緒方先生のマンションで二人が10日をすごしてから
半年が過ぎた。
熱狂的だった追っかけたちもようやくなりを潜め
アキラはまた1人暮らしに戻っていた。
アキラとヒカルにとっての3度目の北斗杯の予選。
シードされているヒカルは予選会場に足を運んでいた。
「よお!進藤 高みの見物か?」
嫌味とも取れるが和谷が言うとそうは聞こえない。
「へへ そうかもな〜なんなら俺も予選トーナメント飛び入り
しようか?」
「いいって。お前の実力は認めてる。昨年日本を優勝
させた大将の一人だし留学から帰ってきてから負け知らずだしな。
ところでもう1人の大将はどうした?」
和谷の言うもう1人の大将とはアキラのことだ。
実は昨日の夜ヒカルはアキラの部屋に泊まっていたので一緒に
ここへ誘ったのだが・・・。
あの様子だとあと1人の代表枠には興味なさそうだった。
それを思い出しヒカルは苦笑いする。
もちろんそんなことは和谷にはいえない。
「塔矢は対局が終わった頃にここに立ち寄るって行ってたぜ。」
配られた対戦表を覗き込む和谷の顔が真剣になる。
ヒカルもその対戦表を覗き込む。
和谷の初戦相手は今年プロになったばかりの小宮だった。
その表の中にヒカルの探し人はいなかった。
「越智は帰ってこなかったんだ。」
ヒカルと入れ替わるように中国へ留学に行った越智は北斗杯への
出場に2度も煮え湯を飲んでいる。だから一旦帰国するのでは
ないかとヒカルは思っていたのだ。
「俺はあいつのことだから帰ってこねえって思ってたけどな。」
「そっか。俺もし越智が帰ってきたら今日打てないかなって思ってさ。」
ヒカルは昨年の若獅子戦のことがまだ尾を引いていた。
「そんな慌てなくても越智とならそのうち何度だって打てるって、
待っててやろうぜ。」
和谷はそういってヒカルの肩を叩くと対局室に入っていった。
「よおお進藤 久しぶりやな。」
「社!?」
盤の前に座った社が手を上げる。
「ええな〜お前はシードされてて。」
和谷と同じ事を言われてヒカルは空いていた社の向かいに腰掛ける。
「なんなら俺これから相手しようか。」
「望む所やっていいたいけどな。」
社が頭をかく。
「それは俺が代表になってからたのむわ。」
隣に座っていた和谷の表情が変わる。
「言っとくけどな、今年も俺がもらうからな。」
二人が無言の火花をちらす。
もちろん回りの連中も黙っているが皆それぞれに思っているはずだ。
ヒカルは対戦表をもう1度確認する。この二人が当たるのは
決勝戦だった。
対局開始を渡辺先生が告げた。
昼休憩を挟んで残ったメンバーは二人。
因縁の社と和谷だった。
決勝戦がはじまる前にアキラが会場に入ってきた。
「塔矢 意外と早かったんだ。」
「倉田さんから連絡があってね。会場にすぐ来て欲しいって。君にも
連絡したそうだけど、ここに先に来ている事を伝えたよ。」
「倉田さんが?なんの用だろう。」
ドタドタ足音を立てて特徴ある巨体が対局室に入ってきた。
「ああ〜何とか間にあった。」
対局室にあった人の目が一斉に倉田に向く。
「塔矢 進藤 お前らにもこれから対局してもらう。」
「えっ?」
倉田の突然の発言に対局室に残っていたメンバーが顔を見合わせた。
「俺は昨年塔矢も進藤も二人とも大将にした。甲乙つけられなくてな。
だが今年はお前らのどちらが上でどちらが下かはっきり
させたいと思ってる。進藤が中国から帰ってきてから
お前らの公式手合いはまだ1度もからな。」
社か和谷か。そしてヒカルかアキラか・・・。
倉田ははっきりさせたいと言っているのだ。
「望む所です。」
アキラは一呼吸おいてから盤の前に座った。。
ヒカルはリュックから扇子を取り出した。
「思わぬところで お前と公式手合いか。」
アキラとなら昨夜だって何度も打っていた。
けれど公式戦とは違う。
お前と俺どちらが上かここではっきりつけてやる。
2組の盤上での戦いが始まった
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