントは水草やその他の生体よりもさらに「安定した環境」を維持することです。
安定した環境とはある一定の数値を示す水質や温度の水だけではなく、変化の少ない環境をも意味します。
水質にうるさいからと言ってpHや総硬度などのいろいろな数字にばかり目を向けるのではなく、水温やその変化の幅にも注意が必要なのです。
水質はいろいろな検査薬から導き出される数字だけでなく、水温という数字もまたその水質を示します。
水温の変化が1日の中で5℃も変われば水質としても大きな変化といえるでしょう。
このような状態が続けばクリスタルレッドもだんだんと弱っていきポツポツと落ちていくような状況が起こり得るものと考えます。
 
ヒーターは出来るだけ長く水槽にセットしておき、2〜3週間、全く稼働していないことを確認してから撤去します。(1年中セットされたままの方もいらっしゃいますが私的には全く必要でない時期はちゃんとメンテナンスして撤去しておく方が長持ちさせることが出来ると思います。)
と、同時に急な水温変化に対応できるように対応しておくことも必要になります。
真夏に向かう春から初夏にかけてはちょっと変ですがヒーターを26℃程度に設定し、同時にライトアップやファン等のセットもしておくようにします。
また、ライトの点灯時間を昼夜逆転させるというのも一工夫と言ったところでしょう。
 
このような時期の気温差は地域によって様々です。
水あわせに失敗したとか某らのはっきりした原因も無いのにどうしてもうまくいかないような場合には一度チェックされてみては如何でしょうか。
おぼっちゃま、おじょうさん育ちのクリスタルレッドの上手な管理方法は「安定した変化の少ない環境を維持し続ける」事のように思います。

それではまた・・・。
 


(クリックすると大きい画像が見れます。)