昼過ぎの平日の水族館は客足も少なく子連れにはぴったりだ。
サイは大きな水槽におでこをくっつけるほどに魚を眺めていた。
「にーに あの魚何?」
聞かれても俺には魚の名前などわからない。
「え〜と。」
ガラスに書かれた説明を探そうとすると
すかさず塔矢がサイに答えた。
「カジキマグロだよ。」
「あれがすしになるの?」
サイの質問に塔矢がおかしそうに噴出す。
「まあ そうだね。」
「サイは寿司がすきだもんな。」
大きなマグロに釘付けになっているサイはほけーと
マグロの大群を追う。
「あのおおきなのはなに?」
「あれはマンボウだよ。」
それぐらいは俺でも知っていたのに・・・
やっぱり応えたのは塔矢で、いつの間にか
サイは俺の手でなく塔矢と手をつないでいた。
それにちょっとむっとしながらもサイが塔矢になつくのは悪い気はしない。
ショーの時間になって3人で席につく頃には
ヒカルとアキラの間にサイが座っていた。
イルカが大きく飛び跳ねてサイがその動きにあわせて仰け反った。
「すごい!!」
目を輝かせるサイ。
以前はずっと一緒でもこんな所には連れてきた事などなかった。
思う存分碁を打たしてやる事も出来なかったし。
今はただサイのために俺はあの時出来なかった事を
してやりたいと思う。
いつか迎える事になるであろう一人のライバルとしての
自分はもうしばらく取って置きたいとヒカルは思う。
ショーが終わると湖畔にあるファミリーレストランで3人で食事を取った。
「ちょっと失礼するよ。」
塔矢が席を立った隙に俺はリュックから一つの薬を取り出すと
一瞬躊躇ったがそれ飲み干した。
レストランを後にして、
疲れたのかぐずりだしたサイを俺はやむなくおんぶする。
「進藤 リュックは僕が持とう。」
リュックを手渡すと塔矢がぐずりだしたサイを覗き込んで頭を撫でた。
それに安心して目をつぶるサイ。
塔矢はきっと結婚して子供が出来たらいいお父さんになるだろう。
本当は俺なんかに縛られてるほうがおかしいのだと思う。
そう思うと俺は辛くなった。
塔矢に応えることが出来ない俺。
俺が塔矢に応えられないのは何もサイの事だけじゃない。
車に乗り込むとサイは助手席に座った俺の膝の上でこくんこくんと
眠りだした。
そういえば今日はお昼寝さえしてなかった。
あれだけはしゃぎまわって走り回ったのだ。疲れたのだろう。
「塔矢 たまにはこういうのもいいだろ?」
運転する塔矢がちらりと俺の膝の上のサイに目を落とす。
「まあ悪くはなかったけれど。サイくん寝たの?」
「ああ。こいつ昼寝しなかった時は晩御飯、食べた後
朝まで寝てしまうんだよな。ってそう言えば、
おれこいつのおしめするの忘れてた!」
「サイくん おしめしてるの?」
「寝る時だけな。」
「今すぐしなくても大丈夫だろう。部屋に戻ってからでも、
ここからなら遠くはないし。」
「まあそうだな。」
だが、そうは言ったものの7時過ぎの首都高は非常に込んでいて
高速とはいえない。
一般道も全く進む気配はなく俺はふーっとため息をつく。
「困ったな。30分たってもほとんど進まねえの。
これじゃあ いつになったらお前のマンションに
つけるかわかんねえな。」
どこまでも続く渋滞に目を細めると塔矢が俺を見つめていた。
俺はその塔矢の熱い眼差しに気づかない。
「進藤 サイは朝まで起きないのか?」
「まあ〜昼寝しなかった時はおきる事はまずないな。」
「そうか。」
俺がそういうな否や塔矢がウインカーを出した。
「塔矢?」
塔矢が曲がった先に俺に目に入ったのは派手派手しいばかりの
ネオンの看板。
「と 塔矢お前まさか。」
塔矢が車を泊めた場所に俺は抗議する。
「な〜何考えてるんだ。バカ!」
俺が怒鳴り声を上げると塔矢が声を落とすように俺に即した。
「君の弟がおきてしまう。」
言うに事欠いてそれはないだろう。
大体子連れで野郎2人でで来るところではない。
そう俺が抗議する間も与ず塔矢が運転席から降りた。
俺は車にへばりついたままでいると助手席の扉が開いた。
「進藤今日は大丈夫なのだろう。」
「な?お前!」
先ほど薬を飲んでいる所を見られたのだろうか、俺は
か〜っと体が熱くなって顔を逸らした。
「進藤?」
もう一度同じ問いをかけられて俺は認めるしかない。
「だからって何でこんな所なんだよ。」
「僕は君が欲しい。一瞬だってもう待てそうにないんだ。」
ストレートに言われた言葉に俺は眩暈すら覚える。
「もう1ヶ月以上も君には触れていない。
この間もその前も君は触れさせてはくれなかった。」
「そんなこと・・・わかってたことだろう。
そんな俺でもいいっていったのはお前じゃん。」
塔矢の顔が翳る。
「わかってるつもりだよ。君が精一杯僕に応えようとしてくれている事も。
僕のために今日・・・薬を飲んでくれた事も。
だからこんな機会を逃したくないんだ。」
「塔矢・・・!?」
やはり俺が薬を服用する所を見られてたんだ。
こうなれば俺はもう降参するしかない。
「ああ もう わかったよ。」
サイを抱こうと手を差し出した塔矢に俺は首を横に振った。
「サイは俺が抱いていく。」
サイの顔が見えないように俺は注意深く抱きかかえると
とにかく目立たないように塔矢の後ろから歩いた。
幸いなことに、ここのホテルは駐車場から部屋が繋がっていて
途中誰とも会わないですんだ。ひょっとして塔矢はこの事を
知ってたのじゃないかと思うとなんだか腹がたってきた。
部屋に入った途端 どーんと大きなベットが目に入った。
その真上には大きな鏡。こんなところにサイを寝かさなくては
いけないのかと思うと俺は心底頭が痛くなったがそれでも
ソファーよりはマシかとそこに寝かせる。
カバンからおしめを取り出してそっと抱えておしめをするとサイが
「う〜ん」とうなり声を上げた。俺はそんなサイの背中を優しく
トントンと撫でてやるとまたす〜と静かに眠りに入っていく。
それにほっとして布団をかけてやると背後から声が聞こえた。
「手馴れてるね。」
「まあな。俺いい婿にはなれるとは思うんだけどな。」
これは結婚できない俺の塔矢に対する嫌味とあてつけ。
「君を婿に行かせるつもりなどないけどね。」
「お前は俺が結婚出来ない事知ってるくせに」
「君にその気がないだけだろう。」
塔矢はそれだけ言うと俺に近づいてきてきつく抱きしめてきた。
その目はすでに欲情に濡れていた。
俺はちらっとサイに目を落とす。
寝ているとはいえさすがにここではそういう気分になれそうにない。
「塔矢、サイがいる所では俺やだからな。」
何があって起きてしまうかわからない。
「バスルームならいい?」
軽くうなずいた俺に塔矢が手を引いた。
脱衣所に入り互いに服を脱いでいく。
すべてを脱ぎ終えた俺はやっぱり塔矢と向き合う事が
出来なくて顔を背向けた。
そんな俺に塔矢が近づいてくる。
背後から抱きすくめられて塔矢に感じた体温に体中に血が上ったような
熱がわき起こる。普段の俺にはありえない感覚。
触れた肌の熱さ耳もとにかかる吐息に心臓がドキンと音を立てた。
背中に這わされた指が突然俺の肩をつかむとくるりと体ごと変転させられて、
塔矢の濡れた瞳に吸い込まれて、長く 熱いキスが交わされる。
まるでキスだけで体すべてを持っていこうとするようなキス。
お互いの唇が離れる頃には俺はそれだけでもう息が上がっていた。
あちこちに這わされる手、塔矢は久しぶりの俺の身体を
堪能するように 優しく 特に激しく追い詰めていく。
シャワーの雨の中、俺は塔矢に泣かされる。
「はあああ」
一つになった体に耳もとで掠められる声。
「進藤 君の心も僕に見せて。」
塔矢のつぶやきが胸に突き刺さる・・・
俺の身体だって心だってとうに、塔矢にあるのに。
だが薄々塔矢も感じているのだろう。
俺が一緒に住まないのはサイのことだけじゃないって事を。
・・・塔矢アイシテル
塔矢に持っていかれた身体がおれの言葉よりも先に悲鳴をあげて、
背中にある塔矢に倒れ込むように身を任せた。
優しく包みこまれるように抱き上げられた。
辛い体を横たえた大きなベット 俺の右隣にはサイ
左には塔矢がいる。
天井を見上げると3人が並んだ姿が映っていてそれがなんだか
不思議な気がする。
俺が寝相の悪いサイに布団をかけ直すと塔矢が
後ろから抱きしめてきた。
暖かな腕に酷使された身体が心地よい眠りを誘った。
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