突然サイがひっくひっくとしゃくりだした。
俺は慌てて背中を摩るがどうもそれだけでは
収まらない様子にうろたえる。
「うわーん、ママ ママ 」
まずい夜鳴きだと思った時には塔矢の腕を抜けて
ダルイ身体を何とか起き上がらせてサイを抱え込む。
「ママ ママ・・・」
か弱かった声がだんだん大きくなるのは
ここが知らない場所だと言う事に気づいたのとお袋がいない不安からだろう。
「サイ にいちゃんいるから。大丈夫だから。」
塔矢も慌てたように起き上がる。
「進藤どうしたんだ。」
「夜泣き みたいだ。」
俺と塔矢の会話に余計にサイが大きな声を上げて泣き出した。
「うわーん。」
「まずいな。」
俺の言葉に塔矢が顔をしかめた。
「進藤いつもどうしてるんだ。」
「いつもは・・・」
お袋が抱っこするとすぐに収まるのだ。
「お袋しか夜泣きはどうしようもない・・」
「仕方ないな。今からここを出よう。」
確かにホテルの中で子供が泣き叫ぶのは迷惑と言うものだろう。
「今から?」
「この時間なら君の家まで行ってもそうはかからない。」
わかった。
俺はすぐに支度をする。
その間俺はサイにお気に入りのしましま人形を渡した。
しゃくりながらしま人形をぎゅっと握めるサイ。
俺はそんなサイをぎゅうと抱きしめた。
車に乗ると家に帰る事がわかったのかようやくサイも大人しくなって
また俺の膝の上でうとうとし始めた。
家までつくと電話した事もあってお袋がすぐに出迎える。
お袋の顔を見るなり抱きついたサイにほっとしたような寂しいような気持ち、
やっぱりまだサイにはお袋が一番なのだ。
「塔矢くんごめんなさいね。夜中に送ってきてもらって。ヒカルよかったら
塔矢君にお茶ぐらい入れて上げなさい。」
塔矢がそれをやんわり断る。
「いえ 夜分ですし、それよりサイくんを早く寝かしてあげてください。
5月といえまだ夜は寒いですから。」
「ええ そうさせてもらうわね。」
そういって家に入ろうとしたお袋が振り返る。
「ヒカル。あんたは?」
一瞬お袋の問いかけに躊躇する。
「鍵開けといて、俺もすぐ入るから。」
「ええ。」
家に消えていくお袋とサイに俺は大きくため息をついた。
「塔矢悪かったな。今日は・・」
「いいや、君も家に帰るのか?」
「うん。」
「進藤 サイだっていつかは君から離れていくんだよ。
僕は・・・ずっと君の傍にいるけれど。」
塔矢が続けたいのは、いつものセリフ。
「それでもここが俺の家だから。」
「君もお母さんがいいわけだ。」
塔矢の言葉に俺は噴出す。
「もう お前バカだよ。そんなわけないだろ。
俺一回しか言わないからな。
俺の帰る場所はお前がいる場所だ。いつになっても、何があってもだ。」
言ってしまった後ちょっとキザだったかなと思うと照れくさくなって
下をむいた。
「進藤それって・・・」
塔矢に言われてからしまったって気がついた時にはもう遅い。
「いや 違う それは。」
「進藤 僕は待ってるよ。・・・・君を。
君の帰る場所は僕の所にあるというなら、」
「なっ、・・・。」
俺の想いはもう誤魔化しきれそうにはない。
きっとこうやっていつかお前に流されて一緒に暮らしてしまうことになるのだろう。
でもやっぱり俺は今あいつから離れるわけにはいけない。
俺は塔矢に背を向けて家の扉に手を掛ける。
「そうだなサイが結婚した時は考えてやるよ。」
「僕はそんなに待たなくては行けないのか?」
「俺 お前に気もたせてるだけかもな。」
玄関のドアを開ける。
後ろ髪惹かれそうになりながら俺はつぶやくように言った。
「けど・・・そんなに待たすつもりはないけどな。俺」
「進藤・・?」
背中でパタンとドアを閉めた。
塔矢に聞こえたとは思えない。俺ってずるいかな。
自室の部屋に入って携帯に着信が入っていることにきづく。
塔矢からのメール・・・。
「愛してる。僕も帰る場所はいつも君が在るところだ。だから
一緒に暮らそう。」
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