続・BOY&GIRL


3




     
ヒカルは自己嫌悪に陥りながら昨夜の塔矢とのキスとそれを重ね合わせ
ていた。
本当は塔矢を渇望していた。
今にして思えばこちらのヒカルが羨ましいとさえ思う。
戻ったら素直に塔矢に伝えられるだろうか?

震えを纏うヒカルにアキラは戸惑いを覚えて唇を離した。

「ヒカル、僕が怖い?」

「怖いってなんで?」

アキラは少し困ったように顔を伏せた。

「僕に触れられるのが怖いんじゃないかって。」

「あの、いや、そういうわけじゃ、」

「ヒカル・・・。」

触れてこようとしたアキラに咄嗟にヒカルは身を引いた。
アキラの行き場のなくした手が指をヒカルは掴むことができなかった。

「あのな、塔矢、」

ヒカルの中にいろいろな感情が渦巻いてごちゃごちゃになる。
何か言わなきゃいけないと思うのに気の利いた台詞がでてこない。

「無理をしなくていい。僕が悪いんだ。昨夜無理やり君を・・・。」

ヒカルはアキラの言葉を聞いて体中火がついたように熱くなった。

それと同時に大方のことはわかったような気がした。
嫉妬したアキラがあいつに強引に行為を強いたのだろう。
なんとなくそういう男の身勝手さはヒカル自身も男だから
わかる気がした。(今は女だが)
それは今朝バスルームで見たヒカルの体に散らばった痕跡も
語っていた。アキラの独占欲の表れのように。

ヒカルが絡むと塔矢は普段の冷静さを失うのはこっちの世界でも
同じらしい。
確かに・・・、アキラには悪いが「怖がってる」ことにしておく方が
無難かもしれなかった。

思案の末ヒカルは小さく「うん。」とだけ頷いた。

アキラの黒い瞳が揺れた。
その瞬間ヒカルはわかってしまった。
ヒカルが思う以上にアキラを傷つけてしまったのだ。

「悪かった。もう2度とあんなことはしない。」

「ええ、ああ・・・うん、」

あいまいに返事を返すとアキラが微笑んだ。

「・・・君は久しぶりの連休だからゆっくりしたらいい。
僕も少し頭を冷やす。」

連休?向こうの自分はアキラと泊まりのイベントに出掛ける仕事
が入っていたのに?

「えっと塔矢はお前は今日は仕事?」

「僕はネット碁北斗オープン戦。今日勝てば 次は君と対局だ。」


ネット碁北斗オープン戦は公式戦とは違うが近年ネット碁が盛んになったことを
受けて企業(スポンサー)が企画したものだ。

離れていても忙しい棋士の時間を補って対局できることと
ファンにリアルタイムで手軽に棋戦を楽しんでもらえると言う利点でこういった
棋戦は広がりつつあった。
向こうのオレも北斗のネットオープンは勝ち進んでいる。
次の準決勝の相手はまだ決まっていないはずだが、塔矢だったらいいなと思う。


「そっか。オレお前と打つの楽しみにしてるからな。絶対今日勝ち上がれよ。」

「わかってる。」

「けど夫婦でネット棋戦対局か。ちっと可笑しいよな。」

「この間もそういってたね。君は。」

「えっ?だってホントにオレ楽しみにしてっからさ。」

返答に困ってヒカルは頭を掻いた。会話をすると誤魔化せなくなることが
多々ありそうだ。やはりここはアキラと少し距離を置く必要がありそうだった。

「あのさ、オレ今日からしばらく家に帰ってもいいかな。」

思いつきも思いつきだった。

「実家に帰るの?しばらくって・・・」

実家と言われるとピンとこないがこちらのヒカルにとってはそうなる。

「うん。」

それもあいまいにするとアキラの瞳が大きく揺れた。先ほど以上に。

「わかった。ゆっくりしてきたらいい。」

後ろめたさやら、アキラに対する申し訳なさがあったがヒカルは少なから
ずほっとしていた。

「塔矢、今日の手合い・・・・」

「絶対勝ち上がるよ。君だけじゃなく僕も楽しみにしているから。」

ヒカルが最後まで言うまえにアキラはそう言った。その瞳にはもう
杞憂はなかった。


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