◆【詳細】
我が家の諸事情から長期では何処へも出掛けることが出来ない今夏、より近場でいい所はないかと思案した結果、
今春三ノ丸の小屋泊で出向いた際と同じように、今回も三ノ丸から夕日、朝日を見ることを大きな目的とし、自宅を出たのは18日、午後2時だった。
国道の電光温度表示は引原ダム近くでも25度を越えており、あまりの気温の高さにこの先のことがやや不安になったが、その後、横行から大段ヶ平に駈け上がると流石に涼しい風が吹き、間近に見える氷ノ山山頂方面、ハチ高原や眼下に広がる風景はこれまでの暑さをすっかり忘れさせてくれた。
16時15分、時間的にはずいぶん遅いが、この時間に山頂へ向け出発出来るのは、いかにも日の長い夏の時期のお陰だ。まだまだ陽は高く、森の中へ分け入っても昼間のように明るく、時間的な焦りなく歩けるのがうれしい。
難点は、背の高いチシマザサや樹々の葉で風が遮られ、大段ヶ平で一度忘れかけていた暑さが、歩き始めると同時に復活してしまったこと。ここに来て難敵に出くわすとは予想外のこととしか言いようがなかった。
大汗をかきながらも大屋町・避難小屋を見て、登山路真ん中に大きなブナ(トチ?)の樹が現れると間もなく神大ヒュッテに到着。

大段ヶ平からも屋根がよく見えていたテラスに腰掛けしばらく休憩する。
歩いている最中はあんなに暑く感じるばかりだったのに、大きなブナの樹が辺りに茂るここでは、木漏れ陽程度の柔らかな日差しと緩やかに吹き抜ける風がとても心地よく感じられ、いかにも森に抱かれていることを実感することが出来る。
当たり前のことなのだが、この暑さの中では普段以上に決して忘れてはならない水取りをここで済ませ、東尾根からの単独男性としばらく談笑ののち山頂へ向けもうひと頑張り。
すぐにブナ林帯を出ると天然スギを見ながら木道を行く。晴れていれば次第に右手下方に鉢伏山方面の展望が開けてくるが、残念ながら今はすっかりガスに覆われ見る影もない。
古生沼を左に見れば山頂はもうすぐ。ガスの中に三

角屋根の小屋が見えれば氷ノ山に到着だ。
しかし、今日の目的地はあくまで三ノ丸。あまり長居して尻に根が生えてもいけないので、本日ここで宿泊予定の京都からの三人パーティーの方々や神大ヒュッテでもお会いした単独の方としばらく談笑し、早々にここをあとにする。
小屋から外に出てみると、先ほどよりもさらにガスが立ちこめていた。かといって、ルートは特に問題ではないので足早に三ノ丸を目指す。
山頂に着く以前より、高度を上げると共に天候が思わしくなくなって来ていたので今日の夕日を見れないことは既にあきらめていたが、それとは別に最大の心配事がもうひとつあった。
それは登山口を出発する時間が遅かったため三ノ丸に到着する時間が必然に遅くなることに起因するのだが、氷ノ山山頂を発ったのが18時近くになっていたため、もし三ノ丸の小屋に宿泊者がいて自分の泊る余地がなかった場合どうするかという心配である。三ノ丸の小屋に今日泊る人が何人いるのか、そしてそこに今日、本当に泊まることが出来るのかをこの時点で把握できていないことが最大の心配事だったのだ。
そもそも、そこには一般に二人しか宿泊は出来ないので、既に二人以上の人がいれば、それでアウトなのだ。
最悪、再度山頂へ引き返し、山頂小屋で宿泊することも考えながら歩いた。
18時半、三ノ丸に着いてみると・・・、大きな音を上げる発電機や展望台には巨大なアンテナとその下にはテント。
「いやな予感が当たってしまったか・・・」
テントに向かい声を掛けると、応答はなく
「一人であってくれ。」
こう祈りながらすぐ先の小屋まで歩き、ドアーを恐る恐る開けて見ると・・・、
「あっチャーっ。」
意に反しそこには三人の顔があった。
この時、きっとお互いが別の意味で驚き合ったはずだ。
しかし、遅い時間の到着にもいやな顔ひとつせず快く席を空けてくださったのでずいぶん気持ちは楽になった。
また、話すと皆、気さくな方ばかりだったので、ここで泊れる様に話が落ち着くのにそう時間は掛からなかった。

しばらくののち、鳥取側・展望所近くでテン泊の単独の方も交え、アユの塩焼き、イカや干物の焼き物と、到底ここが山上とは思えない海、川のご馳走を頂きながら山の話に花を咲かせ談笑しながらの夕食となった。
明かり取り窓がわずかに赤く染まったので急いで展望台に向かうと、地平線と雲とのわずかな隙間がこれまでに見たことのないくらいの凄まじさで真っ赤に焼けていた。
小屋に戻り談笑するうち、いつしかとっぷりと日は暮れ夜は更けた。
夜中に小屋から外に出てみるとすっかりガスは晴れ、北極星を中心とした北の天空には素晴らしい星空が広がっていた。
この調子なら
「明日の朝日はきっと素晴らしいに違いない。」
こう思いつつ床に就いたのは25時頃だった。
翌早朝、4時過ぎ目を覚まし展望台に足を運ぶと、案の定、昨夜の思惑通り素晴らしい光景が広がりつつあった。
北東の空一面、
「これでもかッ!」
と言わんばかりにまず茜色に染まり、次第に赤味を増したかと思うと辺り一面、空を真っ赤に染め上げた。
どちらかと言えば『荘厳』と言うよりはむしろ『厳(おごそ)か』に近いものを感じる夜明けだった(違いがよくわかりませんが・・・)。
他の時期に比べると随分北から上がる太陽も新鮮だったが、眼下に広がるこの時期に見る雲海もまた同様だった。
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雲海 |
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明け行くブナの森 |
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三ノ丸小屋 |
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強風に揺れるチシマザサ |
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ブナ林 |
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氷ノ山〜三ノ丸には見事なブナ林が広がる |
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見えたのは朝日ばかりではなかったことは言うまでもない。
西には大山から三鈷、矢筈、甲へと続く稜線を遠くに望み、那岐山の稜線は東山の向こうに手に取るようにくっきりと見える。
南には、三ノ丸の代表的景観ともいえるササの海原が大きく広がり、その奥には三室山、後山の遥か彼方に瀬戸内海も見えそうなほどの眺望が広がる。
東には千ガ峰稜線の向こうに六甲の影もうっすらとあるような無いような。
東から北にかけ、丹波高地や丹後半島の山々が横たわり妙見、蘇武の左、真北にはここでの主役、氷ノ山と扇ノ山や鳥取との県境の山々と、もちろんその奥には日本海。
目の前には360度、ぐるりと素晴らしい景色が広がっていた。
二時間ほど景色を堪能したあと、小屋に戻り朝食とした。
その後、荷をまとめ小屋をあとに再度、氷ノ山に向かう。
普通なら雪のない時期、30分程度見ておけば歩けるこの間を倍以上もかけてゆっくりと写真撮影しながら歩いた。
氷ノ山山頂に着いてみると静かだった三ノ丸やここまでの稜線とは雲泥の差ほどの賑わいで、まだ朝早い時間にもかかわらず(9時頃だったかな?)既にそれなりに人が上がって来ていた。
皆に習い、しばらくゆっくりしたら下山する。
神大ヒュッテ上からは森のミネラルをたっぷり吸い込みながら森林浴気分で森を縫ってのんびり下る。
大屋町・避難小屋を見てさらに下り、林道を走るバイクの排気音が聞こえてくると大段ヶ平の登山口に出た(11時過ぎ)。
兼ねてよりどんな滝なのか確認したかった、今冬、
三ノ丸より滑った際、難儀させられた三ツ滝に立ち寄り、自宅に帰り着いたのは午後2時だった。
ちょうど丸一日、24時間の充実の山行だった。