「ピンポーン」
塔矢のマンションのインターホンを鳴らす。しばらく応答がなく
なんの連絡もせずここに来た事を後悔する。
俺が断ったから何処か出かけたのかも知れない。
手をつないでいたサイが不思議そうに俺を見つめる。
「にーにいないの?」
「かもな。」
もし、いなかったらせっかくだからこのままどこか
サイと出かけようかと思っていたら突然玄関の扉があいた。
「進藤!?」
「ごめん。そのさ、俺もお前に会いたかったから来ちゃった。
子連れだけどな。」
俺が照れくさそうにいうと塔矢の目が俺の足元のサイに降りた。
「サイくん こんにちは。よく来たね。おにいちゃんと一緒にどうぞ。」
「わ〜い。」
勢いよく駆け上がったサイの後から俺が部屋に入る。
「子連れでごめんな。」
「いいよ。君に会えないよりはずっといい。」
塔矢の熱い瞳に気がついて俺は戸惑った。
普段なら部屋に入った傍から塔矢は俺を離そうとはしないのだ。
だけど今日はサイがいる。
部屋に入った傍から家とは勝手の違う塔矢の部屋を
サイがあちこち走り回る。
「サイくんの遊ぶようなものは、おにいちゃんの家にはなくて
ごめんね。ジュースでも飲む。」
「うん。飲む。」
塔矢の言葉にタタタっと後をついていく。
「随分大きくなったね。」
「お前1年ぶりだろ。そりゃかわるさ。一緒に住んでる俺でも
サイの成長には驚くのに。それにこいつ碁の上達も早いんだ。
1局1局打つごとに成長するんだ。俺むちゃくちゃ楽しみだぜ。」
「さすが君の弟だな。」
寂しげな塔矢に俺は笑う。
「そう俺の弟だ。」
本当はその後に続く言葉がある。だがそれは言わない。言えない。
お互いわかっていることだから・・。
「だから君はいつまでも僕とは暮らしてはくれない。」
そういわれてヒカルの口元からくすりと笑みが漏れた。
「お前会えばそればっかだな。」
「僕はいつだって真剣に言っている。」
塔矢の熱いまなざしに俺は応える事が出来ない。
そう俺はサイに碁を教えると約束したから。
今度こそずっと一緒にいると決めたから、
塔矢の想いには応えてやれない。
部屋の散策にも飽きてしまったらしいサイが俺と塔矢の元に戻ってくる。
「ごめんね。退屈だね。」
「そうだ。塔矢これからどっか出掛けねえ。
せっかくだからさ。3人で。」
「いいけど。どこに?」
「そうだな。サイ 何処か行きたいところない?」
「う〜ん 本物のお魚がいっぱいいるところがいい。」
「水族館か」
「うん。」
「子連れなら車の方がいいだろう。車を出そう。」
「助かるよ。」
普段塔矢と二人だとほとんど出かけない。たまには
こういうのもいいかもしれない。
塔矢はすぐにPCを使って今からでもいける水族館を
探し出す。
「しながわの水族館はどう?近場だし水族館としては小規模だけど
イルカのショーもあるようだよ。」
「イルカ?」
塔矢のイルカの言葉にサイが目を輝かす。
「それがいい。」
「決まったな。」
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