アキラが去った後、ヨウキと緒方はしばらく、黙って立ってい
ました。
「コウヨウ先生はどうしていらっしゃるのです?
こんな事態に。」
「ご存知でしょう。 父が、以前より、有望な人材を探すために、世界中を探して歩きたいと、そう申していたことを。 権力争いは優れた舞台を生み出しはしない。 そう思って、身を引いているのです。 私は今、父と連絡が取れるような状態にないのです。」 ヨウキは、そう言うと黙って俯いた。
「コウヨウ先生はこうなることを見越していらっしゃたのだろうか?」 「さあ。父には何か考えがあったのかもしれませんけれど、もう、今は、そのようなことを言っている場合ではありませんわ。お願いです。緒方さん。 アキラを、弟を助けて、国王様を無事に。」
緒方は何か考えていたようでしたが、口に出しては、こう言っただけでした。 「私は、国王は無事だと思ってますよ。 勿論、替え玉もね。 今のところ、私には何もできることはないですな。 さてと、私はもう行かなくてはならない。 座間が待っているでしょうしね。」
緒方が去っていくと、ヨウキは疲れたようにぼんやりとソファーにもたれかかりました。 「どうか、すべてが無事でありますように。」 力なくそう呟いたのでした。
座間は、いらいらしながら、緒方を待っていました。 「どうであった?」 「さあ。別に。今のところ何も動きは無いですな。 ヨウキ殿はこの脱獄とは何も関わりはないようです。彼女は今この城で、孤立無援なのではないですかな。」 「まさか。緒方。そなた、ヨウキに寝返るつもりじゃあ。」 「待って下さい。 その言い方は。 私は、誰ともつるんできたつもりはないですし、この先もつるむつもりも無い。それだけは、はっきりさせて置きたいですね。」 そう言って、緒方は座間の元を去ろうとしました。
その時です。 慌しく座間の部下が駆け込んできました。 「国王さまが行方不明だそうです。」 「何?どちらの?」 「はっ? どちらとは?」
座間は、慌てて言いつくろいました。 「いや。何でもない。こちらの話だ。」 そういって思い切り扇子を齧ったのを見た部下は震え上がってしまいました。 座間が扇子を齧る時は、ひどくご機嫌が悪いかいいかのどちらかなのです。今は、判りきったことですが、最悪なのです。
「それで。 いつ、どこで?」 「は、はっきりしないのです。お城の近くまで戻っていらして、その後…。」 「護衛はどうしたのだ?」 「ご、護衛も全員行方不明です。」
護衛は大勢ではありませんでした。 座間派とトーヤ派が争っていても、その他のことで、治安が悪いなどということはないのです。
「お取り込みのようだから、私はもう失礼しますよ。」 緒方はそういうと出て行きました。 座間は、それを見て、歯軋りをしました。 怪しい。 だが、一体どうなるというのだ? 座間が、くわえていた扇子がぽきりと折れたので、そばにいた部下は、恐怖で失神しそうでした。
緒方は、オチの邸には向かいませんでした。 誰もつけてないことを確かめると、アキラの芝居小屋に向かったのでした。
「芦原はいるか?」 芦原が出てきて、びっくりした顔で緒方を見つめました。 「聞きたいことがある。」 「何でしょうか?」 「トーヤ先生は、今どこにいる?」 「そ、それは…。」
「もう戻っているのだろう? 俺の予測では、あのクソじじいのところじゃないかと思っているが…。」 芦原は、そうだというように頷きました。 「アキラには黙っているようにと、仰って。」
「ふん。 どちらにしても同じことだ。俺には筋書きが少し読めてきたぜ。」
緒方は、そう言っただけでした。
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