大地へ


16




     
伊角と分かれて俺たち4人がホテルに戻ったのは11時を回っていた。

「君たちはいいね。明日はゆっくり観戦できて。頼むから
中国を応援してくれよ。」

「わかってるって。」

俺と和谷は同時にそう楊海に返していた。

「じゃあおやすみ。」 「おやすみなさい。」



違うフロアーで泊まっている楊海と別れて3人になると
それだけでエレベーターの中の空気が変わったような気がした。
部屋に入っていく和谷に「じゃあな」と告げた後、
『今日は来るなよ!』って無言で和谷の背中に言ってやった。


和谷の部屋の戸もパタンとしまって、廊下に俺と塔矢だけになると
緊張で胸がドクンと鳴った。

俺は自分の部屋をカードキーで開けると少し先を歩いていた塔矢の腕を
強引に引いた。

「進藤?」

俺は塔矢をそのまま自分の部屋に導いて塔矢の唇に
それを押し付けた。それはほんの一瞬触れ合うだけのキスだった。

その後ろで戸が音もなくしまった。

音も空気も時間さえも遮断されてしまったような二人だけの空間が
沈黙と共に余計に重たく俺に圧し掛かった。




「いやだったか?」

黙ったままの塔矢の表情が読めなくて俺は俯いたままいった。

「いやなわけがないだろう!!」

押さえていた感情に火がついたように塔矢は俺の唇を荒々しく吸った。
お互いの心臓の音が早い。

塔矢の口付けに翻弄されて体がだんだんと変化していく。
ようやく離された唇に荒い息を継ぐと塔矢が耳元で囁いた。

「誘ったのは君だ。手加減はしない。」

「えっ!?あっ」

そういうが早いか塔矢と俺はベットになだれ込んでいた。



身に着けていたものが塔矢の手によって容赦なくはがされていく。

下着に手がかかって俺が羞恥で体が震えても塔矢は手を止めなかった。
言葉も前戯も交わされないまま

性急に俺を求めてくる塔矢。
塔矢に触れている全てが焼け付くように熱い。


押し付けられた唇からお互いの吐息も唾液も想いも交わって
肢体が悲鳴を上げる。





言葉よりも想いよりも体をぶつける事で埋め尽くされていく。

お互いに足りないものが、時間が、何もかもが・・・





交わった一点から快楽と痛みが体中に伝染していく。

俺の下半身はもう自分のものではないように思い通りにならず
塔矢に持っていかれている。

「しんどう!」

「んはあああ・・・とう・・や」



快楽に耐え切れなくなった塔矢の口から俺の名が漏れて
激しい波にさらわれた瞬間二人でベットに沈みこんでいた。


荒い息をつくと塔矢が少し顔を上げて心配そうに俺をのぞきこんだ。

「 進藤すまない。こんな風に抱くつもりじゃなかったのに。」

俺は言葉にする事が出来ず顔を横に振るとそっと塔矢の背に
手を伸ばした。

「進藤?」

「いい。俺塔矢を感じたかったから、」

塔矢にきつく抱きすくめられた。

感情と感情のぶつかり合い。
お互い余裕なんて何もなかった。

「進藤 足りないんだ。もっと、もっときみが欲しい・・・」

塔矢に応えてやりたいと思う。俺ももっと塔矢を感じたい。
でも俺の体はとても言う事を聞いてくれそうになくって
塔矢の耳元に呟いた。



「俺も欲しい。でも今しばらくはこのままでいて・・・」

「わかった。」

そういうと塔矢は俺を優しく包みこんだ。






先ほどとは違う優しいついばむようなキスが何度も交わされる。
そのたびに俺は塔矢に愛されているのだと感じる。

顔を上げると塔矢と瞳がぶつかった。

「進藤 もういい?」

そうきかれて俺は顔を真っ赤にする。

「 そんな事聞くなよ。」

「今度は優しくする・・・」

這わされた指は唇はくすぐったいほどに優しかった。














僕の髪に触れる指。遠慮がちに髪を掻き揚げて触れる
その手の温かさに僕は寝たふりを決め込む。

そんなに遠慮しなくてもいいのに。じれったくなるほどの君の手がとまって、
額に軽いキスが落とされた。
どうせなら唇にしてくれたら・・・なんて心のなかで僕は苦笑する。



名残惜しそうに僕の腕にあった温もりがベットから消えていった。

そっとその後姿を追うとバスルームへ入っていく進藤の姿が目に入った。
こんな目覚めなら 毎日だって大歓迎したい。


重たい体を起こすと急に進藤の事が心配になった。
僕は昨日 散々彼の体を貪って・・・


バスルームに入ると進藤はシャワーを浴びていた。

その姿に眩暈すらする。昨夜も感じた事だが、この1年で
進藤の体は子供のそれから大人へと変化を遂げていた。


少し焼けた小麦色の肌。細かった体にも均衡のとれた筋肉が
ついて僕はまた体の中で湧き上がる欲情を感じた。





「塔矢 !?ごめん 俺起した?」

「ああ。君にキスされたから、でも、どうせなら唇がよかったけどね。」

催促したわけではないのだが、進藤が真っ赤になって僕をシャワー
の中に引きずりこむと軽くキスを交わす。

僕はそれでは物足りなくて進藤の唇にもっと深く這わせた。
その途端進藤の体がぶるっと跳ねた。

「バカ それ以上は駄目だ。お前の事だ。それだけで済まされなるだろ。」

酷い言われように僕は思わず苦笑する。あれから3度も進藤と体を
交わしたのだから当然といえば当然なのだろう。

「ところで進藤 体の方は大丈夫?」

「大丈夫でなかったらどうするつもりだったんだよ。」

そうな風にかえせるぐらいなら大丈夫なのだろうと少し
安心する。

「つい、君に誘われたものだから。」

「お前、俺が誘った 誘ったって言うけど準備万端だったじゃないか。」

真っ赤な顔をして抗議する進藤をそっと胸に引き寄せる。

「君を傷つけたくなかったんだ。」

「ああもう・・・俺心配して損したよ。」

「心配って?」

「お前に嫌われたんじゃないかってすごく心配したんだぜ。」

「僕が嫌う ?君を・・・もしかして北斗杯前」

「そう。」

「君を嫌いになるはずなんてないだろう。意識すると僕自身がおかしく
なりそうだったからそれで・・・・」

引き寄せた進藤の体をきつく抱きしめる。想いが伝わるように
強く。強く。



「進藤愛してる。ずっと君に触れていたい。」

「俺も愛してる。」


見つめあった瞳にどちらともなく唇が重なる。

触れた体からお互いが感じてる事は先ほどからわかっている。
唇が離れると進藤が僕に言った。


「 これ以上は駄目だ。時間だって・・・もうすぐ7時なる。」


7時半にはホテルのレストランで倉田さんと和谷と待ち合わせをしていた。

だが、僕の中にある熱はとうに引き戻せる限度を超えていた。
彼の言葉を無視して唇を這わせると困ったように進藤が言った。


「塔矢目をつぶれよ。」

「えっ?」

僕はわけがわからず進藤を凝視する。

「だから目を潰れって、恥ずかしいからさ。」

それだけ言うと進藤はシャワーの雨の中膝を折った。
僕はようやく進藤の言葉を理解して目を閉じた。


進藤の舌が僕自身に這い回る。
それだけで感覚がくらくらする。
うわずった進藤の声が僕に聞いてくる。

「塔矢感じる?」

「ああ。君にされてると思うだけですごく興奮する。」

「バカ。」

そういった後、そこを甘噛されて耐えられず
僕の口から喘ぎ声が漏れた。

「あっ・・・」

昨夜僕が何度も進藤にした行為。目を閉じろと言われたが
僕はそっと目を開けて進藤の様子を伺った。

進藤も目を閉じていた。濡れた睫がゆれて彼自身も
その行為に酔っていた。




その表情がまた僕の欲情をますます煽らせる。


耐え切れず出てしまったものを進藤は受け止める事が
出来ず顔をしかめた。

「進藤大丈夫?」

げぶげぶむせる進藤の背を摩る。

「ごめん。昨日お前はちゃんと俺のを・・・」

「いいよ。そんな事は、。」

僕はシャワーの湯を彼の手に差し出した。
ようやく落ち着いた進藤に僕は言った。



「ありがとう 進藤・・・僕もお返ししないとね。」

進藤の顔が引きつった。

「俺 !?俺はいいって!」


今更そんなに慌てる進藤が不思議でもあったが
僕は少しずつ進藤との間を詰める。

「君だって辛いだろう?」

進藤の立ち上がりつつあるものに目を落とすと

ますます真っ赤になった進藤が顔を横に振った。



「違う ってこれはその・・・えっと朝勃なんだ!」


進藤のとんでもない言い訳に僕は笑いを抑えきれず
大笑いした。

「・・・だめだ可笑しい。ハハハハ・・」

「塔矢 そんなに笑うなんて酷え〜。」

「だって君がおかしなことを言うから・・・・」


進藤も自分が言った事が恥ずかしくなったのだろう。
二人で涙が出るほど笑った。


こんなに笑った事なんていままでにきっとないと言うほどに僕は笑う。
本当に 君はいつも僕を翻弄する。



今朝はとりあえずそういうことにしておこう。
     
  
    

あはは;やっちゃいました(笑)
長い「天空の破片」の中で一番良いころかもしれないな。
これからまたいろいろな葛藤と戦っていくアキラとヒカルです。




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