SAI〜 この手が君に届くまで 14






「オレはいいぜ。」

ヒカルは拒否しなかった。
おそらくその行為がどういうものだか知らないというのもあっただろうし、
人のする行為に好奇心があったのかもしれない。

欲をいえば彼もそうやって僕を求めてくれたらと思う。
だが、育った環境も体の構造さえ違う人間と堕天使ではそれは無理というものだ。

僕は彼の唇に軽くそれを落とすとすぐに離した。

「これで終わり?」

不服そうに言われて僕は苦笑した。

「どんな感じだった?」

「う〜ん、短すぎてよくわかんなかった。」

「だったらもっとしてみよう。だけど、君の精気はいらない。
君が欲しいなら僕の精気をあげるけど・・。」

「体力の落ちてるお前の精気なんて食わねえって。」

念を押しただけのことだったが僕は彼になら精気を吸われても
いいと思ったのは本当だ。

今度は彼の顎を軽く持ち上げた。
唇が薄く開いてまるで誘われるように僕は唇を押し付けた。

先ほどより長いキス。
自然に舌が絡み合い、その瞬間全身に電流が流れたような気がした。
僕は貪欲になってく感覚に任せて彼を強く抱き寄せた。

荒くなったヒカルの吐息が口内に伝わりますます僕を熱くさせていく。

『ヒカル・・』

『アキラ』

精神内で互い名を呼び合うとそれはエスカレートしていった。
体を硬くするヒカルの服の中に指を入れようといた時、突然
サイレンの音が響き渡った。

堕天使たちの奇襲。
こんな時に・・。

名残惜しさは残ったが僕が彼を解放した。
ヒカルは高揚した表情を残していた。

「またムラカミさんだ。」

「そうなのか?」

「うん、波動を感じる。」

僕は彼を見据えると口早に言った。

「ヒカル、僕が戻ってくるまでここにいて欲しい。」

「けど・・。あいつらは・・。」

「わかってる。」

僕は静かにそういうと彼をじっと見つめた。
彼ならば僕の奥底にある気持ちを読み取ってくれるのではないかと。



けたたましいサイレンの音にせかされて僕が彼に背向けたとき
ヒカルが僕を呼び止めた。

「お前はオレをこっち側に引き込もうと思ってるのか?」

迷いはなかった。

「うん。そのつもりだ。」

「オレもサイのように裏切れってのか。」

「君が人の側についてくれるというなら僕の精気を
あげるよ。」

「バカ、お前それどういうことか知らねえから・・。」

「知ってるよ。」

僕は微笑んだ。そうやって彼の中で生きられるならそれもいいって
思ったんだ。
ヒカルは崩れ落ちそうな表情をしていたけど。

「んなのできるわけないだろ?」

ヒカルはそういって僕を見据えたあとぽつりと言った。

「オレはお前を俺たちの方にひっぱり込もうと思ってたんだけどな。
お前は人間よりも天使に近い。」

「それはどういう意味?」

その時、ケタタマシイサイレンに続き『候補生』の呼び出しが
かかった。

「塔矢アキラ・・・すぐに司令室に来てください。」

まだ病み上がりの自分がサイの搭乗メンバーになるとは
思わなかったが召集は絶対である。
僕は後ろ髪惹かれるような思いでヒカルをもう1度みた。

「この話は後で・・君はここで待ってて。すぐに戻るから。」






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