かがくののおと 18
束一的性質
温度と蒸気圧の関係
クラジウスークライペイロンの式は,純粋溶媒の温度と蒸気圧の関係を表す,理論式である.
式18.1
ここで,p は蒸気圧,Tは温度(K),ΔHvは蒸発エンタルピー ( 蒸発潜熱 ) ( J / mol ),R は気体定数 ( 8.301 J / K mol ).ΔHvが温度に依存しないとして積分すると , (注 蒸発エンタルピーは温度に依存するが,その変化は少ない).
式18.2
式18.3
式 18.3 において,圧力の単位は,任意の単位 ( 1.013 x 10-5 Pa, 1.0 atm, 760 mm Hg) にするこもできる.沸点(1気圧)における蒸発エンタルピーからもとめた積分定数の値C2を,表 18.1 に示してある.たとえば水の場合には,ΔHv = 40.66 kJ/mol, T = 373.15 を代入するとC2 = 13.12 となる. ただし,この表18.1の積分定数の値を使って場合,式18.3から得られる圧力の単位は,気圧である.
式18.3は,ボルツマン分布の式に類似した形の式になっていることが,興味深い.つまり,式18.3の形は液相と気相の分子の割合が,それぞれの状態のエネルギー差に依存したボルツマン分布に従うことを示している. さて,蒸発は液体が気体に変わることなので,乱雑さが増加することから蒸発に伴うエントロピーは増大する.水のように配向性の高い液体の場合には蒸発エントロピーは幾分大きくなると予想されるが,蒸発エントロピーは物質によらず一定であることが期待される(ノート17).したがって,蒸発エンタルピーΔHvが不明であっても,沸点がわかっていれば,任意の温度における,蒸気圧を求めることができる.
表 18.1 1気圧における沸点と蒸発エンタルピー
物質 | 沸点(K) | 蒸発エンタルピー (kJ/mol) | 積分定数 C2 |
水 | 373.15 | 40.66 | 13.12 |
エタノール | 351.7 | 38.6 | 13.20 |
メタノール | 337.9 | 38.6 | 13.74 |
ヘキサン | 341.9 | 28.85 | 10.15 |
酢酸エチル | 350 | 32.5 | 11.17 |
化学便覧,4th.ed.,丸善,1993
蒸留
ラウルトの法則とクラジウスークライペイロンの式を用いると,蒸留によって,どれだけ濃縮や不純物の除去ができるかを,計算することができる.
たとえば,日本酒を蒸留したとき,得られる焼酎の濃度と量を見積もることができる.(ただし, 水とエタノールの組み合わせは,計算値からはずれます.)
図18.1 実験用 蒸留装置
ノート16では,気液平衡を扱った.気液平衡状態では,液相から気相に飛び出す分子と,気相から液相に入ってくる分子が釣り合っている.液相に,蒸発しにくい成分(たとえば,NaCl)を加えると,液相から気相に飛び出す分子が減り,蒸気圧が下がる.沸騰は,蒸気圧が1気圧になっている状態であるから,蒸発しにくい成分を加えた溶液を沸騰させるためには,温度をあげなければならない.
高沸点物質を加えたときの,蒸気圧が低下する割合は,溶液のモル分率から計算することができる.
高沸点物質を加えたときの,沸点の上昇は,次式で示される.
δ T = Kb m
ここで,Kbは沸点上昇定数で,溶媒によって決まり,溶質には依存しない.mは,溶質の質量モル濃度である.
表 18.1 凝固点降下定数と沸点上昇定数
物質 | 凝固点 ℃ | Kf | 沸点 ℃ | Kb |
水 | 0 | 1.853 | 100 | 0.515 |
アセトン | -94.7 | 2.40 | 56.29 | 1.71 |
酢酸 | 16.66 | 3.90 | 117.90 | 2.530 |
シクロヘキサン | 6.544 | 20.2 | 80.725 | 2.75 |
化学便覧,4th.ed.,丸善,1993
凝固点降下
氷に塩をかけると,温度がさがることは,多くの人が知っている.固相である氷と液相である水の平衡が,塩を加えることによって,より乱雑な状態が優勢になるように移動することで説明させる.
高沸点物質を加えたときの,凝固点の降下は,次式で示される.
δ T = Kf m
ここで,Kfは凝固点降下定数で,溶媒によって決まり,溶質には依存しない.mは,溶質の質量モル濃度である.
大まかな解釈
水と塩の場合を考えてみる.水は,氷-水-蒸気と3種類の相がある.塩を加えて均一になるのは,水の場合である.つまり,水は塩水という混合物になるが,氷は水の純粋な結晶であり,塩を含まない.また,塩は,100℃程度では,蒸発しない.氷-水-蒸気の相において,塩が存在するのは,水の溶液中だけである.
さて,ここで,乱雑な状態が起こりやすいと言うことを,受け入れなければならない.物事が乱雑な状態に変化するというのは,特別なことではなく,極めて自然な変化である.塩と氷に分かれているよりも,氷が水になり,塩を溶かした方が乱雑である.外部との熱の出入りがなく,氷が溶けると,融解エンタルピーの分だけ,温度が低下するのである.同様に,水蒸気と塩では,水蒸気が水になり塩を溶かすと乱雑さが増加する.外部との熱の出入りがなく,水蒸気が水になると,蒸発エンタルピーの分だけ,温度が上昇するのである.よりまともなな説明は,後に述べる,エントロピーや化学ポテンシャルによっておこなわれる.
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