対局室を出たところで壁に背もたれた進藤と目があった。
「来てたんだ。」
「ああ。」
「今日は卒業式だったんじゃ・・・」
「お前もな。」
悪戯っぽく微笑んだ進藤は制服を着ていた。
式が終わった後そのまま棋院に立ち寄ってくれたのだろうか。
手に持っていた缶ジュースを飲み干すと照れくさそうに
進藤は下をむいた。
「進藤よかったらこれから学校に付き合ってくれないか。」
「ひょっとして卒業証書をもらいにいくのか?」
「うん。7時までなら校長先生が学校にいるといっていたんだ。」
「かまわねえけど・・・お前そのカッコでいくの?」
僕はリーグ戦だったこともあってスーツを着ていた。
これでもまずくはないと思うのだが・・・・
「塔矢 俺たち学校通うのも今日で最後なんだぜ。
制服着ていけよ。」
「でも今から家に寄ると遅くなるよ。」
「7時までなんだろ?俺はかまわないからさ。」
一旦進藤に付きあってもらって家に帰って・・・。
「すまない。待たせて・・」
「いいって、俺が言い出したことだからさ。」
珍しくもないだろう僕の制服姿に進藤が照れた笑みを
浮かべて僕はわざわざ着替えに戻ったのも悪くはなかっ
たと思った。
日もすっかり落ちた
海王の門をくぐり、桜の芽も膨らんできた校庭を二人ならんで
歩いて・・・だが職員室に入る手前で進藤が足を止めた。
「進藤?」
「俺は部外者だからさ、ここで待ってる。」
職員室で僕を迎え入れてくれたのはユン先生だった。
「塔矢くん 対局お疲れ様。
先ほどまで校長先生いらしたんだけどね。急用ができて、
帰られたんだ。君に会えなくて残念だと仰っていたよ。」
「いえ。僕の方こそ遅くなってしまって・・・」
「君にはいつでも学校に遊びに来るようにと、是非海王
囲碁部員の指導碁を頼みたいと言っておられたよ。」
「えっ?はい。ありがとうございます。」
それには曖昧に答えて僕はユン先生から卒業証書を受け取ると
職員室を後にした。
少し 気が抜けたような・・・。
職員室から出ると進藤は廊下から暗がりの校舎を眺めていた。
「塔矢早かったな。」
「校長先生おられなかったんだ、」
「そっか。ところで塔矢、海王の体育館ってどこ?」
「この先を左に曲がった奥だけど。」
「だったらさ・・・」
進藤はいきなり僕の手を掴むと廊下を走り出した。
「進藤 一体どうしたんだ?」
「いいから来いって!」
体育館の前まで来て二人で息をつくと進藤がおもむろに体育館の扉に
手を掛けた、が幸いな事に扉には鍵がかかっており・・・。
「進藤!?」
「やっぱダメか・・・」
「君は一体何を考えてるんだ!!」
「だって、もうここにも来る事ないんだぜ。探検しとかないとな。」
冗談半分でそう言った進藤はまだ諦めていないのか
頭ほどの高さにある体育館の窓に手を伸ばす。
「進藤 いい加減にするんだ!」
僕の言う事など聞く耳をもたない進藤は片っ端から窓に手を
掛けて・・・。
やがて・・・・まるで宝箱の
鍵でも見つけたようにうれしそうに笑った。
「塔矢 ほら ここ開いてる!」
言うが早いか窓を開けよじ登って真っ暗な体育館へと
入ってしまった進藤が暗がりから僕に手招きする。
「お前も来いって。」
「僕はこんな所から・・・」
「つべこべ言わねえの。ほら卒業証書持っててやるからさ。」
進藤は半ば 強引に卒業証書の入った筒を僕から取り上げると
早くこいとばかりに暗がりから即す。
どうして君といるとこういうことになるのだろう。
僕はしょうがないなとつぶやいて、窓によじ上って
体育館に飛び降りた瞬間、真っ暗だった体育館に灯りがついた。
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