SAI〜 この手が君に届くまで 5




広角映像から送られてきたビジョンは無人の廃墟だった。

「人、助からなかったのか?」

映像を読み取ったのだろうヒカルのつぶやきに僕は自身をも
勇気付けるように言った。

「地下の防空基地に避難している。」

そのはずだ。

だが、この惨状では街は壊滅状態。命が助かっても復興にはかなりの時間が
かかる。それでも命があるなら希望は生まれる。
だが命が奪われ何もかもが間に合わなかったのだとすればそれはサイの出動が
遅れたからだ。

サイは降下しながら街のビジョンを次から次へと映し出す。
それは数コンマ1秒という速さでパイロットの脳に送られてくる。
それらを頼りに堕天使たちの居場所を割り出す。

「いた!!ヒカル北緯33° 西経180° 南北に走る首都の主要高速を
北上している。」

サイが映し出した堕天使の数はたったの一人だった。他に反応を探して
みるがそれらしい姿は見当たらない。
だがその天使は何か得体のしれない影のようなものを無数に連れていた。

「えっ??なんだよそれっ?ってあっあいつら!!」

ヒカルも居場所がわかったのだろう。

僕が最終地点の目標を定めようとした時
突然サイの力が急速に膨れ上がった。

「くそ〜ムラカミさんかよ。
それにアレは人の影に入って精神だけ壊しちまうあやつり天使じゃねえか。
たくあいつら・・・オレがこっち来てる時に好き勝手やりやがって!!」

僕はヒカルの言った意味を瞬時に理解することが出来なかった。
なぜ彼に敵の能力が理解できるのか?

彼にはテレポートだけでなくテレパスの能力や他にも
能力が備わっているというのだろうか?
それはかなり特異な能力だがサイに搭乗して目覚める力もあるというから
ありえないわけではない。
だがそれにしては不自然な感じがする。

僕がそんなことを考えてる間にもヒカルの力はますます膨れ上がっていく。

「うああああ!!!」

ヒカルの甲高い叫びが響きそれに呼応するようにサイの力が暴走しはじめた。

全身が張り裂けてしまいそうなほどの力がサイの中で渦巻いてる。
必死にサイのコントロールを試みるが全身は金縛りにあったように動かない。

これがサイを媒介したヒカルの力だというのか?

「いやああああ・・。」

ヒカルの悲鳴はますます激しくなって僕は動かない両腕を気力で微かに持ち上げた。
これほどの力なら一撃でしとめられるかもしれない。
ただし制御できればの話だが・・。


「ヒカルもう少し堪えてくれ・・・あとは僕が・・・」

なんとかする・・・』
その言葉は体に流れこんでくるすさまじいほどの感覚にのまれて発することが
できなかった。

微かに動いた右手で僕はサイとヒカルの力を相乗するが
添えた左手が震えてコントロールがなかなか定まらない。
『頼む僕の言うことを聞いてくれ!!』

そうしてる間に影の集団がサイを取り込もうと迫ってくる。
その影が一点に集中した瞬間僕は腕を壊れんばかりに振り上げた。

「うおおお〜そこだ!!!!」

サイから放たれたオーラは一瞬にして影をなぎ倒し空へと舞い上がった。
まるで荒野の空に花火をあげたように光は分散されやがて消えていった。



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緋色のつぶやき

北緯33° 西経180°には街はないです。おそらく太平洋の真ん中じゃないかな〜と(笑)
そして4話に続きこの二人怪しいです(笑)展開は至ってシリアスなんだけどなあ〜(苦笑い)