SAI〜 この手が君に届くまで 20
和谷とアキラはサイに搭乗したままその時が来るのは 待った。
堕天使が現れたと連絡が入ったのはその後まもなくの事だった。
報告のあった場にたどり着くとそこには機械操縦にも乗らず 単身で地上に立つ天使がいた。
「あいつ・・この間の候補生じゃねえか?」
ヒカルを見た瞬間胸がドクンと大きな音を立て凍てついたアキラの心には
和谷の声は届いてはいなかった。
「・・・やっぱり君だったのか?」
震える声でアキラはコックピット越しに彼に呼びかけた ヒカルはこのサイを相手に無防備な姿だった。
流石の堕天使でもサイになんの装備もないまま勝てるはずはない。
彼はもとより戦う気などないのではないのか?
アキラは自身のコックピットをあけた。冷たい空気がアキラの頬をつきさした。
「おい、塔矢お前なに考えてる?今のうちにあいつを・・。」
和谷の怒鳴り声も無視してなおもアキラはヒカルに近づいた。 その瞬間ヒカルの背の羽が大きく羽ばたいた。
アキラの顔面に閃光が迫った。
「危ない!!」
和谷が機転を利かせてサイを上昇させる。 コックピットが開いたままのアキラは気圧の急変化とスピードに 体がついていかず悲鳴を上げた。
「はやくコックピットをしめろ。塔矢、お前なに考えてんだ!! 大体どういうことなんだよ。あいつこの間のやつだろう?」
怒鳴り声を上げた和谷にアキラはようやく答えた。
「彼は操られているだけだ。」
出任せを言って誤魔化せる相手でないことはアキラが一番わかってる。 だが今はすべてを説明できる状況ではない。
「けどあいつの翼は本物だぜ。」
「それでも僕は彼を救いたい。彼は僕の大切な人なんだ。」
最後の方は声というよりアキラの想いが直接和谷に流れ込んできた。 【大切な人・・・】
和谷は先日から倉田にアキラの監視命令されてたことの意味が
ようやくわかったような気がした。
「だからってお前にあいつを止める術があるのか!?」
あれは伊角が予知ビジョンでみた堕天使だと和谷は直感でかんじていた。
あいつが伊角さんの命を奪うやつかもしれねえんだ。
和谷の憎悪のオーラがこれ以上なく高まった瞬間サイを通じて繋がっていたアキラと和谷
の精神合体が解けた。 お互いを信用できないパートナーにとって当然ともいえる状況だ。
結果突然体と肉体がバラバラになったような感覚に陥り2人の思考と肉体はぐらつき
多大な負担が掛かることになった。
「くそ〜!!てめえ。」
和谷はそれでもヒカルに突進していった。 いや、突進したつもりだったがサイはまるで小さな子供のようにつんのめって 転倒した。
転んだ先には煙を出す小さな工場と倉庫がどこまでも続いていた。
「みろよ。人間はこんな所までも汚したんだ。」
もともとは人も住めないような不毛の地、それでも住む場所がなくなり開拓する場所がなくなった人間はこの地に住む生き物を殺戮し自身の場所にしてしまったのだ。
絶句した2人にヒカルは尚も言葉を続けた。
「お前らサイと一緒にオレの糧になれよ。そして全部いなくなっちまえ。」
倒れこんだままの和谷のコックピットにヒカルは迷うことなく破壊の閃光 を放った。
和谷は自身の命が絶滅することを悟って目を閉じた。その時和谷の体の周りを
温かい光が包んだ。
『えっ?』
目を開けると自身の体は透けてワープゾーンに入ろうとしていた。 コックピットには代わりに伊角が座っていた。
『なぜ?』
驚愕に震える和谷に伊角が微笑んだ。
「間に合ってよかっ・・・。」
伊角が閃光とともに消えたのと和谷がワープしたのはほぼ同時だった。
「伊角さん!!」
和谷の絶叫が司令室にこだました。
21話へ
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大好きな伊角さんが死んでしまう設定なんて・・自身で書いててもかなりきついです。
でもここまで書いたからには書き上げます。予定では年中に完結予定。
続きが気になる方はブログが先行してます。よかったらそちらも覗いてみてくださいね。