SAI〜 この手が君に届くまで 19
19話は少しお話遡って書いています。
司令室の前に倉田がいた。
「指令?!」
「オレは気が短いんだ。あんまし待たせんなよ。」
伊角と和谷は顔を見合わせた。
「でも俺たち呼ばれたわけじゃねえし襲撃でもあったのか?」
「いや、でもこれからあるんだろ?」
倉田の問いに伊角は短く頷いた。
「だったら急げ。」
倉田に習って司令室に入ると更にモニターはサイと連動して動いていた。
「それで、伊角、場所はわかるのか?」
「そこまでは・・。工場の多い寒い地帯だったことだけはわかります。
ただ今回の堕天使の狙いはサイにあるような気がします。
オレの見た予知が正しければ、堕天使は人には手を出さない。」
「そうなのか?」
「あくまでオレの予知のビジョンなのでなんとも言えませんが。」
話していると指令室の扉が突然開いた。
「急ぎだったのでノックもせず申し訳ありません。」
顔を出したのはアキラだった。
急ぎというわりに丁寧に敬礼をするとアキラは司令室に入った。
「おう、塔矢、待ってたぜ。」
「奇襲でもないのにこんな時間に何かあったのですか?」
「ああ。今晩あいつらの奇襲があるらしい。伊角の予知だけどな。
詳しくはお前から塔矢に話してやってくれ。」
伊角は頷くとアキラに目配せした。
「詳しくといってもオレの予知能力も当てにならないんだけどな。
堕天使今回の狙いはどうやらサイのようなんだ。だから
人には手出しをしてこないと思う。」
「それでその堕天使はサイの破壊が目的なのですか?」
「オレの受けた感じではサイというより候補生だな。」
「候補生??」
「ああ。パイロット候補生の命。」
それに和谷が険しい表情をしたがそれに構わず伊角は言葉を続けた。
「それに相手の堕天使はまだ子供のようだった。」
「堕天使の子供?!」
アキラは息を飲むと伊角を凝視した。
伊角は何も言わなかったがアキラの動揺に気づいたようだった。
「ああ。和谷や塔矢と変わらないぐらいの歳ごろだ。」
アキラはその堕天使の容姿を聞き出したかったがそれを必死で押さえた。
「指令、僕に出撃させて頂けませんか?」
倉田はアキラを見据えると「そのつもりで呼んだ。」と肩をガシっと
叩いて言葉を続けた。
「そして伊角も。予知で見たのならそいつの攻撃パターンあらかた
わかるだろう?」
「はい。」
「だったら塔矢と伊角に今回の出撃を・・・。」
倉田が言い終わる前にそれを制したのは和谷だった。
「待ってください!!」
「指令、オレに行かせてください!!」
「和谷くんが・・?」
そう聞き返したのはアキラだった。
「けど・・和谷おまえは・・。」
倉田も和谷の志願に渋い顔をした。
和谷とアキラの相性はすこぶる悪い。能力としては決して悪いというわけではないのだが和谷はエリートで常に成績のいいアキラに対して強いライバル意識を
持っていた。
もっともコレは一方的に和谷が思っているだけのもので当のアキラは
気にもとめていなかったが。
「大丈夫です。お願いです。オレに行かせてください。」
倉田が腕を組んでアキラをチラっとみた。
「僕は構いませんよ。」
「あいつらの狙いがお前らの命だったとしてもか?」
「もとより堕天使との戦いは死と背中合わせです。
僕らはいつも精一杯やれるだけのことをやるだけです。」
アキラはそういったが心の中は別のものに囚われていた。
相手はヒカルかもしれないのだ。
彼と戦うかもしれない・・・そう思うと胸が千切れそうだったが
それでも他の者に出陣を譲る気はさらさらなかった。
ヒカルに会えるかもしれない。どんな形であろうとも。
彼でなければいいのに・・という願いとどんな形であろうと彼に会いたいという
両極端の感情がアキラの中に渦巻いく。
今のアキラにとってパートナーは伊角であろうと和谷だろうとかわりないことだった。
「わかった。だったら塔矢と和谷に任せる。出陣の準備に入れ。
伊角、他の候補生も起こして来い。お前はサポートに入ってもらう。」
「はい!!」
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次回伊角さんと和谷、そしてアキラとヒカルの想いが戦場で交差します。そして・・・とうとう・・。