情熱大陸 2
あれからヒカルはアキラの部屋へ毎日のように顔を出していた。
「ああ〜やっぱわかんねえ〜」
「それは・・・」
アキラはピアノにむかうと鍵盤を叩く。
「ドの音の3度上がミそのもう3度上がソ。
ハ長調のTのカデンツ・・・だからこれは転回形で・・・」
アキラはピアノで3音をなぞってみせる。
「基本はそこからだよ。」
問題には簡単なコードネームとその進行 が書かれていた。
頭を抱えながら音をたどるヒカルにアキラは小さくないため息をついた。
「君がこんなに譜面を読めないなんて思わなかったよ。」
「うん。それよく言われる。俺小中学校で習った音楽知識しかなくてここに
入ったものだから、もう楽典や 古典音楽なんてからっきしわかんねえし・・・
大体なんで 日本人なのにドイツ音名なんて覚えなきゃならないんだ。」
「それをいうなら君は日本音名だって覚えてないだろう。
よくそれでこの学園に入れたものだよ。」
「俺 推薦されたんだぜ。師匠の藤原 佐為先生に・・・それで。」
それは後から聞いた事だった。
藤原は父が指揮者を勤めるN響楽団のバイオリン奏者。
父が信頼する コンサートマスターだ。
確かにヒカルの持つ音楽性はずば抜けて優れていた。
1度聞けば音をすべて聞き分けられるという絶対音感だけでなく。
実際楽譜を見ずに耳コピで音をとらえ なおかつ瞬時にそれを自分流に
アレンジしてしまうヒカルを目の当たりにしたアキラはその稀なる才能
に何度も驚かされた。
「進藤、専門科以外でもピアノは必須科目だし初見だってあるんだ。
このままでは落第するよ。それでもいいのか?」
落第ときいいてヒカルの顔が引きつる。
「しっかり勉強しないとね。」
アキラはヒカルが集中できるようにグランドピアノでなくサイレントピアノを弾いた。
ふと気づくと机でこくりこくりとヒカルは眠りこけていた。
バイオリンを弾く時は、僕の方が、「切り上げよう」というまで弾き続けている君なのに・・。
「全く君は困った人だね。明日は追試じゃなかったのか?」
そういいながらも アキラはヒカルを支えベッドへと連れて行く。
線が細いとはいえさすがに自分と同じ歳の男の子を 支えるのは一苦労だった。
ベッドにおろす時にはずみで一緒にヒカルと一緒に倒れこんでしまった
アキラは大きく心臓の音が跳ね上がった。
すぐ傍にヒカルの吐息を感じたからだ。
乱れた金色の髪 小さくあいた唇に誘われているようでアキラは頬をそめた。
・・見てはいけない。
けれど目はそこに釘ついたように離れなかった。
触れたい・・・君に。
湧き上がる好奇心と欲望に勝てずアキラはそっとヒカルの唇にキスを落とした。
「ううん〜」
息苦しいのかヒカルの小さな喘ぎがアキラの口内に伝わってくる。
やわらかく甘いその誘惑はアキラをその先へと駆りたてようとする。
無防備なヒカルへの裏切り。けれど胸に巣食う想いは止められないほどにあふれ出て、
アキラは必死でその想いを拳をつくり胸に強く押しつけて押さえつけた。
そうしてアキラはもう1度ピアノに向かった。
ヒカルへの情熱が ピアノへとかわるまで。
再編集2006年11月