SAI〜 この手が君に届くまで 13






ヒカルの話は驚くことばかりだった。

堕天使たちは人から得た精気を自身の体内に蓄え蓄積することができ、
そして唇を合わせることで相手へと分け与えることが出来るというのだ。

僕は先ほどヒカルから精気を受け取らなくてよかったと思った。
仮に体が回復したとしてもそれは人から得たものなのだ。

「オレはまだ子供だからさ、人間狩りはやらせてもらえなくて
いつもオガタさんから精気を分けてもらってる。」

「オガタさん、じゃあその人と・・・」

ヒカルはその人と先ほどしたようなあんなキスをしているということ。

僕はそれがヒカルが生きてく為に必要な行為だったとしても激しく嫉妬してしま
いそうだった。
ヒカルが可笑しそうにケラケラ笑った。

「お前ら羽なしってキスってことに過剰に反応するのな?それともお前だけ?
面白え〜。」

僕の感情を読み取ったヒカルは笑いながらそういったけど
僕のこの感情は治まりそうにはなかった。

「君が精気をもらうのはその人だけなのか?方法はそれしかないのか?」

「ウ〜ん。方法はまあ体を合わせるのもあるかな。
オガタさんはオレの許婚だし他のやつからもらったことはねえな。」

「体をあわせる??それに許婚って!?」

僕は聞き間違いかと思ってヒカルに問うとヒカルはなんだか罰が悪そうに
下を向いた。

「しょうがねえだろ。オレだって好き好んで許婚になったわけじゃないんだって。でも生殖器を持ってる天使は今オレとオガタさんぐれえだから・・
子孫を絶やしちゃいけないってクワバラ爺が勝手に許婚にしたんだ。」

僕がますます驚いたのは言うまでもなかった

「オガタさんという人は女性なのか?」

「ううん。オレもオガタさんも男。」

男同士で子孫を残す?
ますます堕天使の構造がわからなくなって僕は頭が痛くなりそうだった。
そしておそらくはそれを聞いても僕には理解することは出来ないだろうと思った。

ただヒカルの話でわかったのは人と堕天使族は体の構造も精神も全く違うと
いうことだ。

そういえば学園のデーターに天使たちの寿命は何千年にも及ぶので
はないかというものがあった。彼も見た目は少年だが本当はもっと歳が
行っているのかもしれない。

僕が考えに耽っているとヒカルがぽつりと言った

「もともとさ、サイはオガタさんの許婚だったんだ。」

僕は以前みたビジョンを思い出していた。
そういえばあの時彼もそんな事を言っていた。

「オレにはよくわかんねえけどオガタさんはまだサイを想ってるような気がする。」

「君はオガタさんという人のことが好きなのか?」

「嫌いじゃねえけど好きってのとも違うな。
ただオレサイの事どうしても知りたかったんだ。
誰に聞いても教えてくれねえし、なんで天使をオガタさんを裏切ったのかって。」

サイが裏切ったのはヒカル(彼ではなく前世のヒカル)と一緒に生きるためだと
いうことを僕は知っていた。
だがそれを言い出だすことは出来なかった。

僕にはどうしようもないことだと知りながら、サイにもそのオガタという堕天使にも嫉妬せずにはいられなかった。
突然湧き上がった衝動に駆られて僕はヒカルを抱き寄せた。

なぜだろう。
こうしていると先日サイに一緒に載った時のように心も体も彼と重なって行く気がする。
そしてもっと強くこうしていたいと僕のすべてが欲していた。

ヒカルが小さく身じろいだが僕はそのまま彼を抱きしめ続けた。
そうするとヒカルもおずおずと僕の背に腕を伸ばした。

「オレサイに載った時から思ってたんだけど
アキラ・・お前ってすげえ懐かしい感じがする。」

懐かしい・・・その言葉になぜか僕の胸が震えた。

「君は知ってる?
人間がキスしたり体をあわせるのは君たち天使とは違う
意味があるんだ。」

「へえ〜どんな?」

「食欲と睡眠を除くすべての欲求を満たす。僕は君とそういうことがしたい。」





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