かがくののおと 19
エンタルピー 2
水のモル熱容量
エネルギーの単位は,SI 単位では J (ジュール)を使うが,熱に関わる身近な単位として,cal がある.1 cal は,4.184 J.もともと,1 cal は,水 1 g を,1 ℃(14.5 -> 15.5)上げるのに必要なエネルギーとして定義されていた.従って,旧定義のもとでは,1 cal / g deg が,水の比熱容量となる.これを,SI単位に直し,1molあたりの値とすると,モル熱容量となる.水 1 mol は,18 g であるので,
1 x 4.184 x 18 = 75.3 (J / mol K)
例
25℃の水180gを,100℃にするのに必要な熱エネルギーを求める.
比熱が一定と仮定して,熱容量は,比熱と質量の積であるので,
75.3 x 180/18 = 753 J / K
必要なエネルギーは,温度差と熱容量の積になるので,
75.3 x10 x (100-25) = 56.5 kJ
物質に熱(エネルギー)を加えていくと物質の温度はあがる.ところで,物質に加えられたエネルギーは,物質にどのようにして蓄えられるのであろうか.それを次に見ていく.
気体の定圧モル熱容量
気体 1 mol の温度を上げるのに必要なエネルギー係数,つまり, 1 ℃ 上げるのに必要なエネルギーである.気体であるから,温度の上昇によって,体積が増える.1 気圧 (1.013 x105 Pa) の圧力に逆らって膨張するためのエネルギーが含まれる.
表 種々の気体のモル熱容量(1気圧)
物質 | 定圧モル熱容量 (Cp) | 298.15 K (25 ℃) | 400 K |
J K-1 mol-1 | J K-1 mol-1 | ||
He | 20.79 | 20.79 | |
Ne | 20.79 | 20.79 | |
Kr | 20.79 | 20.79 | |
Ar | 20.79 | 20.79 | |
N2 | 29.12 | 29.25 | |
O2 | 29.36 | 30.10 | |
CH4 | 35.79 | 40.74 |
表と図を使った説明
He,Neなどの希ガスの定圧モル熱容量についてみると,すべて同じであることに気づくはずである.さらに,温度が変わっても,定圧モル熱容量の値は,同じである.これらのことは,希ガスが単原子分子であることによる.20.79という値は,気体定数 R (8.315 J K-1 mol-1)と深い関係がある.
R x (3/2) + R = 8.315 x 5/2 = 20.79
内訳は,粒子の運動エネルギー(X,Y,Z方向 の3成分)と気体の膨張のためのエネルギーである.(図 19.1)
N2 O2などの2原子分子の定圧モル熱容量は,
R x (3/2) + R x (2/2) + R = 8.315 x 7/2 = 29.10
で表される値に,ほぼ等しい.2原子分子であるので,分子の回転成分が 2 つ加わっている.(図 19.2)表に見られる値が,29.10 よりわずかに多いのは,振動エネルギーがわずかに含まれていることを示す.温度が 400 Kになると振動エネルギーの割合が増えている.
モル熱容量は,物質の構造に依存していることがわかる.原子の数が少ない気体の場合は,取り扱いが簡単な場合であるが,多原子分子や,液相や固相などでは複雑になる.熱エネルギーは,分子の,運動エネルギーや回転エネルギー,振動エネルギーなどによって保持されている.
ここで勘違いしてはいけないことがある.温度とエネルギーとは一致しない.極めて高エネルギーを持っている粒子でも,温度が低い場合があるのである.
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図 19.1 気体の単原子分子に外部から熱が流れ込んだ場合 X,Y,Z方向 の3成分の運動(並進)エネルギーとして,熱を受け止める | 図 19.2 気体の2原子分子に外部から熱が流れ込んだ場合 X,Y,Z方向 の3成分の運動(並進)エネルギーとと2成分の回転エネルギーとして,熱を受け止める |
定積モル熱容量と定容モル熱容量
定容モル熱容量は,物質1モルの温度を,体積一定のまま,1℃上げるのに必要なエネルギーである.
d U Cv =(.gif) d T
熱容量は,物質が熱を保持する仕組みである.物質の質量には比例しない.ダイヤモンドのように原子間の結合が強固な結晶は,低温では熱容量は小さい.ダイヤモンドや金属のCvは,温度とともに上昇するが,最高で,3Rである.
定積モル熱容量は,物質1モルの温度を,一定圧力の下で,1℃上げるのに必要なエネルギーである.従って,体積膨張ためのエネルギーが余分に必要である.理想気体の場合には,気体定数 R だけ大きい.
d H Cp =(.gif) d T
任意の温度における,エンタルピー変化やエントロピー変化を求める場合には,重要な量となる.通常,Cpは,温度の関数であるが,条件によっては,一定値として扱える場合がある.
標準モル生成エンタルピー
物質のエンタルピーの絶対値は,残念ながら,わからない.しかし,実用上は,相対的な変化量でよい.そこで,各元素の安定な状態について,これを基準にしている.化合物は,化合物を構成する元素から出発して,その化合物を得るのに必要なエンタルピー変化で求める.
標準状態は,1モルについて扱い,圧力は1 x 105 Pa が選ばれている.温度は,基本的には,298.15 Kであるが,各温度においても,元素の標準生成エンタルピーが,0 となるようにしている.現場的な計算では便利であるが,混乱する場合もあるので注意が必要である.後に,標準生成モル自由エネルギーについても,同様の取り扱いがされるが,混用すると,これも間違いを引き起こすので,データの条件について,正しい理解が必要である.
注 標準圧力は, 1.013 x 105 から 圧力は1 x 105 Pa に変わった (変わったのは1997年みたい)
任意の温度のエンタルピー
例 水1molの100℃におけるエンタルピー
水1 mol を25 ℃から 100 ℃ にするのに必要な加えるエネルギーを標準モル生成エンタルピーに足せばよい. 水の Cpが 75.3 (J / mol K)で一定であるとすると,(圧力 100000Pa)
ΔH398,H2O = ΔH298,H2O + 75.3 x (100 - 25 )= -285.8 kJ + 5.26 kJ =280.5 kJ
反応のエンタルピー
生成物のエンタルピーの合計から,反応物のエンタルピーの合計を引いた値である.同じデータベースから引用し,温度の条件が同一であれば,特に問題は生じない.
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