社と和谷の対局は社の中押し勝ちとなった。
アキラとヒカルは。
覗き込んだ社はその進行の遅さに唖然とした。
まだ中盤に差し掛かった所だろう。
持ち時間はあとわずか だと言うのにヒカルはこの1手に
40分以上も費やしていた。
それ程長考しなくてはならない場面だろうか。
社も和谷も次の1手を予想する。
だがヒカルが打った手は和谷と社いやその場に
いたものの予想とは全く違っていた。
アキラの地に飛び込んだのだ。
どう考えても無謀と思える一手。だが先を読んだアキラの表情は
曇った。
予想に反する1手が盤に広がり ヒカルへと流れが変わる。
それからほんの数手・・・負けを宣言したのはアキラだった。
「驚いたな。進藤の快進の1手だ。」
倉田の背には冷汗が流れていた。
ヒカルの碁に畏怖すら感じたのだ。
今の俺でも進藤には勝てるかどうか・・・。
天元のタイトルを目の前にする倉田さえ畏怖した碁。
対局した塔矢がどう感じたか倉田は気になった。
ライバルとして今ここに進藤は塔矢より上だと言う事を
宣言されたようなものなのだ。
アキラはその場を静かに席を立ち上がった。
北斗杯は今年もアキラとヒカルの勝利で日本は優勝を収めた。
だが、明らかにあの対局以来アキラとヒカルの距離は広がった。
そしてそれは若獅子戦でヒカルが圧倒的な優勝を収めた頃から
急速に加速していった。
アキラはすでに6段。若獅子戦には出場できない段位に
ついていた。
アキラの苛立ちをヒカルは感じていた。
ベットの中 いつものようにヒカルを抱き寄せる。
触れ合った素肌はすでにさめていた。
「進藤・・・」
呼ばれて夕刻の薄暗がりの中 ヒカルはアキラを見つめた。
「・・・」
言い出しかねてるアキラの曇った横顔が読めないわけじゃない。
「君と距離を置こうと思う・・・」
言葉とは裏腹にアキラの腕はヒカルを抱きしめていた。
まるで離したくないというように・・・
「お前、言ってる事とやってる事がちぐはぐなんだよ。」
ヒカルは小さく笑い声を立てそしてアキラの腕から抜け出した。
今度は俺が塔矢を待つ番なのだと理解したのだ。
佐為を追いかけてきたただ一途な眼差しを俺は知っている。
塔矢なら絶対に来る。
だから・・・・。
ヒカルは脱ぎ散らかされた服に手を取った。
アキラはただそれをじっと見つめていた。
俺待ってるから、もっともっと強くなってお前が来るのを待ってるから・・・
ヒカルはアキラの部屋を去った。
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