パワー○ンドの上手な使い方

A○Aが提唱する「ネイチャーアクアリウム」、その土台を支える代表としてソイルが登場しました。そのソイルと共に底床の構築論としてセットとされてきたのがパワー○ンドと言う底床ベースです。
パワー○ンドについては「底床ベースのすすめ」の中でも触れましたが、「ネイチャーアクアリウム」を成し遂げるにはなくてはならない存在と解説されています。
 
折に触れ、私は「ネイチャーアクアリウム」と一般的な「水草レイアウト水槽」の違いを述べてきました。
(アクアコラム True Nature Aquarium(美しき水景の秘密)参照
私の中では「ネイチャーアクアリウムと」と一般的な「水草レイアウト水槽」の手法は、共通する部分がほとんどだが全く別のものという位置付けです。
もう少し細かく説明すると、アクアリウムの中の水草を主体としたもののグループに属する「水草レイアウト水槽」の中の「ネイチャーアクアリウム」と言うことにでもなるでしょうか。
それだけ「ネイチャーアクアリウム」というものには突き詰めたものがある、と言ういい方もできると思います。
 
さて、その様な前置きを念頭に置いて考えた場合、「ネイチャーアクアリウム」における手法は必ずしも全ての水草レイアウト水槽に対して「適切」では無い、と言うことになります。
要するに「ネイチャーアクアリウム」における底床が全ての「水草水槽」に最適ではないということです。
 
上記のことを前提として本題にはいると、パワー○ンドの使い方も「ネイチャーアクアリウム」と同じでは適切でない場合が生じます。
そこでこのパワー○ンドの上手な使い方を解説したいと思います。
 
「ネイチャーアクアリウム」の手法に従って立ち上げた水草水槽に置いて、よく耳にする「困ったこと」を少し上げてみますと、
1.ペーハーが極端に酸性に傾き生体に影響が出た。
2.みるみる水草がコケまみれになり、見るも無惨な水槽になってしまった。しかも様々なコケが発生している。
3.何度水草を買い直しても改善されず、至る所にコケが発生し水草水槽を断念した。
4.水草を抜き差しするごとにパワーサンドが底床表面にあふれ出し、対処に手こずった。
5.いくら水換えをしても導電率や硝酸イオン濃度が異常に高い。
6.セット後、いつまでたっても濁りが取れない。
と言うようなことがよく言われているようです。
 
これらの大半はソイルやパワー○ンドの特徴をよく把握せずに使用したために起こってしまったケースや、適切な処置を施さなかったが為に改善しなかったという、「使用者の知識不足」が原因であることが多いようです。
もとより、「ネイチャーアクアリウム」と自分が作ろうとしている「水草水槽」を同じに考えていたり、誤解していたりする場合もあるようです。
 
パワー○ンドの特徴は「軽石をベースにし肥料分をしみこませた物で有機物として完熟ピートが混ぜ込まれている」と言うことになろうかと思います。
ここで重要なのが「肥料分をしみこませた」です。
発売元の説明ではその肥料分はコーティングされていて徐々に溶け出すようにされている、とありますがセッティング初期には幾分溶け出す量が多いのか、余分な量が溶けだしてしまうのか極端に水質を富栄養化させてしまうようです。
これが全ての問題の原因で、上記した「困ったこと」の2.3.5.に当てはまります。
余談ですが、1と6はパワー○ンドによるものではなくソイルの特性によるものですので、ここでは的外れとなります。
ただし、ペーハーを酸性に傾ける作用として含まれている完熟ピートの影響は多少なりとはあるはずです。
また、4についてはパワーサンドとソイルを使用したセッティング、さらに、底床ベースを使用したセッティングでは、水草の抜き差しは御法度ですからするべきではないこととなります。
 
以上のようにパワー○ンドを上手に使用するには、この肥料分の溶け出しをコントロールする必要があるのです。
何度も解説していますが、水草水槽と言っても様々なパターンがあり、使用する水草も様々です。
同じ水槽の大きさや同じ種類の水草など全ての要因を同じにしたとしても、使用する水の水質によって違ってきたりします。
設置場所によっても違ってくる場合があります。
要するに使用する水草の種類に合わせた肥料分の仕込みを見極めなければいけないと言うことになります。
 
試しに次のような実験をしてみました。
実験に使用したのはパワー○ンドのスペシャルタイプです。
これを容器に少々投入し水を入れます。
よくかき混ぜてから落ち着くまで数分間放置しました。
水道水の水質とパワー○ンドを入れてかき混ぜた時の水質を比較してみます。
 
  
 
水質が富栄養になったかどうかは導電率を測定すると把握しやすいのですが、あいにく測定器を持ち合わせていませんので硝酸イオン濃度で判断します。
余談ですが、肥料の三要素と言われる窒素・リン・カリウムは
窒素肥料分−アンモニウム塩・硝酸塩・尿素・石灰窒素
リン酸肥料分−過リン酸石灰
カリウム肥料分−硝酸カリウム・炭酸カリウム
と言うのが代表的なものです(化学肥料として)ので、それらが水にとけ出せば硝酸イオン濃度に変化が見られることになります。
 
 
ペーハー
硬度
硝酸イオン濃度
水道水
6.0mg/l
かき混ぜ水
100mg/l以上(測定不能)
 
表をご覧頂ければ良く分かると思いますが、水を入れてかき混ぜるだけで大きく水質が変化しています。
ペーハーが酸性になってしまったのは含まれている完熟ピートか軽石のペーハーによるものだと推測されます。
驚いたのは硬度が異常に高くなっていることです。
これには少しびっくりしましたがそれだけ水中に溶けだしている物が多いと言うことでしょうか。
硝酸イオン濃度は予想道理、測定不能な値まで跳ね上がっています。
それだけ水槽セット初期には溶け出すと言うことです。
今回はスペシャルタイプで実験してみましたがノーマルタイプでは少しましな値になるかも知れません。
しかし、少しぐらいましになったとしても焼け石に水は変わらないようですが。

さて、それではどのようにして使用する量を見極めたらいいのでしょうか?
大変難しい質問ですが、ごく簡単に解説すると「根張りの良い水草には底床内にたくさんの肥料分が必要である」が「根張りが少ない水草や根を持たないもの、シダ類のように何かに活着させて育成するものには底床内の肥料分は不必要である」と言うことになります。
ちなみに、有茎草やエキノドルス、クリプトコリネ等は前者で、シダ類、リシア、ウィローモス、等は後者と言うことになります。
また、有茎草の多くは根だけでなく葉面からもさかんに栄養分を吸収しますし、根張りが良くないものもあります。
良く分からないときは購入の際にショップの方にアドバイスしてもらったり、尋ねてみると良いでしょう。
 
しかしながらどのくらいの量のパワー○ンドを使用するのが適切なのかを見極めるのには、何度も色々なことを経験してきたベテランでもない限り可能なことではありません。
必要以上の肥料分は必ずコケの発生を促し水質を悪化させます。
従って「底床内に仕込む肥料分は可能な限り少なく」と言うのが鉄則となるのです。
 
必要量を決定したら底床ベースとして不足することもあります。
その様なときには「自作底床ベース」で補うようにします。(「底床ベースのすすめ」参照)
また、その様な物は一切使用せずに「自作底床ベース」のみでセッティングする、と言うのも選択技の1つだと思います。
 
次に自作底床ベースを作成するほど量がいらない、と言う場合もあります。
自作底床ベースは安価ですが結構いっぱいできてしまいます。
60センチまでの水槽なら半分ぐらい余ってしまってどうしようもなくなることもあるでしょう。
持っていても腐るものでもないですが、保管場所や出来る限り密閉されるようにしなくてはいけません。
 
その様な場合にはパワー○ンドを前処理してから使用します。
発売元の推奨では60センチポピュラー水槽で2リットルのパワー○ンドを使用する、とあります。
しかし、そのまま使用すればかなり水質が富栄養化することが分かっていますので、前もって幾分の肥料分抜きを行ってから使用する方法を採ります。
方法としてはバケツや大きめのアクリル容器などにパワー○ンドを入れ、水を張ります。
それを毎日、水換えをしてやり溶けだしてくる肥料分を除去させます。
かき混ぜると真っ黒に濁りますが放置しておくと沈殿します。
なかなか完全に水没せずに浮いてしまうものもありますが少ない量の完熟ピートですので問題はありません。
1週間程度その様な作業をしてやれば幾分肥料分も少なくなりますので、ある程度乾燥させてセットアップ出来ます。
水を切るときは綿の布や細かいウールなどで濾してやるようにすればいいかと思います。
 
運悪くそのままセットしてしまい水槽が稼働してしまっている場合にはもうどうする事もできませんので水換えに頼らざるを得ません。
生体が投入されてしまっている場合には生体への負担も考えて1/3〜1/2程度の水換えを始めの1週間は毎日、以後、1週間ごとに間隔を広げていき2日に1回、3日に1回と言うように対処します。
生体がまだ投入される前であれば、水草に影響が出ない程度(水を抜きすぎて有茎草の柔らかい茎が折れてしまった等)まで水換えし、始めの1週間は2日に1回は必ず、以後は3日1回ぐらい施せば始めの段階での富栄養化はかなり防げます。
以後1週間に1度の水換えをさぼら無ければさほど問題も生じないと思います。
 
このように対処すればかなりの確率で水槽セット初期からコケの発生に悩まされたり、水質を富栄養化させ生体に影響を与えることは少なくなります。
余分な肥料分が抜けてしまえば底床ベースとしては問題のない物ですし、残った肥料分は水草をいくいくと生育させるでしょう。
また、バクテリアの住みかとして機能し底床を良好な状態に保ってくれます。
その様な利点は、いち早く水槽を安定化させる役目を担い、美しい水景を実現させてくれるのです。
 
最後になりましたが、パワー○ンドには水槽の大きさに合わせて3タイプあり、それぞれノーマルタイプとスペシャルタイプがあります。
スペシャルタイプはノーマルタイプよりも有機物が多く含まれ、さらにより多い肥料分が含まれています。
そしてバクテリアの素やその初期飼料となるもの等が含まれているようですが、肥料分抜きを施すぐらいならこのタイプは必要のないことになります。
クリプトコリネやエキノドルスをふんだんに使用してレイアウトするような水槽以外はさけた方が賢明かも知れません。