アキラと白スーツの男は、じっとお互いを見つめました。
「アキラ君と、こんなところで、出会うとはな。海の道を通るのではと思っていたが、その女の子が、王妃付きの侍女か。なかなか可愛い顔立ちだな。」
その時何故かヒカルは、ほっとしました。
“あかりが追われることがない。 あいつらが上手くやってくれるのではないか。”と。
サイはヒカルの心を読んで言いました。
『ヒカル。侍女の言葉遣いは私が教えます。私の言うとおりに喋るように。これは芝居の稽古にもなります。真剣勝負のです。私たちとあかりさんと囚われの方と、全員の命のかかった芝居ですよ。』
「緒方さん。あなたは座間派なのですか?」 「俺が? 俺は俺だ。 座間でも王妃派でもなんでもない。 緒方派だな。だからといってアキラ君を手助けすると思ったら大間違いだ。何度も言っているだろう。俺の元に来るようにと。」
「僕は、僕もただのアキラです。王妃派とかそういうことじゃない。」 「では何で、今回。こんな冒険を?」 「僕は、ただ姉を守りたいだけです。」 「まあいい。俺は王妃などどうでもいい。 この侍女の方が好みだ。どうだ。俺の元にくればアキラ君を見逃そう。」 「ヒカル。 君は…。」 「アキラ様。 私が無理なお願いをしたばかりに、申し訳ございません。」
ヒカルのか細い、真に迫った口調に、一瞬アキラは戸惑ったが、さすが芝居の天才、ヒカルの演技にすぐ合わせた。 「君が頼まなくたって、僕の姉のことだ。 結局こうしているさ。」
「おい。 愁嘆場はいらないぞ。 それよりアキラ君は会ったのか?」 「会ったって誰にです?」 「しらばっくれなくてもいい。 仮面の囚人さ。」
緒方には、分かっているのでしょう。 とぼけても無駄そうでした。 「緒方さん。 あなたが黒幕なのですか?」 「俺が? 俺は関係ない。 あれは座間が勝手にやったことだ。」 「僕たちはもう行かなければなりません。」 「このまま俺が行かせると思っているのか?」
「緒方様。あなたが悪い方などとは思えません。 ヨウキ様を助けると思って、見逃して下さいませ。」 ヒカルがサイに指導してもらって、話しかけると、緒方は黙った。
しばらくして緒方は言った。 「俺もお人よしだな。 まあ、今回は見逃そう。 次にあった時どうするかは分からんぞ。」
アキラと、特にヒカルが谷を下り、小さくなっていくのを緒方は黙って見送りました。 「せいぜい俺に感謝するんだな。」 緒方はにやりと呟きました。 「あいつらがゴ石を持ってきた時に…。 俺が、あの石を手にするのだ…。」 緒方はくるりと踵を返した。 「さてと、俺はやらねばならないことがある…。」
『ヒカル。あなたはなかなか演技力があります。 すばらしく上手く演じましたよ。』 『本当?』 『ええ、女形になるのもいいかもですね。 最も、私の指導が良かったからですけど。』 『ちぇっ。すぐこれだからな。』
「ねえ。ヒカル。君と芝居をやりたくなったよ。君が女形をやって…。」 アキラがヒカルの顔を熱く見つめたので、素早くサイはヒカルの耳元で囁きました。 『いいですか。あの時、ヒカルは私と口付けをしたのですよ。私とですからね。アキラではありませんよ!』
ヒカルはアキラの眼差しにもサイの囁きにも知らん顔していました。
ふたりともうざったいよな…。
振り仰いだ目の先に見えたもの。 「おい。 あれ、きれいだな。」 雲の切れ間から、陽光が、真っ直ぐに山なみに降り注いでいました。 黄金色のそれは見る者を祝福しているかのようでした。 厳かな気持で、三人はそれを見つめました。 「元気を出して、さあ。 行こうぜ。」 「うん。」
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