「とにかく僕らは緋国の為にも囚われたあの方のためにもゴ石を取り戻さなくてはならない。」
アキラの言葉にヒカルが頷いた時です。
二人の後方に小さく数人の兵士たちが
山を下ってくるのが見えました。
「まさか。俺たちを追って・・。」
「あの服、牢獄を見張っていた兵士と同じ服装。」
「じゃあ。」
ここでは身を隠す場所も逃げる場所もない。
ヒカルはサイに助けを求めました。
『サイ 何とかならねえ?』
『以前この先に小さな小屋がありましたが今はあるかどうか・・それに二人の行動は上からでは丸見えだと。』
「それでも、何も手を打たないよりましだろ!!」
ヒカルが我を忘れて大声でサイに叫んだ時です。
アキラがヒカルの腕を掴み急に茂みに連れ込みました。
「なんだよ。アキラ。こんな時に・・。」
「こんな時だからだ。」
アキラは小声でそういうとすばやく持っていた袋から
芝居道具を取り出しました。
「じっとして。ヒカル。」
アキラが真剣だったのでヒカルはされるまま我慢しました。
「ほおおお。これはまた・・」
サイが感心してるのでヒカルは顔をしかめました。
「なんだよ。サイまでこんな時に。なんなんだよ。」
「ヒカル すっかりかわいい女の子になってますよ〜。」
「女の子だって〜?」
アキラは自分も手早くマントを裏返し身なりを変え
支度を終わるとヒカルにしっかりとフードをかぶせました。
「ヒカル。もし捕まってもあまり語るな。僕の言葉に
合わせるんだ。」
アキラのあまりの迫力にヒカルはわかったという事しかできませんでした。
後方を見ると数百メートルという所まで追ってが迫っています。
「アキラ、この近くに小屋があるかもしれないんだ。」
アキラは一瞬躊躇したあと頷きました。
「わかった。君を信じよう。」
山道から外れた草むらに隠れるようにサイの言った小屋は
残っていました。
「すごいボロ屋だな。」
「ああ。でもここなら身を隠すのにいいだろ?」
小屋には何一つ身を隠すような場所はありませんでした。
追ってが小屋に近づいてくる物音がしてアキラはヒカルの腰を抱き寄せました。
「急に何するんだよ!!」
ヒカルが小声で抗議しましたがアキラは至って真剣です。
「男女が抱き合ってると思えば行ってくれるかも知れないだろ?」
「はあああ〜!!」
思わず大きな声を上げそうになったヒカルの口にアキラが手を当てました。
「もし本当にキスすることになったらすまない。その時は
芝居たど思って諦めて欲しい。」
ヒカルは何か言おうとしましたがその時小屋の扉に人の気配がしました。
アキラはいたって冷静にヒカルをそのまま抱き寄せました。
二人の間に緊張が走ります。
後ろから見た兵士には二人が抱き合ってキスしてるように見えたかもしれません。
ヒカルは怖くて目をつぶろうとするとヒカルとアキラの間にサイがむんずと立ちはだかっていました。
『サイお前何やってんだよ。』
『たとえ芝居とはいえヒカルの唇が奪われないように私が見張ってるんです。』
緊張していたヒカルはサイの言い分に笑い出しそうになると何を思ったかアキラがヒカルの唇をふさぎました。
といっても実際には二人の間にサイがいるのですが・・
兵士の気配が消えるとアキラはようやくヒカルから唇を離しました。
二人の顔は真っ赤になってます。
「すまない。でもなんとか誤魔化せたようだ。」
「いや、あの・・・・まあ そうかもな。」
アキラの顔もサイの顔もまともに見られないヒカルが口ごもるとサイがいきなり叫びました。
『ヒカルまずいです。小屋の外にまだ誰かいます!!』
その叫びと同時に扉が開いた時、そこには以前芝居小屋であったあの白スーツの男が立っていました。
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