アキヒカ三銃士




29




     

緒方がアキラの舞台小屋を後にした直後、今度はある老人が
小屋の前に降り立ちました。

老人が降り立つとパフォーマーも舞台準備に取り掛かっていた連中も手を止め振り返りました。

その中には伊角も和谷もヒカルもいました。

いっせいにパフォーマーたちが老人にお辞儀をして
その様子をヒカルだけがぼけっ〜と突っ立って見ていました。

そんなヒカルに老人が歩み寄りました。

「あの・・えっとお爺さん こんちわ〜!!」

やたら元気な声のヒカルに伊角も和谷も焦りましたが
当の本人はまったく事態が飲み込めていないようです。

「坊主、なかなかいい瞳をしてるの〜。」

老人はヒカルの右肩にぐいっと顔を寄せました。
それはもう肩の上に顔が、くっつくぐらいに・・・。

そこにはサイが乗っかっていて近づけられた老人の顔に
ぞぞっ〜と背筋をこわばらせて、ささっとヒカルの背に隠れました。

「あ、あの・・・じいちゃんオレに何か・・?」

「いやな。懐かしい匂いがしてのう。」

「匂い・・どんな・・?」

「そうじゃな。あえて言うなら舞台の妖精じゃな。」

『なんですと・・・まさか私の匂いですか・・』

サイはヒカルの背にしがみ付きながらプルプル震えて自分の匂いをかいでみましたがそれがどんなものなのかちっともわかりませんでした。

老人はホホホ〜っと高笑いを浮かべると言いました。

「まあよい。それで小僧、お前の名は?」

「オレはヒカルです。」

「そうか。ヒカルか。覚えておこう。」

老人が立ち去ると隣で立ち尽くしていた和谷が呪縛から
解けたようにヒカルに言いました。

「お前あの人が誰だか知らずに話してただろう。」

「ああ。あのじいちゃんそんなに有名な人なのか?」

「本当にお前は何も知らねえんだな。あの人は桑原本因坊って言うんだぜ。」

「桑原本因坊?」

「本因坊っていうのはな・・。」

伊角はお芝居の頂点にたった人を本因坊と言うのだとヒカルに教えました。

・・・って事はあの老人もお芝居をするって事か?
サイは相変わらず泣きそうな顔をしています。

『彼が本因坊だなんて・・・。』

そういやサイが昔憑いていた秀策って人も本因坊だっけ。

ヒカルはなぜサイがそれほどまでに桑原本因坊を怖がるのかわかりませんでした。

「サイお前失礼だぜ。あの人の舞台をみたわけでもねえのにさあ〜。」」

『だってですよ。』

サイはあの時近づいた顔を思い出しうう〜と今にも泣きだしそうな声を上げました。
そりゃ確かにヒカルの言うとおりかもしれないですけれども・・・

『やはり舞台に立つ人には品位と厳格さってものがあるん
です。なのにあの人の顔ときたらまるで・・・。』

ヒカルはもちろんサイの声が聞こえましたが無視しました。

「さあ。和谷 伊角さん舞台の最終チェックに掛かろうぜ。
アキラが帰って来た時までにしっかり仕上げておかねえとな
何してだ!!ってあいつすぐ怒るからさ。」

「ああ。」

ヒカルはアキラは絶対にカーニバルまでに戻ってくると信じていました。
あいつは絶対約束をやぶらない。
そして緒方さんも約束を守ってくれる人だと。

元気のいいヒカルとは裏腹にサイの気分はとっても憂鬱でした。
そしてサイがこの晩うなされて眠れなかったというのはいうまでもありませんでした。



さて、
 場所は変わって、ここは桑原本因坊邸。

緒方もまた彼(桑原)に会いたくない一人でしたが今はそんな事を言ってる場合ではなかったのです。

緒方が屋敷に入ると、桑原とコウヨウが出迎えました。

「遅かったではないか。緒方くん。」

緒方は桑原の笑顔の出迎えには適当にあしらって言いました

「コウヨウ先生探しましたよ。」

「緒方くん。まあ腰を下ろしなさい。」

緒方は慇懃にお辞儀をするとソファに腰をおろしました。

「ところで。緒方くん、君はいつ座間についたんじゃ。」

「お言葉ですが、オレは誰にも付いちゃいませんよ。」

「わかっとらんようじゃのお〜。
それは君が思っとるだけじゃろう。わしもコウヨウも座間もそうはおもっちゃいないよ。君は座間に踊らされておるんじゃ。
それとも座間の方が君の手のひらで踊らされておるか・・・?」

緒方は露骨にいやな顔をしました。
このくそじじい〜。

「オレはあなたと戯言を話す気はさらさらありません!!先生、あなたはこの状況を、どの程度把握されてるんです?」

コウヨウは腕を組んだまま何も答えませんでした。

「先生!!」

「緒方くん。そう事を急くもんじゃない。実はわしによい案があるんじゃが二人ともわしの舞台に一つ乗じてくれんかの・・?」

コウヨウはようやく組んでいた腕を解きました。

「いいでしょう。」

「そうか。で緒方君・・きみはどうする?」

「役の内容によるな。」

面白そうに桑原が聞きました。

「それで、緒方君はどんな役が所望かの?」

「寝入った貴方の首を掻き切る役でしたらね。」

ホホホっと桑原は高笑いを浮かべると緒方にいいました。

「よかろう。コウヨウ先生。貴方の子息やその連れにも
すでに舞台には招待しておる。
そして座間や御器曽にも舞台に出てもらう手はずになっておる。
なに、あいつらは断りはせんよ。こちらには大事な切り札が
あるんじゃからのお〜。」

緒方は桑原にいっぱい乗せられた気分でしたがなぜか悪い気分ではありませんでした。

緒方はこの舞台の行く末をただ観客としてでなく演じてみたくなったのです。

そしておそらくコウヨウもそれは同じだろうと。


カーニバルまではあと3日に迫っていました。



当初の旅から換算してないのでカーニバルまで3日は早いのか。遅いのか(笑)

お話にかけなかった緋色的妄想;

緒方 「寝入ったあなたをヤル役でしたら・・」
桑原 「ホホホ〜緒方君大胆じゃのお〜。ならばわしは受けなくてはなるまいて。     白いネグリジェでも着て待つとしよう。」
ぞぞ〜っと緒方の背筋に悪寒がはしりました。
緒方 「猿はオリの中でも入ってろ〜!!」
以下略〜(苦笑)

目次へ

30話へ