塔矢家の台所から味噌のいいにおいが薫る頃先生はいつも食卓に
現れる。
「進藤くん 盛り付け頼んでいいかしら?」
「はい。」
煮物の盛り付けを頼まれたヒカルは皿に彩りよく盛り合わせていく。
「きれいな盛り付けね。」
ヒカルは明子に褒められテレながら今度は炊飯器から飯をよそう。
「進藤君 随分家事が板についたわね〜たすかるわ。」
「サイが生まれてからお袋大変だからさ。
俺もできる事やんねえと。それに明子さんの手料理ご
馳走になってばかりじゃ申し訳ないし。」
夕刊に目を通していた先生が顔をあげた。
「明子 この間の見合いの事だが進藤君に勧めたらどうかね。
進藤君のほうがよほど家庭的だしいいんじゃないか?」
この間の見合い・・・それはアキラが断ったと言うあれの
事だ。ヒカルは苦笑した。
「そうですわね。進藤くんがアキラさんを袖にしたらあの子も諦め
るかもしれませんし。」
「それぐらいじゃ、アキラはあきらめんよ。少なくとも進藤くんが
結婚するぐらいでないとな。」
食卓の準備をしながら苦笑いしたヒカルはそれはちょっと無理だと
考える。
生殖機能に問題のあるヒカルには見合いも結婚もは考えられなかった。
「塔矢のやつまだあれからここには帰ってきてないの?」
「ええ。言い出すと聞かない子だから、ごめんなさいね。
進藤君には気を使わせて、」
食事の準備が整った食卓に明子が席についたのでヒカルもそれに
ならった
「ううん。俺はいいんです。明子さんの手料理に先生と碁が
打てるなら。」
「アキラでは君の相手として不足なんだろう。」
「ええ・・ああっ。」
先生に聞かれたヒカルはその意味を図りかねた。
そういう意味も込められてるんだろうか?
「えっと塔矢も 名人だし・・・。」
ヒカルの返事がしどろもどろだったが先生はそれに優しく微笑ん
だだけだった。
2ヶ月ぶりの我が家に帰ったアキラは玄関を開けた瞬間
食欲をそそる夕飯の匂いとともに、母の楽しそうな笑い声が耳に入った。
その笑い声に微かに進藤の声が混じっている。
我慢できなくなってアキラは居間へと急ぎ
戸を開ける前ではたっと足を止めた。
『塔矢のやつまだあれからここには帰ってきてないの?』
ヒカルの声。僕が家に帰らないから彼が足を運んでいるの
だろうか・・アキラは心臓をわし掴まれたようにトクンと大きく波打った。
『ええ。言い出すと聞かない子だから、ごめんなさいね。
進藤君には気を使わせて・・・』
更に母の何気ない言葉がアキラに追い討ちをかけた・・・。
けれど、両親の会話には温かさがあった。
関係は認めないと言っていた父も母も進藤の事は認めている。
『アキラでは君の相手として不足なんだろう。』
『えっと・・ああ、その』
冗談交じりの父の質問に戸惑うヒカルにアキラは苦笑した。
だが、ヒカルの返事は知りたかった。
『あいつも 名人だし・・・。』
はにかんだ様にそう言ったヒカルにうれしさとともに感じた
いとしさで胸がいっぱいになる。。
アキラはもはやそこに留まることができなくなって戸を開けていた。
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