「進藤 進藤着いたよ。」
塔矢に優しく揺さぶられてオレは目を醒ました。 すっかり車の中で眠ってたんだ。
ってここどこだ?
オレの目に飛び込んできたのはコンクリートの地下駐車場のようだった。
「塔矢ここは・・?」
「マンションの駐車場。君があんまりよく寝てたから
途中起こさなかった。気分はまだ悪い?」
体はまだだるさが残っていたが、腹の痛みはなくなってた。
「うん。さっきよりだいぶいいけど、マンションってどこの?」
オレがそう聞くと塔矢が苦笑した。
「進藤ひょとして寝ぼけてる。」
塔矢に聞き返されてオレはまたやっちまった!って思った。
けどしょうがねえだろ。オレこっちのこと知らねえんだから。
何も言わなくなった俺を塔矢は怪訝そうに見てる。
「進藤、本当に大丈夫?」
「うん。まあ」
曖昧に返事すると塔矢が車のトランクからオレの鞄を降ろした。
オレはそれにドキっとした。鞄を下ろすってことはこのマンション のどこかに立ち寄るってことだよな。
オレは知らない所なんて寄るつもりはなかった。
「塔矢、あのさ、オレやっぱ、しんどいし横になりたいから早く家 帰りたいんだけど。」
オレが思い切って打ち明けたのに塔矢は笑った。
「ここは君と僕の家だろう。正式には君とその・・籍を入れてからかもしれない けれど。」
つまり何か?ここはオレと塔矢がこれから住むことになるマンションってこと!?
オレはあまりに驚いて口をぱくぱくさせた。 体が入れ替わってから驚きどおしのオレだけど驚くという事に慣れというものは ないらしい。
「さっき君のお母さんにも今日はこっちに【帰る】って話したから心配しなくて もいい。君にも車の中でそう言ったんだけど。」
「君は寝てたのかもしれないな。」と何気に付け加えられてそういえば塔矢が オレが寝る前に何か言いかけてた事を思い出した。
けどそんなのわかるわけねえじゃん!!
オレが口ごもると塔矢は何を勘違いしたのかオレの手を引いた。
「進藤しんどいのだろう。こんな所に突っ立ってないで早く部屋にいこう。 話は部屋でもいいだろう。」
そういわれるとオレに返す言葉はなく塔矢に言われるままオレは塔矢の後を
追うことになった。
部屋は505号だった。オレはそれをみて心の中で苦笑した。
この部屋選んだのきっともう一人のオレだ。そんぐらいオレでもすぐにわかった。
そして玄関に入って俺は気づいた。
この部屋にはすでに生活臭さがあった。
それにもう一人りのオレがある程度住んでるんじゃないかってことも。
理由は玄関先にオレの使い古した傘があったからだ。
このかさは今は使ってはいない。
中学の頃佐為と一緒に通学した思い入れのあるものだったから。
オレは【確か】に自分の家に置いてるはずのその傘に手を伸ばした。
けど不思議なことにそれはやっぱり自分の傘だとしか思えなかった。
塔矢はそんなオレに目を細めた。
「その傘は一番に君がこの部屋に持ってきたものだったね。」
「ああ、」
そう返事したのはそうしておくのが何かと都合がいいと思っただけじゃ ない。 もしオレも家を出ることがあったらこの傘を一番に持って行くんじゃ ないかって思ったんだ。
そこが自分の場所だという場所に。
塔矢がリビングに入っていったのでオレも続いた。
塔矢はオレにソファを勧めたのでそこに座った。
体のだるいのは収まっていたが喉の渇きとなぜか無性に 甘いものが欲しかった。
キッチンに入っていった塔矢がしばらくするとマグカップに 温かいココアを入れてきてくれた。普段のオレなら飲まない ものだけどこのときはすげえありがたかった。
オレはそれを受け取ると少し含んだ。 それは喉を通って体中に行き渡っていくようなそんな気がした。
「どう?」
塔矢に聞かれて俺はうんと答えた。
「すげえ旨い。」
「よかった。君はいつも・・・ときはココアとか甘いものを好むだろう?」
ココアが飲みたいと思ったわけではなかったが俺はもう一人の
自分の気持ちがわかる気がした。
体が欲してるというかそんな気がする。
「けど、なんで甘いものが欲しくなるんだろうな。」
「血糖値が下がるからじゃないかって母さんが言ってた。
体が欲しがる時にはそれなりの理由があるんだって。」
塔矢が言うのを聞いてオレは感心した。
「塔矢お前オレのことホントよく知ってるんだな。」
何気に言ったことだったけど俺は又余計な事をいってしまっていた。 急に塔矢の表情が真顔になったのだ。
「そう。僕は君の事をよく知ってる。誰よりも知ってるつもりだ。
けれど知らない事もある。君が以前僕にはいつか話すと言った事も・・・まだ
君は話してはくれない。」
そう言ったあと少しの間があってオレはごくりと唾を飲み込んだ。
「それに今君が抱えてる悩みも・・・。」
12話へ
|