ヒカルはそう言ってベットに横になったもののなぜか寝付けず借りた小部屋からとおりを眺めていました。
静かなとおりに馬車がとまりそこからこそこそ
隠れるように全身布でフードとコートで覆われた
男が降りてきました。
男は挙動不審にあたりを人目を憚るように伺うと
あかりの家の中へ入っていきました。
「サイ、あいつ何ものだろう?」
「かなり怪しいですね。あかりちゃんが気になります。
行きましょう!!」
ヒカルは急いであかりの部屋に駆け込みました。
「あかり!!!」
ところがそこには不審な男はおらず美しい貴婦人が
座っていました。
「あかり 今へんなやつが来なかった・・・?」
貴婦人が優しく微笑みました。
「彼があかりの幼馴染ですの・・?」
「はい。ヨウキ様。ヒカルこちらは私がお使えする
ヨウキ様よ。」
一国の王妃がヒカルの前にいると聞いてヒカルは
面食らいました。
呆然とするヒカルにサイが言いました。
「ヒカル 最敬礼ですよ。」
サイに言われるままヒカルは膝をつきました。
「ヨウキ様お目にかかれて光栄でございます・・というんです。」
うん。わかった。えっとだな・・。
「お目にかかれて。」
ぎこちないヒカルのもの言いにヨウキがクスリと笑うと
それにつられるようにあかりも笑いました。
「いいのですよ。今日はお忍びで来たのですから。」
「お忍び・?」
ヨウキはそういうとあかりが持っていたコートを見ました。
あれはさっきここに入ってきた男が着ていたもの・・では・・。
「ですからすぐ戻らなくてはいけません。」
「ヨウキ様ヒカルにはあの事を話してもいいでしょうか?」
「ええ。あかり一人では私も心配ですもの。」
あかりとヨウキの話に先ほどの事を思い出しヒカルは
つい口を挟んでいた。
「俺 なんかでお役に立てるなら、何でも言ってくれよ。」
純真なヒカルをヨウキはひとめで信用しました。
「実はあかりに急ぎでT国に行ってもらうことになりました。」
「T国へ・・?」
「あなたには事情を話さなければなりませんね。」
ヨウキはそういうと話し出しました。
2週間後に年に一度のお祭りがこの国で執り行われると言うこと。
そしてお祭りの中、王は街へおりたくさんの芝居小屋から一つを選ぶというのです。
王に選ばれたステージは大層盛り上がるそうで、舞台役者や演出家たちは、この日のためと言っても過言ではないほど練習に励んでいるらしい。
ところが座間主宰はヨウキに無理難題を押し付けてきたのです。
そのお祭りで王ヨンハさまから頂いた、この国の国宝のゴ石を身に着けて来いというのです。
国宝のゴ石ときいてサイの顔色が変わった事をヒカルは知りませんでした。
「ゴ石を身につけていくだけでいいなら、無理難題じゃなんいじゃ?」
ヒカルの問いにあかりは首を振りました。
「ヒカル、今ヨウキ様の手元に石はないの。石は・・。」
「T国の楊海公がお持ちです。」
そう言ったのはヨウキ様でした。
ヒカルはなぜT国の楊海公が石を持っているのだろうと
思いましたがその事情には触れてはいけないような気が
しました。
「ヒカルお願いです。私には信頼できるものがあかりしか
おりません。あかりと一緒にT国へ行ってはもらえないでしょうか?」
「もちろんだよ。ヨウキ様、安心してよ。」
それを聞いて安堵したのかヨウキは立ち上がりました。
「私はもう城に戻らなくてはなりません。」
あかりがヨウキの傍についてたつとヨウキが首を振りました。
人目についてはいけないからと・・。
疲れたその横顔にあかりはヨウキの傍にいられない事を
口惜しく思いましたがそんなあかりの肩にヨウキはそっと
手を置きました。
「そうだわ。大事な事を言い忘れていました。私の弟にも
あなたと一緒にT国へ行ってもらうようにお願いしました。
楊海公への書状と一緒に。」
「アキラ様に・・?」
「融通の利かない子ですけどきっと守ってくれると思います。」
あかりはそれを聞いて涙が溢れ出てきました。
ヨウキにとってアキラは城にも出入りを許された唯一と言っていい
程の味方だったのです。
「はい。ヨウキ様しばしのお別れを・・。」
「必ずあいましょう。武運を祈ります。」 |
|
|