雨の中を歩き続けていつの間にかヒカルは
塔矢の家の前に立っていた。
俺ずぶぬれ・・。
雨宿りするように入った庭先でヒカルは偶然明子と出くわした。
「進藤くんどうしたの?こんな雨の中きてくださったの。」
つい先日あったはずの明子。今ヒカルの目の前にいるのは
よく知ってる明子のはずだった。
だけど・・・。
なんかいつもと感じが違うっていうか・・なんだろう?
そっか。俺最近ヒカルさんって呼ばれてたからだ。
「進藤くんごめんなさいね。今日は少し立て込んでて・・。」
ヒカルは明子の言葉をさえぎるように言った。
「俺の方こそすみません。突然来たもんだから。
その塔矢のやついる?少しだけでもううんホンノ少し
時間もらえればいいから。俺。」
明子は少し困っていたがヒカルを玄関先に置いて家の中
へと入っていった。
礼儀しらずだと思われたかもしれない。
いやきっと呆れられたはずだ。
普段の俺でも突然塔矢のうちにくるなんて事なんてしねえのに。
ヒカルは小さくため息をつくとドキドキなる心臓を左手で押さえた。
塔矢の足音がして俺の心臓の音が一段と高くなる。
「進藤どうかしたの?」
塔矢のたった一言を聞いて俺は涙が出そうになった。
それは俺がよく知ってる塔矢だったから。
一目みて間違いなく塔矢だってわかったから。
「進藤?」
何も言わないヒカルを訝しむように塔矢はヒカルを見ていた。
「進藤今日はちょっと都合が悪いんだ。だから・・。」
「知ってる。お見合いなんだってな。」
平静を装ったつもりだったがお見合いという言葉は震えて
いた。
塔矢はそれにはっきりとうなづいて、ヒカルは余計に
顔をこわばらせた。
「なあ塔矢 俺に少し時間くれねえ。」
「構わないよ。」
そういった塔矢の声は冷たかった。
まるで昔もう俺と打たない!といい放った
あの時のように・・・。
言葉とは裏腹に俺を拒んでいる気がした。
やっぱり違うのか。俺の知ってる塔矢じゃねえの?
揺れ動く心を抑えるように俺は唇を噛んだ。
以前俺は塔矢に聞いたんだ。
もし俺が男だったら俺のこと好きになってたかって?
もちろんお互い冗談だったけど。
でもあの時お前は俺にはっきり言ったんだぜ。
『僕の伴侶は君しかいない。』って。
男でも女でも関係ない・・。お前は俺にそういったんだ。
ますます降りしきる雨にヒカルは拳をぎゅっと握り締めると
叩きつけるように言った。
「塔矢・・・見合いなんかやめちまえよ。」
塔矢はじっと俺を見つめたまま俺の言葉の真意を計っている
ようだった。
俺はもう1度言った。
「塔矢お願いだから結婚なんて考えんなよ。」
本当は俺以外のやつとの結婚なんて・・・といいたかったが
さすがにそれは言えなかった。
「進藤・・・?」
≪アキラさん・・・≫
家の中から明子に呼ばれる声がしたが塔矢は
それには応えなかった。ただじっと俺を見て・・・。
「進藤、君がやめろというなら見合いはしない。」
「本当か?」
ああと大きく塔矢はうなづいた。
ヒカルはようやく緊張が抜けて笑うと居心地の悪さを
急に感じた。
「ごめん。塔矢お前明子さんが呼んでる。」
「構わない。それよりも進藤・・。」
「何・・?」
今度は塔矢が黙り込む番だった。
塔矢は何か言葉を捜してるようで俺はそれを待った。
「アキラさん!」
珍しく慌てた明子が玄関先まで塔矢を呼びに来て、
塔矢は諦めたようにため息をつくと俺に言った。
「進藤 後で連絡する。」
「わかった。」
塔矢の家を後にしたヒカルはどこか寂しさを感じたものの
晴れやかな気持ちでいっぱいだった。
塔矢は塔矢だってこと。もし世界が変わってもあいつの方が
女になったとしてもあいつはきっと変わらない。
俺がそうであるように。
だからきっと大丈夫だって・・。