大地へ


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俺と塔矢が部屋を出る時丁度 和谷と鉢合わせした。

「あれ?進藤昨日は塔矢と寝たのか?」

和谷には全く他意はないのだろうが、俺はその言葉に
知らず知らず顔が赤くなる。
すると、和谷の後ろからひょっこりと楽平が顔を覗かせた。

「あれ楽平なんで?」

和谷がため息交じりで俺に言った。

「昨日の晩 帰って来たあと、寝ようとしたら部屋にコイツが来てさ。
俺広東語わかんねえしすげえ困ってお前か塔矢の所に行こうかと
おもったんだけど・・・」

『来なくてよかった!』なんて口には出せないけれど、とりあ
えず俺はうなずく。

「筆談して、そしたらコイツ緊張して寝れねえっていうし、趙石は気づい
てくれないっていうから俺の部屋に泊めたんだ。」


タタタタっとホテルの廊下をかけていく楽平を見送りながらその背に
和谷が言った。

「楽平 応援してるからな!」

楽平は言葉は通じなくても和谷の気持ちはわかったようだった。

楽平はうなづいて俺たちに大きく手を振るとエレベータの中に消えていった。
その後俺たち3人もエレベーターに乗り込んだ。



「何だ。お前と一緒じゃん。お前だって緊張して眠れねえって俺の
とこに泣き付きに来ただろ?。」

「な・・泣き付いてないだろ。」

塔矢が傍にいた事もあって和谷は声を荒げた。

「それに、俺はお前の部屋で寝たけど一緒のベットでは寝なかったろ。」

「当たり前だろ!!」

次に声を荒げたのは俺の方だ。大体塔矢のいる前で誤解されるような事を
言われるわけにはいかない。

だがチラッと覗き見た塔矢は口元に手を押さえて笑いを抑えている風で
俺は安心する。

「だろ。だけどあいつ俺のベットで一緒に寝たがるから参ったよ。
駄目だっていって今日の対局に響いてもいやだしあいつが寝たあと
ツインのベットに移ろうかとも思ったんだけどなんか気になって出来な
くてさ・・・結局俺寝不足だって。」

そこでエレベーターが1階について、あくびを一つかみ締めて和谷が言葉
を続ける。

「あいつ 伊角さん家に行ってもあの調子なんだろうな。困るだろうな。
伊角さん。」

「和谷も複雑だよな。三角関係も楽じゃねえなあ。」

和谷が憤慨して怒鳴り声を上げる。

「なっ!三角関係じゃねえって。変な事いうなよ。」

俺と和谷の様子を見ていた塔矢が今まで抑えていたのだろう
笑みをくすりとこぼした。


「ほらお前が変な事いうから塔矢にまで笑われちまったじゃないか。」

「そっか。お前も結局 伊角さんと一緒じゃん。俺は楽平は
お前のことも好きなんだと思うけどな。」

「頼むからそういう洒落にならん事はいうなって。」

「はいはい。」


曖昧な相槌を打つと和谷が盛大にため息を付いた。







レストランの前まで来ると倉田さんが仁王立ちして俺たち
3人を睨んでいた。

「おい。なんで5分も待たせるんだよ。俺腹減った!」




「倉田さんすみません。」

     
   

   


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