塔矢家のおうちの事情 3






     
突然開いた襖に父が母がヒカルが振り返る。

「塔矢?」

ヒカルが座っていたのはいつもアキラが座っていた場所だった。
ヒカルはまるでそこに当たり前のように存在していた。

「そんなところに突っ立ってないで座ったらどうだ。」

「失礼します。」

父に負けないほどアキラの返事も素っ気無かった。

息苦しい空気がおのずとその場に纏う。
アキラがヒカルの隣に腰を掛けた時、明子とヒカルが同時に立ち上がった。

「塔矢の飯・・・」

明子がくすりと笑うと重苦しい雰囲気が和らいだような気がした。

「進藤君 アキラさんのご飯よそってくださる。」

「はい、」





ヒカルは慣れた様子で台所に明子と並んでとアキラの食事の準備を
こしらえる。
この様子ではここに来たのは今日が初めてではないのだろうとアキラは
心中でため息をついた。


「塔矢、飯。」

ヒカルに手渡された茶碗にはご飯が山盛りに盛ってあった。

「多かった?お前昼めし食わねえからこれぐらい食うだろう。」

いつの間にそういう気遣いができるようになったのだろう。
おそらく本人さえ気づいてないような些細なことなのだろうけれど・・。

でもその気遣いが明子と同じようにその場を明るくしている
ような気がした。

「ありがとう。頂くよ。」

会話はなかったがそれでもヒカルのいる家にアキラは心が和んだ。





食後 父との対局はさすがにきつかったのか対局に負けたのは
ヒカルの方だった。
疲れをみせたヒカルが客間に戻ったのでアキラもその後を追った。


「お前先フロ入ってこいよ。俺布団敷いとくから。」

「君は泊まるの?」

「塔矢は帰るのか?俺はいつもここに来た日は泊まってるから。」

手馴れた様子で押入れから布団を取り出すヒカルにアキラは
ため息をついた。

「僕の部屋には滅多に来てくれないというのに、」

つい恨みがましい言葉がアキラの口をついた。

「ごめん。勝手なことして怒ってんだろ?」

「いいや。寧ろ感謝してるよ。僕は両親にもっと君との事を
理解してもらうよう努力すべきだったんだ。」

「俺そんなつもりでここに来てたわけじゃねえよ。」

声細くなった語尾にアキラは苦笑する。
だったらどんなつもりでここに通っていたと言うのだろう。
彼は素直じゃない。
もっと心を開いてくれたらと思うのに。

それでも理屈でなく自惚れでもなく彼がアキラを愛してくれていると
思える。

もどかしい想いを抱えたアキラは布団を敷き終えたヒカルの腕を取ると
額にそっとキスを落とした。


「君が泊まるなら僕も泊まる。よかったら君も一緒
にフロに入らないか?」

冗談半分本気半分だ。どうせ両親に知られているのだし。

「バカ!!さっさと一人で入って来い!」

ヒカルは顔を真っ赤にさせながらアキラに早く行けと背中をこつづいた。

でも部屋を出るときにチラッと見た君の表情ははにかんだように
微笑んでいた。





並べて敷かれた布団には少し距離があった。

それに心中でため息をつきながらヒカルがフロに入ってる間に
その距離を埋めて素知らぬふりをして横になった。

ため息混じりに布団についたヒカルはその事に気づいていたのだろうが
布団を元に戻そうとはしなかった。

アキラはそれに安堵してそっとヒカルの布団の中に手をもぐらせた。
戸惑いがちに握り返された手を絡めとる。


「進藤・・・」

「ダメだからな。」

念を押すように言われてアキラは小さくため息をついた。
さすがに壁向こう隔てて両親が眠る部屋でそんな事はしない。

「進藤・・・聞いて欲しいんだ。僕はずっと君と生きていきたい。
そのためならどんな犠牲も厭わないつもりだ。
両親の事もそう思っていた。最初から僕たちの事を認めてなどくれは
しないと決め込んでて、でもそうじゃなかったんだ。
父も母も君を認めている。」

もちろん認めるといってもアキラとヒカルの関係を認めたわけではない。
それでも もっとアキラは努力し両親に理解してもらえるように
働きかけなければいけなかったんだと思う。




アキラはヒカルの布団に入り込むとその体を抱き寄せた。
こんな風に抱きしめたのももう1月ぶりのことだった。

「今度から君がここに来るときは僕も一緒に来るよ。」

「俺が来るときに限らずだ。お前はもっと先生や明子さん
に感謝すべきだと思う。俺はさ、お前のように思えない。
家族は大事だし犠牲にしてまでなんてことは考えねえ。」

「わかってる。」

ヒカルは両親を弟のサイを大切にしてる。
アキラと同じ気持ちでいて欲しいなんてただの我侭なのだということは
十分にわかっている。
それでもこれだけはアキラはどうしても言わずにいられなかった。

「それにしても、僕との時間をもう少し作ってくれてもいいんじゃ
ないか。もう1月も二人で会ってない。」

アキラの背に回されたぎこちない腕をぎゅっと抱きしめた。

「・・・・来週はお前の部屋に行くよ。」

その返事に満足してアキラはヒカルの唇にキスを落としたのだった。






朝6時前ヒカルがアキラの腕からそっとぬけ出した。結局使わなかった片方の
布団を片付けだすヒカルにアキラも起きあがる。

「随分早いんだな。」

「うん。俺 朝めし手伝ってくる。」

「僕も手伝うよ。」

二人で台所に立つと明子が目を丸くした。

「明子さん。今日は俺とアキラで朝食作るからゆっくりしててよ。」

「本当に?それは楽しみね〜」

台所を後にした母にこういうのも悪くないかもしれないなとアキラは思った。

「なんだか新婚みたいだと思わないか?」

ヒカルは切っていた大根を取り落としそうになる。

「俺とお前がっ?て変なこと言うなよ。」



『俺とお前が?』
アキラはそこまでは言っていないのだが・・。
そう言ったヒカルの言葉を心の中で反復すると我慢できなくなってアキラは
噴出した。

「お前今思いだし笑いしただろう。いやらしい奴だよな。
米早く洗えよ。」

「ああ。」

真っ赤な顔をして必死にそれを抑えているヒカルがたまらなく愛しい。
だがそういったらヒカルは怒るだろうか。



朝食の準備が整って4人が食卓を囲むと明子が笑った。

「あなた なんだか息子が増えたような気がしません。」

母の冗談にアキラとヒカルは顔を見合わせた。

それに返事をかえさなかった父が今日はいつもより
もずっと近く感じたのはアキラの気のせいではない気がした。



突然のチャイムの音と同時に玄関の戸がガラガラと音を立てた。

「あら 今日はやけに早いわね。」

明子より先に立ち上がったのはヒカルの方だった。。

「明子さん俺が行きます。」

何の事かわからずにアキラがその場で様子を観ていると予想外の
人物が訪問してきた。

「緒方さん!?」

「珍しいな。アキラくんが来てるなんてな。」

それはこっちの台詞だとアキラは思ったがそれは言わなかった。

ヒカルが来ていることを知っていてここにきたそぶりと
アキラが邪魔だとでもいいたいような視線がアキラは気に入らなかった。


「緒方先生、飯は?」

「食ってきた。」

「じゃあコーヒーでもどう?」

「お前が入れてくれるならもらおう。」

わざとヒカルの隣に腰をおろし露骨な言い方をした緒方にアキラは
さらに嫌悪感を募らせた。

「いつものアメリカンでいいよな?」

「ああ。」

2年近くも緒方と一緒に暮らしたヒカルだ。
緒方の好みを知っていてもおかしくはないだろう。
それにヒカルは緒方とは・・・。
その事実も含めて未だ煮え切らない想いをアキラは感じ苛立った想いを
払拭するように立ち上がると食器を片付けた。



アキラが台所に来るのを待っていたようにヒカルがアキラの腕をひっぱった。

「塔矢・・・」

「進藤なに・・・?」

ふわりと金色の髪がゆれて近づいたヒカルの顔、
アキラはヒカルに唇を掠め取られた。

「俺 塔矢のこと好きだぜ・・・」

「し しんどう・・?」

ひゅ〜っと冷やかすような緒方の声がする。。
両親の目の前でアキラはやられたなと感じながら自分も負けずとヒカルに
キスを返した。

「ああ、僕もキミが好きだ」、と






あとがき

本編が暗かったので終えたら思いっきり甘い二人を書きたいと
思っていたのですがなぜか弾けちゃいました(笑)
まあでもアキラとヒカルが一生を共に暮らすならいろいろと問題もある
だろうしこういう話題が出てくるのもありでしょう。
というわけで(どういうわけだ?)
よかったら同じく番外編のSWEET HOMEもよろしくデス。

     
      
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