緒方が、地下牢のところへ着いてみると、アキラが一人だけ牢に放り込まれていました。
さて、どうしたものか?
緒方が考えていると、座間が来ました。
「緒方君。 囚人が逃げ出したそうだが。おや、一人は逃げてないのか?」
そういって牢を覗いて、座間は吃驚しました。
「何故? ヨウキの弟がいるのだ?」
「さっき話を聞いたのですがね。 ヨウキ殿はもう感ずいてるのですよ。アキラ君は頼まれてここへ来たようですが、たまたま捕まったようで。」
「ということは? 逃がしたのは、この小僧じゃないのかね。」 アキラは耳を澄ましていましたが、しかし賢明にも口を挟みませんでした。
「私の推測ですが、おそらく囚人たちは、勝手に逃げ出したのです。 ここの地下牢を間違えずに脱出などそう簡単にはできませんから。
おそらく自分が連れてこられた道を覚えていたのでしょうな。一緒にあの方も連れていったのは…
」
「何故だ?それでどうする積もりかね。」
座間は持っていた扇子を齧りながら聞きました。
緒方はふふんと笑いました。 追いつめられてるな。
「アキラ君は、ここから出さなければいけませんな。もし、逃げた者が、あの方の素性を知って、騒ぎを…」 「そ、それは困る。 今騒がれては。」
「アキラ君がヨウキ殿のところへ戻らなければ、きっとヨウキ殿は、何かされるでしょうな。どうするか分かりませんが。」
「それでゴ石は?」
「囚人が持って逃げましたよ。多分。でなかったら、あの仮面だ。目だって逃げられないでしょうが。」
「ど、どうすれば。」 「さあ。私にも。とりあえず私はアキラ君を頂いて行きますよ。ちょっと、ヨウキ殿の様子を見てきましょうかね。」 アキラは黙ったまま、緒方に連れられて、ヨウキの間へ向かいました。
座間は、歯軋りしていました。 あまり噛み過ぎたので扇子はボロボロでした。 今日はとりわけご機嫌が悪い。 兵士たちは戦々恐々としていました。
「おい、御器曽を呼べ。」 「今、港のほうへ手配に向ってます。 逃げ出した者がT国へ向う可能性があります。」
肝心な時に、まったく。 全く、どいつも役立たずだ。 しかし、よくよく考えると、緒方が一番怪しいのでは? あいつは誰とくっついているかわからん。 平気で乗り換えるからな。 今回のことを仕組んだのも、あいつかもしれん…。
さて、つけられているとも知れず、ヒカルたちは、隠れ家へ着きました。 皆熱心にリハーサルの最中でした。
ヒカルの話を聞いた和谷はすぐ言いました。 「塔矢ってさ。自分勝手にスタンドプレーをするからな。 皆が迷惑するのさ。」 「それでも、俺たちは無事戻れたよ。」とヒカルは言いました。
陸力は落ち着いて言いました。 「あの緒方という人がキーマンですね。信じましょう。私たちは私たちでやるべきことをやるだけです。」
「そうよ。時間もないのよ。リハーサルを続けましょう。」
サイは、その言葉に嬉しそうにヒカルに言いました。 『さあ。ヒカル。あなたが一番に練習が必要なのですよ。 今までは私の力で何とかやってきましたけれど、そろそろ自力でやらねば。』 『ちぇっ。威張ってんの。』 そういいながらも嬉しそうに芝居の中に入っていくヒカルでした。
さて、お城では。 ヨウキは驚きました。 「アキラさん。 それに 緒方さん。 あなたまで…。 なぜ?」
緒方はヨウキを見て、慇懃にお辞儀をしました。 「ご無沙汰してますな。 結婚式以来ですかな。」
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