アキヒカ三銃士




30




     

サイのお蔭で、ヒカルたちの舞台は、上々の仕上がりでした。
「ヒカル君って、演出家の素質もあるみたいだよ。」
芦原は感心したように言いました。

信じているとはいえ、アキラが中々戻って来ないのが、少し不安なヒカルでした。カーニバルまでもうあと1日と、日が迫っていました。
不安な気持が演技に現れたのでしょうか。

『ヒカル。気持が入ってません。』
サイは厳しくヒカルに注意しました。
『だって、アキラが…。』

サイには気に入りませんでした。
この短い期間に、みんなとても良く頑張りました。
アキラはもう優れた演技力を身につけていますから、どこにいても、自分のパートはきっちりと練習していますよ。
ヒカルは、飛躍的に伸びました。驚くべきことです。
でも一つだけ足りないのです。

私に頼りすぎる。
人に頼りすぎるところがある。

ほんの僅かな期間にこれほどまで、伸びる才能は滅多にない。
ヒカルにはきわめて優れた学習能力があるのです。
演技力を身につける力、人と呼吸を合わせる力です。
それが天才と呼べるものなのに。 
このままでは…。

ヒカルに今必要なのは…サイは、何事か決心したようでした。


「ほんと、ヒカルってさ。 始めて会ったときは、へたっぴだったけど、すげーうまくなったよな。」
和谷たちは、ヒカルをすごく褒めました。

「まあな。俺、絶対に本因坊になってみせる。」

ヒカルのその言葉を聞いたサイは、頷きました。

『あなたなら叶うでしょう。叶えて欲しいです。頑張って下さい。』
そう言って、気付かれないようにヒカルからそっと離れました。



その日の午後、ヒカルの様子がおかしいのに、皆が気付きました。
椅子の下を覗いたり、カーテンを揺らしてみたり、道具箱の中を覗いたり…。

「どうしたんだ。」と聞かれても、元気なく首を振るばかりでした。

その午後の稽古をヒカルはとちってばかりいました。

「どうしたんだ?」
「もう、あさっては芝居の幕が開くんだぞ。」
「俺、芝居できない。やめる。」
ヒカルは苦しそうに言いました。
「何言ってるんだ? お前の抜けた後を誰がやるっていうんだ?」
和谷が怒鳴りました。


その晩のことでした。 やっとアキラが戻って来たのです。
皆ほっとしました。ヒカルもこれで元気を出すだろうと。

アキラは、皆のリハーサルの様子を見ました。
そして首をかしげたのです。

「ヒカル? どうしたの?」
ヒカルの様子がおかしいことに、目ざとく気がついたアキラでした。

「アキラ。 俺はもう駄目だ。 サイがいなくなっちゃったんだ。」
「えっ?」
アキラは、いろいろなことがあって、サイのことをすっかり忘れていましたから、その言葉でサイのことを思い出しました。
アキラは、ヒカルの周りを見回しました。
サイはいませんでした。

「サイが、見えないってことは、俺には芝居の才能がないってことなんだ。」
「ヒカル。君は。サイが見えない人たちだって皆、芝居をしているじゃないか。立派に。」
「でも。俺。」
「僕はじゃあ、サイが見えるまで、才能がなかったてことかい?
この芝居はただの芝居じゃない。
この国のステージとあの方と、みんなの運命がかかっている大切な芝居なんだ。サイは関係ないんだ。君は自分を信じるべきだ。」

アキラの強さはヒカルの自信をますます失わせました。

「だから俺じゃ駄目なんだよ。」
「ヒカル。」
アキラは、いらいらしました。
「とにかく、芝居を続けるしかない。」
そうきつく言うと行ってしまいました。


真夜中に一人ぼんやり、ステージを見つめているヒカルに伊角が近寄ってきました。
「ヒカル。確かにほんの数週間で、これだけやってきたお前は、きっと無理をしてるんだろうと思う。
でもな。お前は本当は芝居がしたいんじゃないのか?少なくともな。
この先お前が伸びるか伸びないか、芝居を続けるか続けないか、それはお前が決めることだけど。
この芝居だけはやってみないか。
今のお前でいいんだよ。
この芝居のお前の役どころは、芝居が上手くない役者志望の少年の役だ。素のままでいけよ。
お前がついこの間まで夢見ていたそれをやってみろ。
やめるかやめないかはその先に、考えろよ。
下手だっていいじゃないか。今の自分を精一杯出せば。」

ヒカルは頷きました。自分が穴を開けて、みんなに迷惑がかかるのはいやでしたし。今のままで良いというなら精一杯やるしかない。村へ帰るかどうかは、その先のことだ。

 

翌日、少し寝不足ながら、ヒカルはリハーサルに臨みました。
芦原が言いました。
「今日は、アキラも戻ってきたから、総仕上げをする。」

練習の幕開けに、客席の隅に、数人の人影がありました。
「コウヨウ先生。お久しぶりです。」
「うむ。仕上がり具合をじっくり見せてもらうよ。」

「ほう、あの子は?」
コウヨウは、ヒカルを見ながら呟きました。

「あの小僧をわしは気に入ってるんじゃよ。 今日はまた、一段と力が入っているような…。 オーラのにおいがする。」
桑原本因坊がそう言って、かっかと笑った時、誰も気付きませんでしたが小さな風が起こりました。

『何で、私のにおいが判るのでしょう? この者。 こちらの男には気付かれないというに…。』
「まあ。わしはステージの精に祝福された男じゃからな。」
サイの呟き居合わせるかのような本因坊の声でした。
彼にはもしかしたら見えるのでしょうか?

「ステージの精ですか。 私は各国を回って才能を捜し歩いてきたが、優れた才というのは、ここにもあるようですな。」
舞台を見つめるコウヨウの言葉でした




30話はさびる様担当でした。
サイがヒカルの前から消える?設定はお話を書きはじめる前からあったんですが、ここにきてそれが来るとは予想してませんでした〜
さてここからが私のアキヒカ本領発揮!!←さびるさま暴走したら止めてくださいね〜切実に;


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