続・BOY&GIRL

17





※17話は男の子ヒカルのお話になってます
(外見は女の子



     
その日ヒカルが仕事が終わったのは2時前だった。
今から十分間に合うよな?

その足で東京駅に向かって新幹線に飛び乗った。

和谷からメールをもらったのは京都駅を出たころだった。




進藤、塔矢勝ったぜ。これで暫定1位だ。棋譜すぐに
FAXするからな。明日はお前の番だな。頑張れよ。


ヒカルはそのメールを見て焦った。
こんなに早く対局が終わるとは想定外だったのだ。
このメールからすると和谷は大阪にいて棋譜係か解説をやっていた
に違いない。

対局が終わったのなら大阪に行ってもアキラと行き違いになる可能性
があった。


ヒカルはすぐにメールの返信をした。

>報告ありがとうな。まだ塔矢棋院にいるか?

その返事はすぐに来た。

>まだ検討してるぜ。もうちとかかるんじゃねえか、
連絡するならもう少ししてからの方が
いいかもな。


>了解。




返信した後、アキラのアドレスを開いた。
連絡しないと行き違いになってしまうかもしれない。

「対局勝ったんだってな・・・。」

数文字打ったところで手が止まった。
気の利いた言葉が見つからない。


そうこうしているうちに「まもなく大阪に到着」というアナウンスが車内に
流れてヒカルは溜息を吐いて携帯を閉じた。

間に合うだろうか。気持ちだけが空回りして急いているようだった。


大阪について棋院までの道のりを急いだ。

大丈夫、絶対に会える。飛び乗るように棋院のエレベーターに
乗ったのは6時前だった。
棋院に駆け込んだヒカルは受付でかなり注目を浴びた。

「進藤先生どうしたんですか?」

「塔矢・・・いや塔矢プロは・・・。」

受付の人たちが顔を合わせてくすっと笑った。

「先生のご主人はたった今棋院を出たところですよ。
会われませんでしたか?」

「ええっと・・・。」

おそらく2基あるエレベーターの反対側に乗ってすれ違ったのだ思った。

「ありがとう。」

来た道を戻ろうとしたら顔見知りの受付嬢に声をかけられた。

「進藤先生・・・?」

「何?」

エレベーターのボタンもすでに押していて急いでた。でも彼女を
無下にするわけにもいかなかった。

「これ今日の塔矢先生の棋譜です。」

手渡された棋譜をヒカルはありがたく受け取った。

「ありがとう。ごめん、急いでて。今度はゆっくり来るよ。」

彼女は笑った。

「はい、いつでもお待ちしてます。」


ヒカルはエレベーターを降りて駅へと向かった。
と言っても棋院のある梅田はいろいろな鉄道が
網羅していて、アキラがどこに向かったのかなんて
わからなかった。

そもそも今日大阪で対局があって
東京に帰るかさえわからなかった。

人ごみの中でヒカルは足を止めた。相手の位置ナビなんて
のもあるけどそんなので探すよりも本人に直接聞いた方が
今は早い。

ヒカルは携帯を押した。

この1週間連絡しなかったことも躊躇ったメールもこの時全部
消し飛んだ気がした。

3回のコールの後アキラが電話に出た。


「ヒカル?」

「塔矢、お前今どこにいるんだ?」

「大阪で手合いでそれで・・・・。」

「だからどこにいるんだよ。」

ヒカルは大声を上げた。

「心配させてすまない。今大阪駅前の○○ホテルにいる。
明日君とのネット対局はこっちから打つから。
明日の対局が終わったらマンションに帰るよ。」

「それじゃあ間に合わねえんだよ。」

ヒカルは人ごみの中怒鳴った。そうすると数人が振り返った。

「何かあったのか?」

それには応えなかった。

「部屋は何号室だ?」



ヒカルは携帯を切った。今から会うのだから
居場所がわかればそれでいい。

奇しくもホテルは目の前だった。






教えられたホテルの部屋番号をノックしたらすぐに扉が開いた。

「ヒカルどうしてここに?」

「とにかく入るぜ。」

ビジネスホテルの一人部屋だからとにかく狭い。
二人で向かい合うと圧迫感さえ感じるほどだった。

「お前に会うために来たんだ。」

「東京からわざわざ?」

ヒカルはカッとなった。

「お前が何も言わずに急にいなくなるからすげえ心配で、
こんな気持ちのまま明日お前と対局なんて出来ねえから。」

「すまなかった。」

アキラは素直に謝るとヒカルの腕を引いた。ドキッと胸が高鳴った。
アキラがオレを抱き寄せた。
心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかというほどの
距離にヒカルは身構えた。
それでも今はアキラの好きにさせてやろうと思った。


「3、4日1人になりたいって言ったのはオレだから。その・・・。」

「もう君に迷いはないの?」

「正直言うとそれはまだなんだ。けどお前がいないと心配だから。
オレの勝手ばっか言って悪いけど・・・帰ってこいよ。」

ヒカルはアキラの腕をほどいた。
このままここにいると名残惜しくなりそうだった。

「明日の手合いオレ絶対負けねえから。」

部屋を出て行こうとアキラに背を向けた瞬間ヒカルは背後からすごい力で
抱きしめられた。

「と・・・塔や」

抵抗しようとしたがその腕はますます強くなり、ヒカルはぎゅっと目を閉じた。



「君をこうやって抱きしめていても、不安でしょうがないんだ。」

そのまま身近にあったベッドに押し倒され転がった。
アキラに触れたすべてが熱くて全身が震えた。抵抗できない。

でもアキラの不安もわかるんだ。入れ替わってしまったヒカルだって
不安なのだから。


「オレを抱いてもその不安は消えねえよ。
けどオレはお前が好きだ。」

ここにいるアキラを通じて向こうのオレの世界の塔矢に言うつもりで
そういった。
そしてアキラの背にヒカルは自ら手を回した。

「ヒカル・・・。」


唇が重なりベッドに沈む込むようにそのキスが深くなる。
心の中でこのまま元の世界に戻ってくれと必死に祈った。




                                18話へ
   



次の18話で完結予定なんですが、書いてて全然終わりそうな
気がしてないです。予定通りには進んでるんだけどなあ(苦笑)
そんなわけで次回で最終話という予告はしないデス(苦笑)


  


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