dqay
y

卒業


(後編)





     
「塔矢 見てみろよ。」

体育館は昼間 卒業式をした時のままなのだろう。
来賓席も卒業生の席も 垂れ幕も 壇の上に飾られた花も
そのままにされていた。

体育館の真ん中にできた花道を進藤はゆっくりと
歩き出したので僕もその後を追った。

進藤はそのまま階段をのぼって壇の上まで上り、躊躇している僕に
「うん」っと咳払いをして筒の中の卒業証書をひろげた。



「塔矢 アキラ殿」

僕が動かないでいると
「上がってこいよ!!」と進藤に怒鳴られた。

壇をはさんで君の向かいに立つと進藤は照れくさそうにへへ
と鼻を鳴らして、卒業証書を読みはじめた。

「塔矢 アキラ

あなたは・・・・」

棒読みの進藤に笑いが出そうになったが進藤はいたって真剣で
僕はそれになんとか堪えた。

「ごめん。塔矢これ何ってよむの。」

小さく聞いてきた進藤に堪えていた笑いが口元から漏れた。

「ぎょうだよ。」





読み終えた進藤から僕は卒業証書を受け取る。

たった二人だけの卒業式なのに神聖で照れくさくて温かくて、
君の気持ちに僕は不覚にも涙がでそうになった。

それは君も同じなのだろうか。
恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる君の瞳は
明かりのせいか潤んで見えた。




「俺たち もう卒業したらもう学校に通う事もないんだな。」

「そうだね。でも僕の進む道に卒業はないんだ。僕はずっと棋士の
道をこの道を歩き続ける。」

「お前だけじゃないぜ。俺だってな。」

進藤は 壇の上から軽くジャンプすると僕を振り返ってそして
階段から降りようとした僕に悪戯っぽく笑った。

「お前も そこからジャンプしろよ。」


仕方なく君のあとを飛び降りて僕はなんだか
可笑しくなって笑った。

僕はいつも君に翻弄される。でもそうやってかわっていく僕も
悪くないと思っている。




ようやく満足したのか、ご機嫌な進藤が う〜んと大きく伸びをする。

「ああ 俺腹減った!!」

「僕もだよ。」

「お前 今日昼飯ちゃんと食ったか?」

「いや食べなかったけど。」

「お前な〜飯抜くのいいかげんやめろよな。」

悪態をつく進藤に僕はある提案をした。

「進藤 これから食事にいかないか?つきあわせてしまったし
何かご馳走するよ。」

「割り勘でいいって。俺もプロだしな。」

「でもここまでつきあわせてしまったから・・・。」

「俺もお前を付き合わせたからいいよ
でもお前がそういってくれるなら・・・」

そういって進藤は視線を泳がせた。

「何?」

「あっ、やっぱ いい。」

「言いかけて ずるいな。」

たいしたことじゃないからっと言い訳するように言った進藤に
僕は語気を強めた。

「そんな風に言われたら余計に気になるだろう!!」

困ったようにうつむいた進藤が小さく口ごもった。

「塔矢はその・・・制服どうするのかなって思ってさ。」

「制服?」

聞き返した僕に進藤は耳まで真っ赤にさせて言い繕う。

「何でもない!なんでもないって。ホントに何でもないからな・・・」

そんな表情をされて そんな事を言われたらわかって
しまったじゃないか。

僕は小さく息を吐き出すと制服の上着を脱いで君に手渡した。


「洗濯した方がよかっただろうか。」

「えっいや このままでいい。」

消え入りそうな声をだして、進藤が逃げるように体育館の窓を
よじ登ろうとしたので僕はその背に呼び止めた。

「進藤 制服を脱いだら寒くなったんだ。よかったら
僕も君の学ランをもらえないかな。」



よじ登りかけた窓を降りて進藤は困った表情で学ランの釦に
指を掛けた。

視線に困って僕も目を逸らす。

「これ・・」

僕の顔さえ見ずに手渡された学ランに腕を通した。

「お前に小さくねえ?」

「大丈夫だよ。それにとっても温かい。」

これ以上ないほどに顔を真っ赤にさせた君をかわいいなどと
いったら怒鳴られるだろうか。
それとも今なら許してもらえるだろうか。


もう1度窓にむかった進藤に僕は体育館の電気を切った。

進藤がひるんだすきに彼の腕を胸に引き寄せていた。
不謹慎だとも思うより先に僕の体の方が行動を起して
いた。


伝わってくる進藤の体の震えに想いを重ねるように僕は彼の唇に
それを落とした。


「バ・・・」

一瞬の硬直の後 
逃げるように窓によじ登った進藤を僕も慌てて追った。


「待って。進藤!」

後から追いかける僕を振り返りもせず進藤は廊下を早足で掛けた。
「塔矢のバカ!」と何度も口ごもる君の顔は耳まで真っ赤になっていて
僕はそれに苦笑した。


「進藤ラーメンでも食べにいかないか?緒方さんにこの間美味しい店を
教えてもらったんだ。」

一瞬えっ?という顔をして進藤が僕を振り返る。
が、君はこれ以上ないというほど盛大に頬を染めて。




「お前その服似合わないぜ!!」




僕は噴出すとそっと進藤の指を握り締めた。。




その手は振り払われなかった。





END



     



このお話はたぶん以前サイトで上げてなかったと思うので
PCの底からひっぱり出してきました。季節はずれですが・・。


  


碁部屋へ