SAI〜 この手が君に届くまで 23




お話少しさかのぼってます。


倉田が和谷の部屋を出た後、芦原が待っていた。


「倉田さん!!」

血相を変えて待っていた芦原に倉田はしーっと人差し指を立てた。
和谷に気づかれるわけにはいかなかった。

「芦原覚悟はできてるか?」

芦原はごくりと唾を飲み込むと頷いた。

今回の一件は堕天使対策本部や上層部にも伝わっていた。
組織が特に目をつけたのは塔矢アキラだった。
アキラを重要参考人として出頭要請してきたが倉田はそれを拒否した。
組織とこの学園の協定関係は曖昧なものだった。

堕天使に対抗する組織として互いがその存在を認めてはいたが彼らは
候補生の能力を異端視していた。
サイの存在も(極秘事項ではあるがもともとは堕天使の兵器だったということも含めて)
彼らは否定的でその存在を容認してはいない。

そんな連中と組めるわけがないというのが倉田の持論であり、学園は独自の
判断と、どこにも属さない組織として成り立っていた。

だが・・。今回ばかりは分が悪かった。
アキラの出頭を跳ね返したあと、今度は国連を通じて倉田と芦原が呼び出されたのだ。

これ以上アキラをかばうのは容易なことではない。
だが・・それでもアキラを引き出すのは仲間を売るも同じことだった。







和谷が異変に気づいたのはそれから数時間後。
学園のこんな偏狭に人の気配がしたからだ。
どんなに悲しい時でもそういった異変に気づいてしまうのは能力者としての本能
が働いてしまうせいだろうか?

耳を済ませると同じクラスの能力者の越智と本田の声が微かにした。

「あの塔矢が本当に裏切るなんて・・。」

「僕はあいつは昔からそういうやつだと思ってたさ。」

「し〜っ気配を消せ、・・」

その後も何人もの候補生の気配が通り過ぎた。気配は殺しているが
仲間だから探ればわかる。
和谷は2人が話していた会話が気になって部屋から飛び出した。

「何かあったのか?」

候補生の表情には戸惑いがあった。

「塔矢が裏切ったんだ。今あいつのいる部屋に伊角さんを殺した
堕天使がいる。」

「なんだって!!」

「指令と芦原さんは国連本部に向かっていていないんだ。」


そう和谷に言ったフクは震えていた。候補生といってもまだ堕天使と直接対峙してないものも沢山いた。そんな弱気なフクにオチが怒鳴った。

「伊角さんの仇だろ!!それに指令のかわりに研究所の座間所長がいる。」

候補生たちはそれで余計に黙りこくった。座間は学園と組織を繋ぐ
パイプ役という名目でよく学園に訪れたが候補生からはあまりいい
印象はなかった。

座間はマッドサイエンティストだという噂があった。
候補生の身体能力を測ると言っては研究所で検体にしようとしているのではない
かというようなうわさが絶えずあったのだ。

だが、堕天使の能力や攻撃パターンをどこよりも早く解析してデータ化して
送ってくるのもこの研究所だった。重ねてサイと司令室を結ぶニューロンを
開発したのも座間研究所だ。

立ち止まって戸惑う候補生たちの後ろから座間が姿を現せその後ろには
軍の特殊部隊が控えていた。

「君らが臆するのも無理はない。だが、私に任せれば大丈夫だ。」


和谷は昔からアキラが好きではなかった。虫が合わないのだ。
だが仲間として信じたかった。サイに載ったときにあいつが言った言葉も、あいつ自身の行動も含めて裏切りではないと思いたかった。

和谷はその目で確かめる為に候補生の合間をぬって、アキラのいる独房に乗り込んだ。




・・だがアキラと抱き合っていたのは忘れもしない伊角を殺した堕天使だった。




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