空を行く雲


13




     
「僕は君を抱けない」



それがアキラの精一杯の抵抗だった。
もう1度胸倉を掴まれる。



「もう俺の恋人でもライバルでもねえなら帰ってくれよ。
・・・帰れよ。」

「進藤・・わかって欲しい。僕は今だって君を愛してる。」


以前よりもずっと。
前を行く君がまぶしすぎるほど。

「だから抱けないんだ・・・・

「僕は恋人である前に君のライバルでありたいと思う。
ふがいない君のライバルでいたくないんだ。」

「塔矢・・・」

ヒカルは肩を震わせ何かに耐えるように瞳を閉じた。






アルコールのせいだろうか。そのまま腕の中で眠ってしまった
ヒカルをアキラはベットへと運んだ。

その寝顔は僕のよく知ってる横顔で湧き上がりそうになる欲望に
夜が明けるまで必死に耐えた。

7時前アキラは身支度を整えるとまだ眠るヒカルにキスを落とした。

以前ヒカルはアキラにキスをされるたびに好きだと言われているようだ
と  そういったから。

想いが届くように。君を愛してる・・・。




待っていて欲しい。君に必ず追いつく。
もう一度追い越してみせる。



アキラはラピスラズリのキーを手に部屋を後にした。








7時きっかり1人マンションから出てきたアキラから
緒方は部屋のキーを受け取った。


「進藤は・・・?」

「眠っています。」

「・・・・抱いたのか。」

返事にはしばらく間があった。


「いいえ。」

「お前のちっぽけなプライドか・・・。」

鋭い視線が俺をにらんでいた。

「そうかもしれません。」

「お前がそういうつもりなら俺はもう遠慮はせん。」

相手にもならんと緒方は一瞥すらせず
マンションに入ろうとした所でアキラが吼えた。


「あなたに・・・進藤は渡しません。」

負け犬の遠吠えですらないと緒方は笑った。

「もうチャンスはないといったろう。」

緒方はもう立ち止まらなかった。







緒方は部屋に入ると一番にシャワーの音が飛び込んだ。
アキラは寝ているといっていたが
進藤はずっと・・・起きていたのだろう。

バスタオル1枚を腰に巻きつけて浴室から出てきた進藤の目
は充血していた。
アキラがこの部屋を出て行くのをじっと耐えていたのだ。


「アキラくんとは寝たのか?」

緒方は先刻アキラにした同じ質問をした。

「うん。寝た。あいつと同じベットで抱きしめられた。」

「それで満足したのか?」

「してねえよ・・・」

「何故 誘わなかった。」

進藤の表情がゆがんだ。

「抱いてくれっていったさ。でもあいつは俺とは恋人である前に
ライバルだから抱けないって。
それ以上いえないだろ。俺だって一緒だから。
あいつは恋人である前にライバルだから・・。」

「あんなやつ忘れてしまえ。」

年のわりに線の細い肩を抱き寄せた。
進藤は抵抗しなかった。

俺は膝を落とすと唇にキスを落とそうとして
それは直前ですり抜けた。

進藤が顔を背けたのだ。


「俺ならお前の欲しいものをやれる。お前のライバルに
だってなってやれる。あんなやつ忘れたらいい。」

背向けた瞳が、もどる。

そうだ。俺ならお前を傷つけたりしない。
守ってやれる。
俺は進藤を抱えると寝室の扉を蹴った。

ベットにおろし俺はもう1度進藤にキスをしかけたが
それは子供がいやいやをするように拒否された。



「忘れられないのか。」

こくりと進藤はうなずいた。

「なら 俺をアキラくんの代わりだと思ったらいい。」

「塔矢の代わり?」

「そうだ。」

緒方はは矛盾する事を言っている自覚はあった。

傍にあったネクタイを取ると進藤の目を覆った。

何をされるのかと思ったのだろう。はじめ嫌がった
進藤も 俺の「大丈夫だ。」という声でその抵抗を解いた。


「こうすれば誰が抱いているかわからんだろう。
俺ももう何も言わん。」







緒方はずっと焦がれていた進藤の肌に唇を手を這わせた。


アキラの代わりと言いながら俺ははじめから身代わりなど
する気はなかった。

進藤が自分から求めてくるようにじれったいほどの愛撫を
与えた。

「っあああ・・・。」

切ない喘ぎ声が大きくなり進藤の限界を教えていた。

だが俺はあえてそれ以上の愛撫はほどこさなかった。
困ったように行き場をなくした進藤の腕を掴み緒方自身の中心へと
その手を導いた。



進藤は戸惑わなかった。


     
    

空をゆく雲も次回で最終話になります。
  


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空を行く雲14