「2週間ていうとあまり時間が無いよな。すぐにでも発たないと。」
ヒカルの言葉にあかりが頷きました。
「T国までは、5日くらいかかるの。 往復で10日はいるわ。」
「俺、ちょっと、和谷たちに断ってくる。2週間、留守にするって。」
「理由は言わないで。」
「判ってるさ。」
ヒカルが、夜遅く、突然現れたのにびっくりした和谷と伊角でした。
が、ヒカルが、あかりのために、しばらく留守をするというと、
「どうせ、俺たちもしばらく、ストリートに立てないし。
一緒についていく。」と言うのでした。
「でも俺。あかりともう一人、アキラっていうのと一緒に出かけるんだ。」
「アキラだって! あのアキラか?」
「あのアキラって?」
「お前、そうか。知らないんだな。アキラっていうのは、塔矢派の塔矢行洋の息子で、王妃様の弟なんだ。」
「有名なのか?」
「本当は、ステージで充分やれる実力の持ち主なんだよ。
天才らしい。」
「でも、オヤジの七光りみたいなものは嫌なんだろ。
それに今の座間派との争いも嫌ってさ。
一人で小さな小屋を立ち上げて頑張ってるんだ。」
「俺、あいつ苦手なんだ。
一緒にでなく、お前たちの近くにこっそり付いて行くよ。
何かあったらすぐ助けに行くぜ。
おまえのためじゃなくて、あかりさんのためにな。
例の件だろ。目的は言えないんならいいよ。聞かないよ。」
「ありがとう。」
「いい仲間がいますね。ヒカルには。」
あかりとの待ち合わせの場所へ急ぎながら、サイは言いました。
「うん。俺。和谷も伊角さんも大好きさ。」
さて、とある街角。
待ち合わせの場所です。
「ヒカル。」
あかりがそっと、暗がりから、声をかけました。
「こちらがアキラ様よ。」
「様はやめて下さい。旅の間は余計に。呼び捨てでいいですから。」
「アキラっていうの、お前か。俺、ヒカル。」
早速呼び捨てにして話しかけたヒカルですが、顔を見てびっくりしました。
アキラと呼ばれた方もヒカルを見て、一瞬、絶句しました。
「これは驚きの展開ですね。」
サイがわくわくしたように、呟きました。
あのヒカルが、初めて入った芝居小屋で出会った主役の少年。
「君がヒカルか…」
少し険しい、とげとげした様子で、アキラが言いかけた時です。
「二人とも、顔見知りなの? 良かった。」
そういうあかりの前で、けんかはできません。
「うん。」「ええ。」と、あいまいに頷く二人でした。
あかりが、ちょっと、離れた隙に、ヒカルは、言いました。
「なあ。この前のこと。俺が何ができるか知りたいって…。
あれは当分なしでいいか? 俺、今は何もできないんだ。」
そう屈託なく率直に言うヒカルが、アキラには新鮮でした。
アキラの周りは少しでも力があることを
見せびらかせたい者ばかりがいる競争世界でしたから。
アキラは自然に言っていました。
「うん。今は仲間だね。僕の姉のために手伝ってくれることを
感謝するよ。よろしく。」
サイは、感心しました。
アキラが、素直で礼儀正しいということもですが、
ヒカルが人の心をほぐす力を、
生まれつき持っていることに改めて気付かされたからです。
「この才能をどうやったら、ステージに結び付けられるのでしょうか。
私を引き寄せた力を…。」
サイは考え込みました。
その時あかりが戻ってきました。
「じゃあ。 早速出発しましょう。アキラ君もヒカルも。 いい?」
二人は頷きました。
「じゃあ。行こう。」
「ええ。 一人はみんなのために みんなは一人のために。」
あかりがそう言って、微笑みました。
2週間の危険な任務が、始まりました。 |
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