SAI〜 この手が君に届くまで 24






アキラは夢を見ていた。

『これでもうサイとオレはずっと一緒だ。』

ヒカルは笑っていたがアキラは胸が張り裂けそうだった。

『ヒカル・・ごめんなさい。私はこんなつもりではなかった。』

『いいんだ。なんだかすごく温かい。』

サイのすすり泣く声にヒカルは慌てた。

『バカ、サイ泣くなよ。オレお前に泣かれるとどうしていいかわからないだろ?
それにオレは幸せだぜ。』

ヒカルは本当に幸せそうに笑った。

『もう2度とこの手に抱きしめることが出来なくても。』

ああ。だからもう泣くなよ。アキラ・・。」


最後の声だけは妙にリアルだった。
アキラが目を覚ましたのはあれから丸二日たっていた。
アキラはまだ独房室の中だったがそこには和谷がいた。
アキラの体に布団がかかっていたから和谷くんが掛けてくれたものなのかもしれない。

「和谷くん?」

和谷はなんだか居心地悪そうだった。

「なかなか目を覚まさねえから心配したんだぜ。」

「こんな僕でも心配してくれるのか?」

「勘違いすんな。お前の事もあの堕天使のことも許したわけじゃねえ。
けどな・・。」

それでアキラは慌てて布団から飛び起きた。

「ヒカルは・・。」

言ってからアキラは口ごもった。
和谷は呆れたようにため息をついた。

「お前って優等生だって思ってたけど本当はめちゃくちゃ単純なやつ
だったんだな。」

アキラは和谷のいつもの嫌味には聞こえなかった。

「あいつは今、座間研究所にいるよ。検体にされてるらしい。」

「なっ・・。」

座間はマッドサイエンティストというので有名だった。
堕天使の構造は今もなお解析できていない。彼らの構造や弱点の分析
というのが建て前だろうがヒカルが研究所で人として扱われることはないだろう。





「それに近く処刑されちまうって話だ。」

「何だって!!」

今にも飛び出していきそうなアキラを和谷は呼び止めた。

「待てよ。お前一人で何が出来る?!」

「例えそうだとしても僕は行かなければならないんだ。」

「だから待てっていってるだろ!!」

忠告も聞かずに飛び出そうとしたアキラに和谷は声を荒げた。

「オレが・・オレたちが手伝ってやるよ。」

アキラは驚いて足を止めた。

「でも・・和谷くん・・僕は。」

「それ以上言うな。何度も言うようにオレはお前を許したわけじゃねえ。
けど伊角さんが・・・伊角さんがお前を理解してやれって言ったんだ。
それにあいつ。・・・お前を巻き込ませねえようにあの時ワザとあんな事したんじゃねえのか?」

アキラが小さく頷くと和谷は自身を言い聞かせるように言った。

「・・伊角さんの頼みだから・・・。」

その名を口にするたび和谷の声は上擦る。まるで今にも泣き出しそうに。
それにアキラは胸が締め付けられた。

しめっぽくなった空気を吹き飛ばすように和谷は乾いた声で笑った。

「そうと決まれば急がねえとな。」

和谷は小型マイクを取り出すと電源を入れた。

「どうだ?ナセ?イイジマさんは?」

「準備万端よ。でもやっぱりあそこは結界がかなり強い。和谷の方はどう?」

「ああ、塔矢が目え覚めた。今から連れてくから進めててくれ。」

「了解!!」

元気のいいナセの声が途絶えると和谷はアキラに目配せした。

「悪いけど説明は歩きながらな。」




和谷の説明では、アキラを空間移動装置で研究所に直接転送させるという事だった。
だが相手はあの座間研究所だ。研究所の周りには堕天使の攻撃や進入
をも無効化する装置が張り巡らされているはずだ。
当然能力者だって同じことだ。




「倉田さんや芦原さんがいない今、オレたちが思いつく手段はこれしかなかったんだ。」

アキラが指令室に入ると転送装置にはサイの交換用部品で作られた
小型のバイクが置いてあった。
それだけではない。司令室にはテレポーターのナセ、イイジマ、ヤシロ
メカニックのホンダそしてフクイ。
BクラスCクラスのメンバーまでが集まっていた。
みんな伊角を慕っていた候補生だ。

「塔矢くんあの時はごめんね。全員は説得出来なかったけど他の候補生も今回のことは
見ぬふりしてくれるって。」

ナセの・・・みんなの好意にアキラは胸が溢れそうになった。


アキラが小型のバイクに乗り込むと和谷が言った。

「そうそう、あの堕天使が処刑されるって情報くれたのはオチなんだ。」

「オチくんが?」

オチの父親は上層部の管理者の一人だ。だからか人一倍負けず嫌いで、プライドが
高い。よく嫌味もいうが本当は仲間思いなのだということをみんな知っていた。
本人はそういわれるのを嫌ってはいるが・・。

「本当はサイで出撃したらあんな施設簡単にぶっ飛ばせるんだろうけどな・・。」

和谷は冗談っぽくそういうと笑った。

「その間に堕天使の攻撃にあったらまずいからな。」

その気持ちだけでアキラは十分だった。
そうこうしてるうちに整備は整い転送装置にはテレポーター能力者
3人が囲んだ。
本来サイに転送させるなら能力者は必要ないのだが
場所が場所だけに万全を考えてのことだ。
アキラの周りを3人のオーラが包んだ。

アキラは候補生全員の顔をぐるっと見回した。

「ありがとう。僕はみんなになんと言っていいか・・。」

その先の言葉を和谷は言わせなかった。

「いいよ。礼なんて・・。塔矢くたばるなよ!!」






                                            25話へ


ラスト2話で完結します。よかったらもうしばらくお付き合いくださいね。