情熱大陸 





 あれからヒカルが部屋に通うたび二人はキスを交わすようになった。
 ぎこちないキス、ヒカルのアキラへの


 だが、アキラにはヒカルが嫌がっているようには見えなかった。
 でなければアキラが告白した後も変わらずヒカルは部屋に通ったりはしないだろう。


 「進藤 もう十一時時を回ったよ。」

 「いけね。俺また・・・」

 慌ててバイオリンを片付けだすヒカルは、急にそわそわと落ち着きを無くす。
 別れ際にきまってアキラがヒカルにキスを仕掛けるからだ。

 ヒカルのそぶりは余計に不自然さを感じさせアキラは苦笑を漏らす

 「じゃあ 塔矢 また明日な・・」

 逃げるように扉のところまで行ったヒカルをアキラが追いかける。

 「進藤 忘れ物だよ。」

 「えっ?」

 振り向きざまにキスを掠め取る。

 「あ・・・」

 突然のことによろめいたヒカルを僕は抱きすくめた。   
 すぐ傍にある吐息 触れた体に互いの心臓は飛び出しそうな程早くなる。

  アキラはヒカルの唇にもう1度それを押し当てた。
 今度はゆっくりと 長く甘く 優しく 激しく・・・

 それは角度をかえ次第に深くなっていく。

 

 体を固くしてヒカルはそれを受け入れる。
 おそるおそる
想いを手探るように。

 アキラは大事そうにヒカルが抱えるバイオリンを取り上げると指を絡ませた。
 甘い痺れがそこから全身へと伝染していく。

 もっと もっとヒカルを知りたい。近くに行きたい。

 加速していく想い・・・
 このままヒカルを自分のものにしてしまえたらどんなにいいだろう。

 

 アキラは熱くなりはじめた下半身を這わせるようにヒカル自身に押しつけた。
 ヒカルの下肢も熱を含んでいた。

 だが、突然訪れた羞恥心にヒカルはアキラの腕を力一杯に撥ね退けて
 バイオリンを慌てて抱えなおした。

 

 「と・・・ 塔矢のバカ!」


 茹蛸のように真っ赤になったヒカルは「もうこの部屋には来ねえ!」
と言い捨てると振り返ることもせず部屋から飛び出していった。

アキラはその背を追いながら小さなため息をついた。


 ヒカルは一体僕をどう思っているのだろう・・・手ごたえを感じないわけじゃない。
だからこそ淡い期待を抱いてしまう。




 彼がいなくなった部屋はまるで抜け殻のように冷たく音もない世界で、
アキラはヒカルの名残を求めて指をのばした。

 

 胸の奥に残る彼のバイオリンの音色を抱きしめながら・・・

 



再編集2006年11月

                                    

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