サイがそこに見たものは、がっしりとした石の扉でした。 その前で、ふたりの男が飲んだくれていました。
「お前の番だぞ。」 「はいはい。」 二人は、酒を飲みながら、カードをやっていました。 「少し飲みすぎかな。」 「いいんだ。俺たちは見張っていればいいだけだから。 まあ、この扉の鍵を開けられる者はいまい。」 「そうだな。それにあいつらが来るのは1週間は、先だしな。それに、狂人の世話は、じいさんがするしな。」
サイが様子を伺っていると、やがて二人は酔いつぶれ、寝込んでしまいました。
石の扉の向こうに、鉄格子の嵌った窓が見えました。 サイは、その鉄格子の間をすり抜けました。
仮面を被った男が、椅子に腰掛けていました。 調度品は立派でした。 男は、ランプの下で、本を読んでいました。
男は、何故かサイのいる方を振り向きました。 「私には見えないが、そこに誰かいるのか?」 サイは、訊ねました。 「あなたはだれですか?」 サイの声は、男には届かないようでした。
「幻か… 一体どのくらい日がったったのか… 」
サイを見ることはできない者のようです。
サイはヒカルのところへ戻りました。 夜明けにはまだ間がありました。
「ヒカル。 お願いがあるのです。 一緒に行って、訊ねて欲しいのです。」 ヒカルはサイの声に目が覚めました。 「どこへ?」 「奥に、仮面を被った人が捉われているのです。 何か胸騒ぎがします。」
ヒカルは立ち上がりました。 その気配にアキラが目を覚ましました。 「どうした?」 「うん。 この洞窟の奥に誰かがいるみたいなんだ。」
二人は、そっと、奥へ向いました。 二股に分かれる道の奥で、見張り役の二人は、鼾をかいていました。 酒瓶が転がっていました。 「当分、起きそうにないね。」
それでも用心しながら、小窓を覗き込んで、アキラが訊ねました。
「なぜこんなところにあなたはいるのです
? あなたは誰ですか?」 仮面の男は振り向きました。 「だれだ。 どこかで聞いたような声の気がする…お前は誰だ?」
「私たちは、偶然この山に迷い込んだ者です。
あなたは誰です?」
もう一度問いかけると、その男は言いました。 「お前たちも笑うのか。 私を。 笑うがいい。 私は…。」 自嘲的に仮面の男は語りだしました。
いっとき後、ヒカルとアキラは必死で、峯を越えていました。 「いいか。 ヒカル。 これは口外無用だ。」 「分かってるさ。 とにかくゴ石を持ち帰ることが先決だ。 でも本当に、ゴ石にはそんな力があるのか?」
あの時、話し終えた囚われの男に聞いたのでした。
「あなたをここから出して差し上げたい。どうしたら、いでしょう。」 「ゴ石があれば、その扉も開く。 この仮面も取り去ることができる…。」 彼は、そんなことはできないと諦めたように、でも、そう言ったのです。
「アキラ。 ゴ石って、何か特別の力をもつ宝石なのか?」
「僕にも良く分からないけれど。 ステージのあるこの国には、昔から伝わるんだ。
一説には語石とも呼ばれたことがあるって…」
「語り石…ゴ石…か。 なるほどね。 まあ、どのみち俺たちは石をもらって来るのが使命なんだ。 帰りもこの道を通るんだし、上手くいけば。」
「1週間したら、誰か来るといっていたな。」
「うん、誰だろう。 そいつが黒幕か?」
サイはヒカルに言いました。
「ヒカル。 ゴ石について知っている人はたくさんはいない
筈です。 それはステージに伝わる大切なものなのです。
ステージの守り石なのです。 その力がどれほどのものかは、私ですら知らされていない。
でも元々は、私の属する妖精界に伝わる秘石でした…。」
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