〜エピローグ〜

 湯婆婆が経営する「油屋」は、終業の時間を迎え、派手な喧騒も収まっていった。従業
員達は、後片付けを終えた者からそれぞれの部屋へと向かい、柄の間の自由時間を楽し
んでいた。花札をする者、ツラツラと取り留めのない話をする者、何処からかっぱらって来
た食べ物を食べる奴も居れば、サッサと寝てしまう奴も居たが、未だ仕事の終わらない者
もいた。「油屋」の経営者湯婆婆もその一人である。
 湯婆婆は、自室で書類の整理に勤しんでいた。書類に何やら書きこみ判子を押したりし
ていた。と、湯婆婆は何かの気配を感じて顔を上げた。
 「御入り・・・」
そう言うと独りでに扉が開いて、年の頃14歳ぐらいの少年が入ってきた。
「バーバ、今日の分の売上と今度の仕入れで必要な分をまとめた書類持ってきました。」
「坊、ご苦労さんだねー」
 湯婆婆は、やや甘ったるい声で少年を誉めたが、少年の方はやや顔をしかめて抗議の
声を上げた。
 「バーバ、いい加減その甘ったるい声を出すのは止めてください。」
 その抗議に湯婆婆は、複雑な顔をしたが密かに溜息を付くと悪かったねと言ってから坊
の持ってきた書類を受け取った。
 坊は、千尋がここ油屋からもとの世界へ帰っていってから大きく変わっていった。自分の
足で歩く事を好むようになった。帳簿の勉強を父役や兄役から学び、今では帳場をあずか
るようになった。他にも魔法の勉強や薬草の知識を学んだりと、ハードな毎日を送るように
なった。
 その為だろうか?坊は、急激に痩せ始め今では、普通の少年の大きさまで小さくなり、
ハクほどではないが、それなりの美少年になってしまっていた。又、従業員達も坊様では
なく若様と呼ばれるようになっていた。 
 湯婆婆は、そんな我子の成長を複雑な気持ちで見ていた。自分の子供が成長するのは
嬉しいのだがその反面自分の手から離れていくのが寂しかった。
 (人間の親達も同じなんだろうね)
 そんな事を考えていると、突然強い衝撃を感じて二人は暖炉の方を見た。
 「バーバ、今の・・・」
 「坊も感じたのかい」
 その言葉に坊はユックリト頷いた。何故だろうか?最近、地下にある空洞の闇の住人達
が、時々結界に体当たりして破ろうとするのだ。無論、そいつ等の力では破る事はできは
しないが、こうもしつこいと気になってくる。
 何か大変な事が起ころうとしている― 湯婆婆は、そんな気がして仕方が無かった。





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