続・BOY&GIRL

(GIRL’S SIDE01)








     
今日は塔矢門下の研究会だった。
とはいえ、塔矢先生も遠征。アキラも対局で参加できず。
ヒカルにとってなんとなく居不味い研究会になったのだが。

研究会も終えて早々と自宅に帰ろうとしてヒカルは緒方に声を
掛けられた。


「進藤、アキラくんとは仲直りしたのか?」

「ああ、もうしたよ。」

近頃のアキラの様子から向こうの世界に飛ばされた間も緒方の
おせっかいがあったことはなんとなく知っていた。

「なんだ、したのか。」

その言い方には別の含みもあってヒカルは顔をしかめた。

「今度こそ別れ時だろうと楽しみにしてたんだがな、」

「それは残念だったな。」

「まあ元気がないお前はらしくないからな。」

緒方の言うことはどこまでが本気で冗談なのかヒカルには
わからなかった。
まあ、緒方なりに心配してくれているのだろうとは思うのだが。



「ところで進藤はペア碁には出ないのか?」

「ペア碁ってソリー杯の?」

「ああ、今年は世界大会があるからな。日本代表になれば
世界大会に出場できるのはお前も知ってるだろ?」

「知ってるけど・・・。」

ペア碁は男女ペアで対局する大会だ。
例年はペアはくじで決める事になっているのだが今年は世界大会が
行われることもあってペアは自分たちで組んでもいいことになっていた。

「アキラくんは忙しすぎて組めないんだろう?」

「そうだな、」

ヒカルは緒方に曖昧に返事した。
出来ることならペア碁はアキラと組みたいと思っていた。
だが肝心のアキラは他の棋戦が忙しくてペア碁どころではない。

「だったらオレと組まないか?」

「先生だって忙しいんじゃねえのか?」

「アキラくんほどじゃないさ、それにお前となら日本どころか世界
だって狙えるんじゃないかってな。」

ヒカルはそれに溜息を落とした。

「そういう欲でペアを決めるのはな。」

「そんなことはないだろう。誰だって勝ちたいと思うのは当然だ。
どうせ出場するなら優勝を狙いたいとオレは思うがな。」

緒方の言い分はもっともだった。

「まあ、そうだけど。」

ヒカルは緒方の誘いにあまり気乗りしていなかった。
というのも相手が緒方だとアキラはいい顔をしないだろう。
それにこの申し出を受けるのもアキラへの後ろめたさがある。

それぐらいならクジでペアを決めてもらう方が後腐れなくていい
と思うぐらいだ。

そんなヒカルの心情を知ってか緒方が言った。

「アキラくんだって、お前が活躍するのは嬉しいだろう。」

確かにアキラは世界大会のペア碁の案内があった時に言っていた。
『君の活躍を見てみたい』・・・と。
だがそう言ったアキラの横顔からは本当は「自分と一緒に」という
ニュアンスが含まれていた気がした。


「先生、少し考えさせてくれないかな。」

今ここで即答することだけは避けたいと思った。

「わかった進藤、色好い返事を待ってる。」

緒方はそう言ってヒカルの肩をぽんぽんと叩いた。







アキラが伊角に呼び止められたのは対局も終わった後だった。
伊角はその日は立会人としてアキラの対局にいた。

「塔矢、少し時間をもらえないかな。」

「構いませんが、」

今日の対局者や棋譜係が部屋から退出するのを見送ってから
伊角は話を切り出した。

「塔矢はペア碁には出ないのか?」

それでアキラは大方の見当がついた気がした。

「残念ながら時間を組むのが難しいのです」

「進藤とペアをするわけじゃないんだな。」

「ええ、」

「だったらオレが進藤にペアを申し込んでも構わないだろうか?」

やはりそうかと思うとアキラの心がざわめいた。

以前ヒカルはアキラと付き合う前に
異性として伊角には憧れていたことを仄めかしていた。

アキラだって伊角は礼儀正しく好青年だと思うほどだ。
ヒカルのペアになれば心穏やかでいられるはずがなかった。
だがアキラには止める道理がない。
自身は出場することが出来ないのだから。

それにアキラは先日自身のつまらない嫉妬からヒカルを傷つけ
てしまった経緯もある。

ヒカルには活躍して欲しいとアキラは心から願ってる。
そんな彼女にアキラの我儘や保身で足枷をかけることだけ
はしたくない。


「彼女がそれを受けるなら僕は何も言いません。それに彼女の
活躍は僕も楽しみにしています。」

微かに声が震えた。

「ありがとう。今日にでも進藤に声を掛けてみるよ。」


伊角が立ち去った後アキラは
本当にこれでよかったのかと自身に問うた。

けれどそれ以上何をどう答えればよかったというのだろう。


アキラはため息をついた。
本音はけしてヒカルにいう事は出来ない。
それは自身の弱さだという事をアキラは痛いほど知っていた。

                        



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       ペア碁の公式戦は男女ペアで対局します
       ペアは本来クジで決めるので自分たちで決めると言う
       事はないんですが・・・;
   


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